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道を極めて何と為す

親がヤクザならその子供は?

良かれと思って手を離したのに、自分で足を突っ込んでいた娘の話





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







十数年ぶりに地元に戻ってきた。月に一度しか会えない父に誘われて、ホイホイ戻ってきてしまった。何故、後悔が滲んでいるかって?






自分が暖かいことに気付いて目が覚めたら、昔一緒に過ごした少年が男になって、横で気持ち良さそうに寝ていたからだよ!!何だよこれ。何でだよ。






千藤せんどう 紫眞しまは、テレビやパソコンで見かけるより、なんか顔色が悪いしやつれている。あれ、まさか放送する前に、補正でもかけてんのか。噂には聞いていたが、こんなに顔色が酷いとは。






地元に戻ってきた早々、まだ私が住むところを決めてないと父さんに言われて、父さんが寝泊まりするだけのマンションに荷物を運び込んだのが、確か今日の昼。アパートは決めなくて良いからって言われたから、全く探していなかったのが裏目に出たな。死ねクソ親父。それから、荷物や仕事の整理とかをしたりして、あれ。可笑しいな?






「記憶がない、」





仕事が一息ついたから、昼寝をした先から記憶がない。何はともあれ現状を把握しなければ。横で気持ち良さそうに眠る紫眞はともかく、此処は何処で、今は何時なのか。薄明かりのなか、目を凝らして壁の時計を読み解く。6時。薄暗さを考えれば、多分夜の6時だろう。もうじき春が来るが、今日は雲が分厚くて天気が悪かった。





溜め息をひとつ吐いて、私は死んでいる様に眠る紫眞の頭を撫でた。さらさらの黒髪だけは、いつまで経っても変わらないらしい。





とりあえず、私を連れてきた張本人を探しに行くか。ベッドから降りて、いつの間にか着せられていた着物を正す。ソファーにかけられていた羽織を羽織って、テーブルにあった私のヘアクリップで髪をまとめあげる。なんで、昼寝する前まで使っていたヘアクリップまであるんだよ。つか、誰が私を着替えさせたんだ。





「よし、こんなもんか」






広々とした廊下に出てみた。静まり返っているけど、ちゃんと人の気配がある。正面には日本庭園。池も、それに架かった赤い橋も懐かしい。あぁ。此処は、千藤邸か。懐かしいなあ。





十数年と訪れていない場所だけど、体は覚えていた。迷路の様に広いこの屋敷で、かくれんぼしたりしたのは良い思い出として残っている。





辿り着いたのは菖蒲の間。そこは屋敷に住む人たちが集まり食事をする部屋で、閉めきられた襖の奥から、賑やかな音が溢れ出ていて、6時は夕食の時間だったと思い出した。襖を開けて、三つ指をつき頭を下げる。静まり返った先に、私の声が響き渡った。





「失礼します」





「あぁ、千隼、起きたのかい」





「父さん」





ノンフレームの眼鏡をかけ、少しだけ白髪の混じった黒髪を後ろに撫で付けた男こそ、私の父である露木つゆき 貴匡たかまさである。そして、昼寝をしている私の連れてきた張本人だ、と思う。






「起きたのかい、ではないでしょう!!寝ている人を連れ出すなんてどういうおつもりですか!?」





「私は、あとでお前も出掛けるからと言っておいたよ。寝ていたお前が悪い」





「その傍若無人っぷりは相変わらずですね。まともになったとは端から思ってませんけど」





「ーーいつ見ても仲の良い親子だなあ。千隼、久しぶりだな。とりあえず、夕食でも食べながら話そう」





「ちぃちゃん、久しぶりねぇ」





「朝輝さん、由里子さん。お久しぶりです」





「ますます貴匡に似てきたわね。女の子にモテるでしょう?」





「えぇ、まあ」






貴匡も昔から女の子にはモテたわねぇ、と笑う由里子さんに手を引かれて父の横に座らされた。どこからともなく聞こえてくる「まじだ、似てる」の声。





「ーーそれでは、いただきます」






「「いただきます」」






ズラリと並ぶ厳つい顔の男たち。スーツに柄シャツ、ではなく白いシャツを着ている彼等は紛れもなくヤのつく方々で。





千藤会。

関東指折りのヤクザの巣窟である。






「お前が居るだけで若が寝るから良い」





「不眠症、まだ治ってなかったの」





「最近は眠剤を増やしていてね。それでも、3時間ぐらいしか寝れてないものだから、ちぃちゃんが帰って来てくれて、本当に良かった」





「…はい?」





「なんだ貴匡のやつ、何も言ってないのか?」





黙々と食事を取り出した父を睨む。何も言ってないどころか、こうやって寝ている間に連れ出されているからな。その辺の定食屋より美味しい料理たちを、口へ運びながらこれからの予定を考えた。






「…あの、オヤジ。その娘さんは?」





「んあぁ、お前等は知らないか。貴匡の一人娘の千隼だ」





「露木千隼と申します。傍若無人の父がいつもお世話になってます」





「千隼、こいつ等の世話にはなってないが」





菖蒲の間がまた静まり返った。うん、わたし知ってる。この人はこういう人だってこと!!他の人たちも知っているから、何も言わないんだろうけど。






「黙らっしゃいクソ親父。上司は知らず知らずと部下の世話になってるんだよ」





「なんだ、見てきたかのように言うんだな。フリーターごときが」





「世の中のフリーターに謝れっつうの。それに、こっちに帰って来たから言うけど、私はフリーターじゃないし。ちゃんと仕事してたからね」





「あ?」





「今、広範囲でバラまかれてるヤクの出所と関わってる人間の特定までの書類を、雇い主から朝輝さん宛てに預かってるの」





「ヤク?雇い主?お前、あのコンビニで働いてたじゃないか。なんだ、そのコンビニが悪どい所ってか?あ?」





「ーー私、いつも思うんだけど、ヤクザって何で、あ?って言うんだろうね。あのコンビニは隠れ蓑だよ。私の雇い主は鬼堂(きどう)組若頭の深艶みつやさん」





物音さえ消えてしまった菖蒲の間。鬼堂はヤクザでも千藤と肩を並べるほどの規模を誇っていて、多分というか絶対にやることは千藤会よりえげつない。あの人たちには温情も恩赦もない。血も涙もないってやつ。






「は?」





「あらあら、ちぃちゃん。あの鬼堂と仲良しさんなの?」





「仲良し、ではないですけどね」





「いつからだ」





「上司と部下の関係は5年ぐらい。私の親友が鬼堂の恋人になってからだし。でも付き合い自体は7年になる、かなあ」





あの子、そろそろ既成事実とかで入籍させられそうだな。気を付けるように言うのは野暮だろうか。私の味噌汁を啜る音が響く。ガン見するなよ、恥ずかしいだろ。






「…っははは、貴匡の一歩先を行っていたな!」





「笑いごとじゃありませんよ。まさか鬼堂組なんぞとは」





「鬼堂組なんぞとは、随分な言い種ですね?今回のヤクの取り締まりは、鬼堂が居なければどうにもなりませんよ。それこそ、千藤会なんぞと言われるでしょう」





また静まり返った。先ほどとはうって変わり、ギラギラとした殺意が怒気が私に向く。こんな夕食嫌だな。自分の発言を取り消す気は更々ない。千藤会は若頭である紫眞の不調が目立って来て、思うように行っていないのが現実だ。紫眞の兄、紫月しづきが治めているフロント事業の会社は、好調に利益を上げているけれど、裏事業は思わしくない。






箸を置いて、一息つく。千藤会の組長である朝輝さんさえも、私を冷めた目で見てくるが、まあ仕方ない。ぶっちゃけ鬼堂組を辞めるには条件があった。ヤクの取り締まりについて千藤会と手を結ぶこと。そして、損失ゼロで収束すること。それをクリアしてから、正式に鬼堂組から抜け出せる。





「鬼堂組情報部所属、露木千隼。雇い主の鬼堂深艶に変わってこの件の話を詰めさせていただきたい」






鬼堂組から抜け出せると言っても、私の親友が鬼堂の恋人で居る限り関係はなくならない。組から抜けて、個人的に関わるようになるだろうが。






「…たまげたな」





「向こうはお前が私の娘だと知っているのか?」





「勿論。知っているからこそ、こうやって私を利用してるの。あの街に追いやったのが失敗だったわね、父さん」





月に一度しか会えなかった。父の自らの立場のために。私の安全を気にしていたものだと分かっていて、私は自分から裏世界に両足をつけた。ヤクザの子供ってだけで片足は浸かってたからね。






「鬼堂組の情報部は、なかなかのやり手だと聞く」





「ありがとうございます」





「まさか、千隼がなあ」





「本当は、明日正式に訪問する予定だったんです。でも父に勝手に連れてこられて、順序が可笑しくなってしまいすみません。夕食時にこんな話は嫌だったでしょう」






「…いや、まあ、」






「私、この件を最後に鬼堂組を抜ける予定なんです。有終の美、ではありませんが若から条件をつきつけられてしまったので」





「あの鬼堂が条件だけで抜けさせるのか?」






「このヤクの件を、千藤会と手を組んで損失ゼロで収束させること。それが私に与えられた最後の仕事です。もし損失や死者が出た場合、私は鬼堂の死ぬまでこき使われます」






失敗を許されない大仕事だ。あの子は喜ぶだろうなあ、私がずっと側に居るんだし。一瞬はそれでも良いかなとか思ったけど、あの野郎に死ぬまでこき使われるのは釈然としない。

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