22「こちらの依頼を受けたんだが……」
「ここが依頼のあった農家か」
「そうみたいですね」
突然だが、俺たちはいま依頼のあった農家のもとを訪れていた。ここに来たのは俺、ティル、ルビーの二人と一匹のみ。オールはいない。オールはオールで別の用事があるらしく、別行動となっている。まぁ、Fランクの依頼にBランクがついてくるのもいかがなものかと思っていたので、ちょうどよかったのかもしれない。
オールとは宿の前で別れ、俺たちは農家の場所を街の人に訊きつつ、なんとか無事にたどり着いていた。
ラウルスの西区にある広大な農業地帯。その一角に目当ての農家はあった。目の前に広がる野菜畑に圧倒されながら、俺たちはその横に申し訳程度に建てられた小屋に足を進める。
小屋の前には老夫婦らしき男女がいて、何やら収穫の準備をしていた。
「すまない、アルベルト·リバーというのはあなたか? こちらの依頼を受けたんだが……」
俺が男のほうに声をかけると、男は準備の手を止め見返してきた。
「ああ、依頼を受けてくれたんだね。私がアルベルトだ。こっちは妻のユフィ」
「よろしくね。可愛い子が来てくれてとても嬉しいわ」
まるで孫を見るような目で、ユフィはティルを見ておりやさしく微笑んでいる。
「あ、あの、ティルです。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。ちょうどいまから野菜の収穫に行くところだったの。さっそくで悪いけど、ティルちゃん、お願いしてもいいかしら」
「はい!」
ティルはユフィを手伝い準備を進めていく。きっとこれまでも何人もの見習いたちが、この依頼を受けたんだろう。ユフィも慣れたもので、ティルに分かりやすく使う道具の説明をしている。
「さて、君のほうは収穫の手伝いじゃなさそうだね。とすると柵の修繕の依頼を受けてくれたのかな」
「ああ、そうだ。それと名乗るのが遅れたが、俺の名はクロムという」
「クロム君だね、では君はこっちだ」
アルベルトが歩き出す。俺は一度、ティルのほうに視線を向け、問題ないのを確認してから後を追った。
side:ティル
「うわあ、すごいです」
私はいま、ユフィさんに連れられ畑にやってきました。畑は何個もあり、場所によって育てている野菜が違うようです。だって大きな葉っぱが繁っている畑や赤い実がたくさん生っている畑があるんです。
「じゃあ、ティルちゃんにはテトモの収穫をお願いしようかしら」
テトモ! 知ってます。スラム時代よく食べていたお芋です。芽が出ている部分は毒があるから食べちゃだめってお母さんが言っていたのを覚えています。でも私たちが食べるテトモは、芽も出ていましたが、半分腐ってもいました。
あの頃を思い出し気分が落ち込みましたが、いまは依頼中。依頼に集中しなくてはなりません。
ユフィさんが収穫方法を説明してくれます。私は言われたとおり、まずテトモの葉っぱの周りを手で掘り、それから力いっぱい引っ張りました。するとテトモの実が地中からごろごろ出てくるではありませんか。
驚く私にユフィさんは篭を持ってきて、ここに入れるよう言ってくれます。
「私はあっちを収穫してくるから、ここはティルちゃんに任せてもいい?」
「はい、お任せください」
「それじゃあ、お願いね」
ユフィさんが別の畑に行くのを見送り、私は隣にいたルビーを見ました。
「ルビー、がんばろうね」
『おうよ。オレっちが土を掘るからご主人は葉っぱを引っ張ってくれ』
さっそく掘り出すルビーですが、そういえばここに来てから一言もしゃべっていないことに気づきました。
昨日の宿の女将さんの話では、しゃべる従魔は珍しいとのこと。もしかしてルビーはユフィさんたちを驚かせないように、気をつかってくれたのかもしれません。本当に私には勿体ないやさしい従魔です。
ルビーが次々土を掘っていく中、私も一生懸命葉っぱを引っ張りテトモを収穫しました。それはユフィさんがお昼だと呼びに来てくれるまで続いたのです。
「君にはここの柵の修繕をお願いするよ」
「……これはまた、派手に壊れているな」
目の前の柵は粉々に砕けていた。まるで何か巨大なものがぶつかったかのようだ。
ここが地球だったら元凶は猪辺りが定番なのだが、ここは異世界。一体、何がぶつかればこのようになるのか。
この場に残る魔力の残滓で、だいたいの予想はつくが、それを告げる気はない。俺が受けた依頼内容は、柵の修繕であって柵を破壊した元凶を探ることではないのだから。
「道具と材料はここに置いてあるから」
「任せておけ」
アルベルトが去っていき、俺はさっそく修繕にとりかかった。破損した部分はノコギリで切り落とし、木材を組み合わせて釘を打っていく。
柵の修繕など俺にとっては朝飯前だ。それこそ地球にいた時は、日曜大工にのめり込み過ぎてログハウスを建ててしまったくらいだからな。
永きを生きる俺にとって、退屈とは死と同義。退屈をまぎらわせるために、流行りものには一通り手を出した。もちろん、合う合わないはあったが、物作りは俺に合っていたらしい。
基本、魔術ですべてを作ってしまうので、自らの手で産み出すという行為は、とても新鮮に感じられたのだ。明たちの夏休みの工作も手伝ったし、狩谷家の細々とした修繕は、ここ数年俺の担当だったしな。
そんなこんなで柵の修繕は終了した。そのあとはアルベルトが昼だと呼びにくるまで、他の場所の壊れかかった柵を直していた。




