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春の花はいつ咲くか④

ーーたぶん、それからだったと思う。藤月と香月からも、息子と婚約しないかと言う手紙が届き始めたのは。






「ーーしないわよ、結婚なんて」






藤月にも香月にも私の兄妹はいる。だから、婚約も結婚しない。私が神月の息子から上から目線の婚約を申し込まれたのを知っていて、藤月も香月も婚約を申し込んできたのだろう。






「馬鹿ねぇ。ほんと」





私を馬鹿にしているのだろうか。届く手紙は読まずに破いてから燃やしている。こうしたら少しだけ心が晴れるのだ。私のなかで燻り続けている、理解出来ない感情。モヤモヤと気持ち悪く存在している。






「…さ、今日も1日頑張るかなあ」






借りている部屋から出て、私は職場に向かう。職種に厭いをしなければ、私でも問題なく就職し働くことが出来た。と言っても変な職種ではない。ちゃんとした職場ーー軍の駐屯所の医務室で、私は働いている。何を思って此処にしたのか。私自身、分からなかった。






ただ救いなのが、神月さんや神城さんたちが街から離れた本部に居ると言うことだ。此処には居ないのが、救いなのである。






「壱沙ちゃん、おはよーさん」





「おはようございます。今日もよろしくお願いします」





医務室勤務の軍医、紗瑛(さえ)さんは山ほどある書類を片付けていた。軍医でありながら、何故かこの駐屯所の事務仕事までする紗瑛さんは凄い。脳筋ばかりの駐屯所だからなのか、事務仕事はかなり苦手としている。






そして、その事務仕事を紗瑛さんから引き継ぐのが私の仕事なのである。事務仕事は得意だし、紗瑛さんは好い人だし、とにかく毎日楽しく過ごせている。





「ねえ、壱沙ちゃん」





「はい?」





「悪いけど、本部に届け物に行ってもらえないかな?」





「…はい?」





「ほんっとにごめんね。だけど、私は手が離せないの。葵君…神城さんに届けてくれたら良いの」





お願い!と紗瑛さんは手を合わせて頭を下げた。紗瑛さんが忙しいのも、手が離せないのも分かる。だから、部下の私が行くしかないんだけれどーー





「良いですけど、私が行っても大丈夫ですか?質問とか返せなくて、予算を削られたりしません?」





「それはないわ!大丈夫、神城さんに書類を渡すだけだから。もし予算が削られることになっても、また私が取り戻しに行くから!」





「じゃあ、行ってきます。お昼には戻れるかと思うので」





「今日明日と急ぎの仕事はないから、ゆっくりで大丈夫よー」






茶色の封筒を預かって、私は名残惜しく駐屯所を出た。これから街を一望できる程の小高い丘の上にある軍本部へ向かう。遠いよなー。マジで遠い。





ガタガタと車に揺られること10分。本部が見えてきた。大きな門扉の威圧感は凄まじく、それだけでも大陸最強を漂わせる。





「こんにちは、神城副隊長はいらっしゃいますか?」





「副隊長なら執務室に居ますよ」





「ありがとう」





門扉をくぐり、本部に足を踏み入れる。執務室かあ。なんかやだなー。その辺の人に渡して帰ることも出来ないし。うだうだ言っても仕方ないけどさ、言わせてほしい。






「失礼します、珠乃(たまの)軍医より書類を預かって参りました」






「紗瑛から?どうぞー」






ノックして、いざ出陣。不思議そうな声は聞かなかったことにする。あぁ、やだなあ。そう思う私は、なかなか潔くなれない。






「あり?壱沙ちゃん?」





「こんにちは。紗瑛さんから書類を預かって来ました」





「お使いかい?ありがとう」





「紗瑛さん、今忙しくて代わりに私が」






部屋の奥に座る人には気付かないふり(・・)をして、私は簡易軍服の神城さんに封筒を渡した。夜会で見た軍服よりシンプルだなあ。






「ーー大和、これ」





「あぁ」





「では、私はこの辺でーー」





「あ、待って壱沙ちゃん!お昼食べて行かない?」





「はっ?」





うっかり部屋の奥を見て(認識し)、やっぱりな!とか思わない思わない。気付かない知らない見てない。にんまりと笑う神城さんは、私を帰す気はなさそうだった。






「食堂あるから、一緒に行こう。あ、それまでこれしてほしいんだけど」





「…は、」





渡されたのは、書類の束。冊子にしてとホッチキスも渡された。疑問符も拒否権はなかった。なんでだろう。被害妄想ではない筈だ。






パッチン、パッチン。ホッチキスを留める音が響く執務室。無言で黙々と仕事をする私たち。神城さんも神月さんは時折会話があるけど仕事の話しかない。地味な絵面。いや、居るのは美形二人だけど。地味な絵面。二回目だけど。





「ーーねえ、壱沙ちゃん」





「何ですか?」





「神月のお爺さんとは、いつから知り合いなの?」





「…お爺様と知り合ったのは5年前です。引ったくりから助けて、知り合いになりました」





「……ん?引ったくりから助けてもらったの?」





「私()助けました。武芸を嗜んでいたので怪我もなかったのですが、女なのに無茶をするなと怒られたのがきっかけでしょうか」





懐かしい。もう5年も経つ。神月のお爺様からの紹介で香月や藤月と知り合った。香月や藤月の人たちは、私が瀬良と知りながらも良くしてくれた。お爺様は兄妹を売り込んだと言ったが、私は何もしていない。香月や藤月が、兄妹の良さを知ってくれたのだ。





「武道も出来るのかい?そういや、零士も並外れた運動神経をしているけど」





「自衛の為に少しだけ齧っただけですが」





「凄いね」






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