21「ティルに魔法を覚えてもらう」
騒がしかった食事を終え、俺たちは部屋へと戻った。ティルとルビーには俺たちの部屋へ来てもらい、いまはベッドの上で寛いでいる。
「ちょっとした騒ぎはあったが、夕食には大満足だったな。明日からの食事も楽しみだ」
「そうですね、私もあんな美味しい料理、初めて食べました」
俺の言葉にティルがにこにこと応えた。その様子はとてもリラックスしているようで、見ているこちらも自然と笑顔になる。
ただオールだけが微妙な表情をして「ちょっとした騒ぎ?」と呟いていたが。
人をぶん投げるだけだったのだ。ちょっとした騒ぎだろう。別に殺したわけじゃないんだし。けど、それをオールに言うと面倒くさそうだから言わないがな。
「さて、食事も済ませたし、あとは寝るだけなんだが、ここで一つだけ用事を済ませておきたいと思う」
「用事?」
「ああ、今日買ったスクロールを使ってティルに魔法を覚えてもらう」
俺はアイテムボックスから三つのスクロールを取り出した。テーブルに並べるとティルが近寄ってくる。使用する本人だからか気になっているようで、指でつついたりしている。
「クロム、明日以降ではだめなのか?」
「いや、本来はいつでもいいんだが、覚えるなら早いほうがいい。例え使わなくても魔力回路に刻まれた魔法はどんどん使う者の魔力に馴染んでいく。馴染めば馴染んだだけ、魔法と魔力の繋がりは強くなり、それに伴い発動時間の短縮などといった恩恵が受けられる、こともある」
「こともある?」
「まぁ、必ずしもそうというわけではない。実際問題、魔法と魔力が馴染むにはかなり長い時間がかかるからな。だが、早く覚えておいても損はないからな」
「そういうものか。ーーだが、クロム、一ついいか。魔力回路とはなんだ?」
「ん?」
「俺には魔法の知識がないからお前が言っていることはよくわからなかったが、その魔力回路? というのは初めて聞いたな。魔法とは詠唱と魔力、あと術者のイメージで発動されるものだろう」
「んん?」
俺は首を傾げた。オールが言ったことはまぁ合っているが、それは初歩の初歩だ。確かに魔法は使えるが、やはり魔力回路を意識して使うほうが威力が高い。ただ、それは地球でのことで、この世界では違うのかもしれない。
だいたいにして魔素濃度からして地球とは比べ物にならないくらい濃いのだ。魔法を発動するための魔力を外部から補うことも容易いだろうし。
もしかしたらこの世界の人間は魔力回路すら持っていないのかもしれない。
これは余計なことは言わないほうがいいと俺は思った。この世界の当たり前に異物を混ぜないほうがお互いのためなのだ。
俺はオールに、魔力回路とは俺たち魔物が持つ独自の器官だと説明した。魔物と人間では魔法を行使する過程が違うとなんとか納得してもらう。
「……とにかくティルには魔法を覚えてもらおう。まずは火魔法から」
「これを開けばいいんですか?」
巻物型のスクロールを受け取ったティルは、紐を解きぱらりと開いた。するとスクロールが淡く輝くが、それはすぐに消えてしまう。
ーー火魔法、【ファイヤーボール】を取得しました。
ーー火魔法、【ファイヤーレジスト】を取得しました。
「!? わっ、何か声が聞こえました!」
驚くティルに、俺は「声?」と首を傾げる。
「それは【世界の声】だな。スキル取得時などに聞こえてくる。もちろん本人にしか聞こえないが」
「ふーん、ティルなんと聞こえたんだ?」
「えっと、【ファイヤーボール】と【ファイヤーレジスト】を取得しましたって」
俺は鑑定を発動させた。確かにティルのスキル欄に、火魔法である【ファイヤーボール】と【ファイヤーレジスト】が追加されている。
「なるほど、……しかし便利だな。スキルを取得すると教えてくれるのか。よし、ティル、次はこれだ」
残り二つのスクロールを渡し、魔法を覚えてもらう。鑑定は発動したままで、スキル欄に魔法が追加されるのを確認していると、一つだけおかしな表示になっているものがあった。他は黒文字なのに、そこだけくすんだ灰色をしている。
どういうことだろうか。俺がその文字を凝視すると詳しい説明が表示される。
【フレアサークル】 火魔法Lv.5で使用可能。
む、レベル制限か。これは中級の火魔法だったな。スクロールで覚えることはできても、レベルを上げなければ使うことはできないか。
「あの、クロムさん、どうしたんですか?」
俺が無言で宙を睨んでいたからか、ティルが不安そうに声をかけてきた。俺は一度鑑定を止め、視線をティルに戻す。
「いや、ちょっと鑑定していてな。スクロール分の魔法はすべて覚えていた。ただ、中級魔法の【フレアサークル】だけは、火魔法のレベルが5にならなければ使えないようだ」
「なるほど、レベル制限か」
「そうだ。まぁ、当分は初級魔法だけで大丈夫だろ。レベルが上がる頃には、他の魔法も覚えているだろうし」
何しろレベル上げの環境は整っているのだ。冒険者ギルドで討伐依頼を受ければレベルも上がるし、金も手に入る。一石二鳥だ。
「よし、ティルも魔法を覚えたことだし、今日はもう寝るか。明日は依頼をこなさないといけないしな」
「はい」
こうして俺たちの一日は終わった。




