トランキライザー①
学園モノと見せ掛けて、組織モノ。
珍しい力を持つ少女の話。
世界には特別なチカラを持った人間が存在する。火を操る者、遠くを見れる者、未来や過去を見る者、瞬間移動が出来る者、傷を癒す者。それは才能などでは手に入らない。それは、生まれながら神様より与えられた贈り物だからだ。
人の体は遅くても12歳までにそのチカラを開花させる。そうして全国で四ヶ所ある学園に入学を許可され、卒業となる18歳まで学園に所属するようになる。学園から外に出ることは出来ない。親にも会うことが出来ない箱庭は、人身売買や人体実験する組織に誘拐されないように保護するためであり、また力が暴走しないように監視されているためだからである。
「ーー私を呼ぶんだから、それ相応のことがあるんですよねぇ?」
「まあ入ってきて座れや。話はそれから」
私もまたその箱庭の生徒の一人。ただっ広い部屋、理事長室に私は来ていた。部屋の奥に座るダークスーツの男は、紫煙を燻らせながら私をソファーへ促し、理事長はヤクザさながらの厳つい顔で私の前に座った。
「みぃちゃん、天凰寺の次男坊のこと知ってるよな?」
「学園に入学しないまま、特別班に呼ばれたってことなら」
「あながち間違ってはないが、うちの役員共が入学を拒否したんだよ。チカラが大きい分、野放しにするわけにも行かず、特別班の一之瀬が引き取った」
「へー。役員が拒否したって言っても、理事長自身も拒否されたので?甥っ子さんは、チカラが大きすぎて制御もままならないと聞いてますが」
天凰寺とは、チカラを持った人間をたくさん輩出し、様々な功績を挙げ続ける古くからある名家だ。ちなみに、理事長の実家。理事長の弟さんが当主をしていて、次期当主は学園に在学中の長男坊に決まっている。
「俺が可愛い可愛い甥っ子を拒否すると思うか?あ?」
「そんな厳つい顔で言われても。理事長の甥っ子姪っ子への愛情深い話は有名ですけど。じゃあなんですか、役員たちが勝手にしたと?」
「そうだ。俺が出張に出ている間に、勝手にしてやがった!他の学園にも手回し済みでな!あの役員共、俺の可愛い甥っ子を拒否しやがった!」
「…あちゃー。馬鹿な役員ですねぇ。賢い選択とは言えませんけど、理事長の甥っ子さんも制御が…」
「あぁ。危惧するのも分かる。分かるが、理事長の俺に何も言わずだぞ?半殺しにした」
「はあ。で、私が呼ばれたのって何でですか?その甥っ子さんの待遇への愚痴を聞かせるためですか?」
「違うけどお前さ、俺を何だと思ってんの?理事長よ?ちっとは敬意を見せろや」
「だったら、早く本題に入ってくださいよ。私、授業遅れるんで」
「陽妃の妹だからって甘やかしたらこれかよ…」
「姉さんの婚約者だからって、私がへーへー頭下げると思います?」
「くそが」
悪態をついたあと、理事長はタバコを灰皿で潰した。お前もこうするぞってか。そんな脅し効くとでも?姉さんにチクるぞこのヤロー。
「はいはい。それで、何ですか?」
「覚えとけよクソガキが。今日付けでお前を、神々廻 瑞妃を特別班に異動させる」
「…っは?」
意味が、分からない。なんで私が、特別班に行かなきゃならないの?全然話が掴めない。
「義父上と義母上の了解済みだ。今夜、一之瀬が迎えに来るから荷物をまとめておけよ」
「はぁぁぁあああ?ちょっと待って、直也さん!意味が分からない!なんで私が、えっ、異動?卒業は?!」
「異動だ異動。卒業もさせてやるから、とりあえず特別班に行ってくれや」
「ちゃんと説明して!」
「ふー…。実はな、みぃちゃん。甥っ子、真紘は特別班でも引きこもっている」
「えっ、引きこもり?もう私と同い年でしたよね?もう何年も引きこもりしてるんですか?」
「いや、最近引きこもりだしてな。まぁ、引きこもらざるおえないんだよ」
また新しいタバコに火を付けた理事長は、大きくタバコを吸い込んだ。一気に燃えていくタバコ。天井に吐き出された紫煙。いくら婚約者の妹だからって、仮にも生徒だ。目の前で吸うなよ。私が教師たちに喫煙を疑われるじゃないか。
「なんで?制御が出来ないなら、制御アクセサリーとかあるでしょう?」
「あんなもん、真紘を前にしたら意味を成さん。感情ひとつでぶっ壊れるし、元々制御が得意じゃねぇんだからな」
「それじゃあ、今までどうしてたんですか?引きこもりっぱなし?」
「いや、今まで普通に過ごしてたよ。制御アクセサリーを目一杯着けてな。だがアイツが可笑しくなったのは、ちょうど1ヶ月前からか」
曰く、世話を焼いてくれていた女性先輩が目の前で死んだらしい。それは任務中の出来事で、なんとか残りの任務は甥っ子さんが片付けたらしいが、目の前で亡くなったことが余程堪えたのだという。今は結界の張られた部屋で閉じ籠っているとかなんとか。
「それで、何で私に?カウンセリングもセラピーも出来ませんけど」
「制御なしでアイツに触れれるのはお前しかいないんだよ、瑞妃」
「…制御なしでね。でも結局は、カウンセリング紛いをしろってことでしょ?」
「カウンセリングまでしてくれとは言わん。ただ、アイツと会って話をして欲しい。欲を言えば、制御がまともに出来るようになってくれたら良いんだが、高望みはしねぇよ」
「…ふぅん。私にメリットはある?」
「天凰寺との繋がり、とか」
「私がそんなものに興味あると思うの?」
「思わねぇよ。神々廻家からしたら、俺と陽妃との婚姻でパイプは出来るしな。何が欲しい?」
「ーー…」
結局、私は理事長からの強制的お願いを受け入れることにした。対等対価とまではいかずとも、それなりの望みを伝えて、私は理事長室を出る。このまま、授業は出ず寮に戻って特別班に行く為に荷造りをするつもりだ。理事長にも伝えてあるし、その方が良いだろうと言われた。
神々廻 瑞妃。チカラは、チカラを無効化すること。世界で唯一、神々廻家の女性だけが持てるチカラで、姉や母もこのチカラだ。とても珍しいチカラで、自分で言うのもなんだが希少価値がかなり高い。だからなのか、チカラの強い男を伴侶とする傾向がある。守ってもらわなきゃ、捕まえられて終わるし。
父の実家は、古来から戦闘要員として特別班の母体である組織を率いている家のひとつ。父自身、現在も現役で母を連れて仕事に飛び回っている。父のチカラは、火を操るものだ。めっちゃ強い、らしい。仕事中の父は見たことないから、想像でしかないけど。母にデレッデレな父しか知らない。
姉もまた、理事長である直也さんと婚約している。直也さんは、天凰寺家でも三本指に入る実力者だそう。チカラは風を操るもの。三十歳ながらも学園の理事を勤め、学園を守護している。直也さんもまた、姉にデレッデレで見てる方が恥ずかしくなる。目の前でイチャつく姉たちを、私は砂糖をゲロゲロ吐きながら見ていた。
私もあんな相手が居るんだろうか。運命の伴侶ってうちの家では言ってるんだけど、母さん曰く会った瞬間ビビっと来るんだとか。というか、チカラに惚れるんだって。人間を好きになるのは、その次らしい。
神々廻家は名家でありながら、血を外に出さないし分家を持たない。古くから続くただの家族ってだけなんだけどね。それは、特別のチカラを神々廻家だけが有する為。根っからの女家系でもあるから男児が生まれることはなかった、んだよねぇ。でも時代は流れ行くもので、母さんの妹に男の子が生まれたのだ。時代に適応したんだろうって父さんは言っていた。
そして、神々廻家で無効化のチカラを持つのは私で最後だろうとも。姉さんに子供が生まれたとしても、もう無効化のチカラを持たないらしい。別に神々廻家はチカラに固執してないから、時代は流れるんだよねぇってことで話は済んでいる。神々廻家はそんなものだ。
「学園に未練はなし、とりあえず向こうでも頑張るかあ」
神々廻家最後の無効化を持つ私を狙う輩は多い。アホみたいに、バカみたいに。どうにかこうにか周りに助けてもらいながら生き延びてきて、私は今を生きている。




