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23「これをジュースにすることは可能か!」

「こ、これはっ」


 目の前には篭に盛られた赤く瑞々しい実。見間違うはずもない。俺の命の源、トマトジュースの主原料であるトマトではないか!


 ないと思っていた。ここは地球ではない。似たような物はあっても【トマト】はないと。


 俺はトマトが好きだ。正確にはトマトから作られたトマトジュースが。トマトジュースは俺の命の源、いや、心のオアシス。ぶっちゃけ血よりも好きだ。トマトジュースがなければ俺は死ぬ。体じゃなくて心が。


 いままではいろんなことがありすぎて、トマトジュースのことを考える暇もなかった。だが、こうして目にしてしまえば飲みたいという欲求が、あとからあとから沸いてくる。


 俺は震える手でトマト(仮)を掴みユフィを振り返った。


「すまないが、これをジュースにすることは可能か!」


 俺の剣幕に押されてか、ユフィは一瞬ビクッと肩を震わせたが、すぐに立ち直り首を傾げた。


「マトの実をジュースに? 聞いたことないわね。マトの実はスープの材料に使ったり、ソースにしたりするのが一般的よ。もちろんそのままでも食べられるけど」


 ガッデーム!! ジュースはなかった! だが、名は知れたぞ。マトの実か。トマトとは一字違いだな。


「これを一つもらってもいいか?」


「ええ、いいわよ。もともと採れたて野菜を食べてもらおうと思って持ってきたものだから」


 俺はユフィの許可をもらい、マトの実を一つ手に取り思いっきりかじりついた。瑞々しい食感に舌に感じるやさしい甘み。これは地球の高級トマトに匹敵する旨さじゃないだろうか。クッ、これをジュースにできたらどれほど幸せなことか。



『クロ兄、煮込んで作るトマトジュースのレシピ見つけちゃった。今度作ってあげるね』



 ふと、美羽の声が脳内に再生された。あれは、そうだ。召喚される一週間前、ネットでレシピを検索していた美羽が、俺に言ってくれた言葉ーー。


 と、いうことはだ。美羽がいればトマトジュースを作れる可能性があると。ふ、ふふ、これは早々に二人を見つけださねば。待っていろよ! 明、美羽(特に美羽)! 必ず見つけだしてやるからな!


 決意を新たに俺は残りのマトの実を口に放り込んだ。






「さあ、さあ、お腹が空いたでしょう。どうぞ好きなだけ食べて」


 採れたて野菜で作られたスープを渡される。名前はわからないが、ジャガイモっぽいものニンジンっぽいもの、とにかく多くの野菜が入っていた。味付けは塩のみだが、野菜のエキスがしみだしていてとても美味い。そこにパンをつけて食べればなお美味い。


 今度はマトの実のスープも食べてみたいと思う。女将に言ったら用意してくれるだろうか。


「クロムさん、クロムさん、私たくさんテトモを掘ったんですよ!」


 嬉しそうに午前中のことを報告してくるティル。テトモが何かわからないが、頑張ったことはよくわかる。顔と服に土汚れがついているからな。


「そうか、頑張ったんだな」


 俺はティルの顔についた汚れを服の袖で拭いてやる。こんなに汚れるまでやるとはどれだけ一生懸命だったのだろう。


「ティルちゃんがたくさん働いてくれたおかげで助かったわぁ。テトモもだけど、他の野菜の収穫も早く終わりそうよ」


「柵の修繕もだよ。自分でやろうにも直す所が広範囲だったからね。クロム君が依頼を受けてくれて助かった。手際も良くて、もう直してしまったしね」


 アルベルトもユフィもずいぶんと年をとっているようだし、やはり体を使う作業は堪えるのだろう。俺たちに感謝の言葉をのべるが、野菜の収穫も柵の修繕も依頼として受けたのだから、やるのは当たり前だ。


 だが、二人の嬉しそうな姿を見ていると、こちらとしてもなんだか嬉しくなる。ティルも同じ気持ちのようで、ニコニコ笑っていた。


「クロム君の受けてくれた依頼はこれで終了だね。依頼書を貸してくれるかい」


 アイテムボックスから取り出した依頼書を渡すと、アルベルトはそれを受け取り小屋の中へと入っていった。時間にして五分程度たった頃、戻ってきたアルベルトは俺に依頼書を差し出してくる。


「依頼完了のサインをいれておいたよ。今日はご苦労様」


「ああ、ーーそういえば疑問だったのだが、柵があんな派手に壊れた原因に心当たりはあるのか?」


 あるのならその原因を排除しなければ、また同じことが繰り返されるのは目に見えている。アルベルトは少し考える素振りを見せたのち


「見たわけではないけど、たぶんフォレストボア辺りの仕業だと思うんだ。野菜が荒らされた形跡があったし」


 と語った。


「荒らされた?」


 不穏なその言葉に俺はぴくりと反応した。


 荒らされた、荒らされただと? どこの、どこの野菜がやられたんだ。まさか、マトの実畑ではないだろうな? もし、そうならやった奴を血祭りにあげる必要がある。


「どの野菜がやられたんだ?」


 俺の体から発せられる禍々しいオーラ。目は据わり、人一人殺しそうな雰囲気満点だ。


「テトモ畑だね。だけど荒らされたといっても本当にわずかなんだ。いくつかの実が食い荒らされただけで」


 アルベルトは俺の様子など気にせず、のほほんと語っている。そこに焦りの色はない。大事に育てた野菜が、わずかとはいえ食い荒らされたというのに暢気過ぎないか。


 そうアルベルトに言えば、困ったような笑みを返された。

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