春の花はいつ咲くか②
終結は呆気なかった。またもや使用人総出で呆れたぐらいだ。やっぱり父親は馬鹿だったというのを改めて実感した。
私は一足先に夜会から帰宅して、使用人たちに号令を出した。荷物も全部運びだし新菜の所に置かせてもらって、家の中が本当に空っぽになった所に父親が真っ赤な顔をして帰って来た。総出で迎え、リビングに案内しぽつんと一脚だけ残しておいた椅子に座らせた私は、執事長の手助けのもと椅子ごと父親を縛り付けたのだ。
驚きすぎて言葉も出なかったのか、パクパクと口だけが動いていた。言うならば、馬鹿野郎。俺を誰だと思っているんだというぐらいか。近くの侍女に言ったら鼻で笑われた。
「さて、ここに貴方がなさった悪事すべてが記されています。ちなみにこちらは複写したものなので破いても煮ても焼いても無意味です。原本は先ほど早馬にてお城へ提出いたしました。言い逃れは無用です」
「何のことだ!」
「知らないフリをなさるならそれで結構。今日この日をもって瀬良家は没落し貴族の号も返却します。あ、貴方は何も案ずることはありません。手筈は私が責任を持って行いましたから」
藤月の次代様にその辺のことすべて記した封書を出しているし、本当に今日で最後になる。余談だけど、私が父親に声を掛けた折に、そうだねもう止めようかとさえ言っておけばこうはならなかった。
「お前!由緒正しき名家の瀬良を貶めるつもりか!!」
「ーーお黙りなさい!!その由緒正しき瀬良を貶める行為をしていたのは貴方の方です!」
アルコールで赤らんでいた顔が、怒りによって赤らんでいく。ガタガタと縛られている身を捩り煩い。舌打ちを一つ。眉間に皺が寄る。私の肩を執事長が叩いた。お迎えが参りました、と。
「お城からお迎えが来たそうです。貴方に何の罰が掛かろうとも、私たち兄妹は何も関与致しません」
「なっ!!お前っ、私をどうするつもりだ!!」
「王に裁いてもらうのです。それ私たち瀬良家が王族に出来る唯一の贖いです」
「王が裁く筈がない!お前、こんなこと許されると思っているのか!!」
「貴方を差し出すのが、唯一の贖いだと言っているでしょう?別に私は貴方に許しを乞う必要はないですし」
嘗ての王妃たちの生家がこんな終末を迎えるとは。王に恥と言われるかもしれない。それでも、それでも、隠さずに公正に裁いてもらわなければならない。今後、瀬良の様に付け上がる貴族が出てくるかもしれないから、見せしめとして断罪をしてくれと頼んだ。
「まあ王には、心から申し訳ないと思ってます。こんな下らないことに時間を割いていただけたのですから」
「なぜ、お前ごときに!」
「まあ二度と会わないので、教えて差し上げます。私ら第二王子とは旧友なんです。で、零士は第二王子の護衛。私や零士のメンツに関わることだからと、王は頷いてくださったのです」
王には恩着せがましく言われたけどなー。むかついたけど、セフィスになだめられた。でも、元はと言えばうちの一族の失態だから今回ばかりは大人しく引き下がったけれど。
「ま、こんな無駄話した所で意味はないですけどね。執事長、お迎えに来られた方々をお通しして」
「かしこまりました」
「壱沙!!お前たちをここまで育ててやったのは誰だ!!」
「あー…まだ言うの?観念しなさいよ。アンタには育てられた覚えなんかない。私たち兄妹を育ててくれたのは、母と使用人の彼等だわ」
「本当に呆れた人ですね、壱沙様」
「先代ご当主のお祖父様が嘆いていた通りでございました。まことに無念で堪りません」
泣き崩れたのは年老いた使用人たち。この家に仕えて五十年になるところだ、と涙声で語ってくれたのは二日ほど前だ。どうせなら死ぬまで仕えたかったとまで言ってくれた。
「よろしいでしょうか?」
「どうぞ。その椅子ごとでかまいません。使い終わりましたら、焼くなり捨てるなりしていただければと思います」
「この椅子は当主だけが座れる椅子では?」
「瀬良は没落するのです。そんな椅子など不要ですわ。さ、多少手荒くてもかまいません、お願いいたしますね」
ーーーこうして、呆気なく瀬良家は幕を閉じた。
後の兄妹の反応は様々だった。零士曰く『アレは、国王にも醜態を晒した。ほんっとうに情けない。俺たちが憐れだとさえ言われている。早く遠くにやってほしい』と忌々しそうに言っていたし、新菜からは『期待こそすれ、絶望もないわ。だって、あの人だもの。まあ、無事に瀬良家が没落したことだしお祝いしましょ』と、晴れやかににこやかに私に言った。
兄も妹も、そして私も。父親には迷惑しか掛けられていない。だから、当然のことながら温情のひとつさえもないのだ。故に、父親が辺境に流されることが決まっても、私たちは何も思うことなどなかった。




