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世界の片隅

軍人×事務員



外神(とがみ)家と言えば、神がかった一族だということぐらいしか思い付かない。というのも、辞令が出たのだ。その外神さんが総隊長を勤める実力至上主義の軍隊に異動だという。





いや、私も一軍人(という名の事務員)で(紙の山がいつになっても消えない)戦場で、二徹三徹は当たり前のなか生きてきた。徹夜続きでも頭を回転させる体力と精神力を培ってきたつもりだった。戦力にもなっていたと思っていた。






だから、この辞令には納得できない。そりゃそうだろうよ。戦場は戦場でも、インクや叱責が飛び交う戦場と、血飛沫や怒号が飛び交う戦場は全く違う。それこそ天と地の差。そんな生臭い所に放り込まれても、しがいない事務員に何が出来るっていうんだ。






「随分と酔ってんじゃねーの、環那」





「酔ってるのかなあ、もう、ほんっとうにどうしよう」





「明日から来るんだろー?そんなに酔ってっと、お前でも二日酔い起こすぞ」






「兄ちゃんにけしかけられたからって、軍に入るんじゃなかったあ」





実家のリビングで、私はお酒を呷りながらさめざめと泣いた。ずっと事務員で居れる筈はないと思っていたけど、こんなに早くに、しかも戦場向きの所に放り込まれるなんて。






お風呂上がりの兄、次男の凱人(かいと)は濡れた髪を拭きながら私の向かいのソファーに座った。この兄も外神さんが総隊長を勤める実力至上主義の部隊にいる。もう一人の兄、長男の奏多(かなた)もまた同じ所にいるのだ。今日は、凱人兄さん曰く当直らしい。





「そう言うなよ。例え親父やお袋が生きていても、お前に軍を勧めただろうな」





「根っからの軍人一家がっ!!」





「悲観するなって。うちの部署にも、内勤はあるんだしよ。今はローテーションで回しているけど」





「と言いながら、ロードワークもあるんでしょ!?私は!!普通の女の子に!!なりたいのよぉぉぉおおお!!」





「そらぁ、無理だなあ」





その夜、私は凱人兄さんにお酒を取り上げられるまで夜更かしを楽しんだ。酔いを翌日に持ち越さない体質なのが幸いだろうか。愚痴も吐き出したことだし、明日からまた頑張ろうと布団の中で拳を握った。






里桜(りおう)環那(かんな)、20歳。入隊2年目の春、肉弾戦をもっとも得意とするの大所帯の部署へ配属された。






「環那、奏多が弁当頼むって」





「あれ、そのまま仕事するの?」





「らしい。さっき電話があってさ」





「ブラックかよ」





「ははっ。でも、お前だって知ってるだろ?ブラックなのは」





「そりゃーね。凱人兄ちゃんでさえ週に1回しか帰って来ないんだもの。奏多兄ちゃんは月に1回会えば良い方だし」





朝ご飯の残りで良いかな。卵に焼き鮭、いんげんのごま和え、あとはタコさんウインナーでも入れようかな。その場で捨てれるように使い捨てのお弁当箱に詰め込んだ。なんか、物足りない。インスタントのお味噌汁でも添えとこう。





末っ子の私が、高校を卒業すると同時に保護者だった奏多兄ちゃんは今のブラック部署に転属した。元々、助っ人としてブラック部署と行ったり来たりしていたんだけど、妹の私が学生ということもあって、駆け付けられる、代わりがいる、休められるという生温い部署に居たらしい。凱人兄ちゃんは、最初からブラック部署に所属していた。






「ま、お前も今日から仲間入りだ。無事にこの家に帰って来れると良いなあ」






「フラグ建てないでぇ。別にさ、帰って来れるとか期待してないよ。それより、生き残れるかなあ」





お弁当バックに奏多兄ちゃんのお弁当を入れて、凱人兄ちゃんに渡した。凱人兄ちゃんと奏多兄ちゃんって同じ部隊にいるから、私よりも先に会うだろうし。






凱人お兄ちゃんが私の頭を撫でたあと、そのまま玄関へ向かう。あ、先に出勤するのか!!火の元を確認して、慌てて後を追い掛けた。






里桜家は長男の奏多、次男の凱人、長女の環那の三人兄妹で、両親は10年前に遠征の時に殉職。それからは長男の奏多が下の弟と妹の面倒を見てきた。足を向けて寝れないし、お兄ちゃんたちの為なら私は何だって出来る。






「凱人、環那、おはよう」





「おはよ、当直だったのに帰らねぇんだな」





「おはよう、奏多兄ちゃん」





赤茶の髪に新緑の瞳、実は脱いだら凄いマッチョの長男、奏多は入り口で私たちを迎えてくれた。大所帯であるこの部署は、大本の本部とは別に部署本部を構えている。通称ゼロ隊。 なんでゼロ隊なのかは分からないけど。なんせこの部隊は総じて強いらしい。





「環那、総隊長のところに案内するよ」





「ん。凱人兄ちゃんは?」





「俺はこれからミーティングなの。奏多と行ってこい」





「はーい。じゃあ、またね」





「昼飯、タイミングが会えば食堂に居っから」





「うん」





凱人兄ちゃんは、また私の頭をくしゃくしゃと撫でた。お兄ちゃんたちは、ことあるごとに私の頭を撫でる。私もそれが好きだ。荒っぽいのに優しい気持ちになるから。





よし、頑張ろ。





「緊張しなくても大丈夫だよ。みんな優しい人ばかりだから」






「そう言われても緊張するよぅ。なんで、事務員してた私がゼロ隊に?」





「総隊長の意向、かなぁ。まあ、悪いヤツじゃないし僕も居るから」





「お兄ちゃんも?」





「ゼロ隊の数字持ち(ナンバーズ)って知ってると思うんだけど、お兄ちゃんそれの5番()なんだ」





「…はっ?」





「ふふ、びっくりした?」





奏多兄ちゃんは面白そうに笑って、首を覆っていたハイネックの襟を捲った。首筋に浮かぶ茨を纏った【Ⅴ】という黒い刺青。あぁ、確かに数字持ちだ。しかも最終数。





ゼロ隊の5番ーー通称死神。






「…もしかして、もしかしてだけど、凱人兄ちゃんも?」






「そうだよ。アイツは4番()





ゼロ隊の4番ーー通称狂犬。






「ひぇっ」






比喩表現ではなく、ガチで目眩がした。確かに、お兄ちゃんたちは人並み外れた身体能力を持つ。まさか、世界最強と名高いゼロ隊の数字持ち(ナンバーズ)だとは誰が想像する?簡潔に言うと、その数字持ち(ナンバーズ)が一番強い。うん、一番強いんだよ。5人揃えば国は一夜で落ちるとか、世界が敵になったって敵わないとか、色々言われてる。






「びっくりしたでしょ。凱人は最年少で数字持ちになったんだよ」






「奏多兄ちゃんも凱人兄ちゃんも、凄かったんだね…。そりゃ家に帰って来れない筈だ」






「うん。僕らには単独任務とかあるしね。今まで環那が事務員でいれるように、事務局の室長にも手を回してたんだけど、なんでかなあ」






「お兄ちゃんが根回ししてたんだね。お兄ちゃんたちが数字持ち(ナンバーズ)だってこと、道理で知らなかった筈だわ」






「ごめんね。一応、手を回しとこうと思って。恨みとか色々買ってるから」






恨みとか買ってるのかよ、コイツら。つい白けた目でお兄ちゃんを見てしまった。そういや、誰ともすれ違わない。みんな、外に出ているのかな。






「今はミーティング中だから、誰ともすれ違わないんだ」





「へー」





「此処が幹部の執務室ね。環那の仕事場にもなるんだよー」





「は?」





「まあコーヒーでも飲んで待ってて」





そう言って、お兄ちゃんは私をソファーに座らせた後、扉の奥に消えた。執務室の奥に部屋があるのか。目を見張るほどの書類の山は、島国スタイルで並んだ5つのデスクの上だけならず、所狭しと床にも出来ている。上座にある大きなデスクには、書類の山はないけど、多分それは書類が回ってないからだろう。






「ミルクと砂糖入りで良かったかな?すごいでしょ、みんな書類仕事が苦手で」





「ありがと。うん、なんかそうらしいね?」






「これさえなかったら、家にも帰れるんだけどねぇ。溜まったら溜まる一方なんだ、あはははは」





「じゃあ、私の仕事ってこれぇ?」





「正式に総隊長から連絡あるから、とりあえずコーヒーでも飲みな」






「うぃっす」






それからその総隊長が来るまでの間、奏多兄ちゃんから数字持ちの彼らについて教えてもらった。奏多兄ちゃんからしたら愉快な仲間たちだろうけど、私からしたらそうでもないような。なんか物騒な人たちの予感。いや、間違いなく物騒な人たちだと思う。






ゼロ隊の総隊長、数字は1番()外神(とがみ)和臣(かずおみ)さん。なんと奏多兄ちゃんとは昔からの友達だとか。うちにも遊びに来たことがあったらしい。知らなかった。全体的に白いうえに、超絶美形なんだってさ。この話だけでも、十分神がかってるなあと思った。





ゼロ隊の副隊長、数字はⅠ2番《Ⅱ》の晴嵐(せいらん)さんは、外神さんとは、対照的で黒いんだって。失礼だけど、お腹のなかも真っ黒なんだろうかと思ってしまった。奏多兄ちゃんの先輩だったんだとか。





数字が3番()天月(あまつき)(れい)さん。人見知りの激しい一匹狼で、慣れるまでに時間がかかるそうだ。凱人兄ちゃんと仲が良いって、狼と犬だからかな。単独任務をメインに受け持ってるから、滅多に会わないかも。怪我しても黙っていることが多いとかで、気付いたら誰かに教えてほしいって。





で、4番()の凱人兄ちゃんと、5番()の奏多兄ちゃん。なんで凱人兄ちゃんが4番()なのかと言うと、凱人兄ちゃんが先に数字持ちになったんだってさ。奏多兄ちゃん、私の為に生温い部署に居たから、出遅れたんだって。






「なるほどねぇ」





「大丈夫、みんな優しいから」





「…そうだね」





何に安心しろと言うんだ。一癖も二癖もありそうな人たちなのに。温くなったコーヒーを飲み干して、私はコップを机に置いた。部屋に散らかった書類の山をざっと見て、片付けに掛かる時間を弾き出す。






一応、始業時間のチャイム鳴ったし。説明してもらったら、すぐにでも書類の仕分けに取りかかれるようにしないと。ーー完全に片がつくのは、約3日ぐらい必要かな。残業は22時までとして、1日の休憩トータル1時間30分で。






「ありゃ、奏多?君、帰ってなかったのかい?」






「おはよう、和君。今日から妹が来るからね。それに、この書類の山ばかりじゃ帰れないよ」






「それもそうだが、君、そろそろ有給を使ってくれよ。ブラック部署筆頭は俺たちだと上からせっつかれたんだ」






「ブラック部署筆頭ってその通りじゃないか。でも和君が言うなら、明日にでも有給休暇取らせてもらうよ」






「是非そうしてくれ。で、そっちが里桜兄弟の宝かい?」






赤い目が私を見た。その人、外神総隊長は確かに、紛うことなき白をまとっていた。簡易の軍服さえも白。髪も肌も白い。その髪と肌には艶があって、美人だった。めっちゃ美人。軍服の上からでも分かるほどの細さ。なんだOLかよ。







「そうだよ。環那、いつまで見惚れてるの」





「あっ、里桜環那です。兄たちがいつもお世話になります」





「へぇ、環那って言うのか。君の兄たちは、妹が同じ軍に所属しているのに、俺たちに名前すら漏らさなくてなあ。いやぁ、事務局の室長が教えてくれて良かった良かった」





「やっぱり室長を脅したんだね?」





「脅したって失礼だなあ。話をちょっとしただけだって」






けらけら笑うこの人がゼロ隊の総隊長で、もっとも強い(恐らく世界最強)と言われている。なんかもっと硬派な人かと思ってた。全然違うじゃん。そういや、私もゼロ隊のことを何も知らないし、ゼロ隊の書類を捌いたことがない。室長、奏多兄ちゃんと凱人兄ちゃんが怖くて、徹底してたのかも。






「それで、室長を脅してまでうちに引き込んだ理由は?」





「そりゃあ、君たちのマイナスレベルの事務処理能力をフォローしてもらう為にだな」






「だそうだよ、環那。でも、マイナスレベルって言い過ぎじゃない?」





「阿呆抜かせ。事務処理能力がなさすぎて、家に帰れてないじゃないか。それに、この俺のところにさえ書類が回ってこないのも問題なんだぞ…。言っても言っても、この山が片付いたところを見たことがない」





筋金入りの脳筋だと笑う総隊長は、それでも楽しそうだった。この人がゼロ隊の総隊長とか信じれない。隣で同じように笑う奏多兄ちゃんも、数字持ちとは思えない。






「総隊長、いつまで待たせるんですか。今日は朝から会議だと言っているでしょう!」






「晴嵐君、もっと静かに入っておいでよ」





「おや、奏多さん帰られたのでは?」






「今日から妹が仲間入りだからね」





「そうでしたか。はじめまして、晴嵐と言います。今日からよろしくお願いします」





「里桜環那です。若輩者ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」





「兄たちとは雲泥の差ですな、なにこの礼儀よさ」





扉を乱暴に入ってきた真っ黒くろすけの人、晴嵐さんは奏多兄ちゃんと私を見比べて目を見張った。まさかの敬語紳士の予感。晴嵐さんは、よろしくお願いしますともう一度言って、 くるりと総隊長に体を向けた。





「さあ、会議ですよ!!今日はジジイが、参加なさると前々から言ってましたよね!!」





「おいおい、ジジイって。…あぁ、わーったから、先に出てくれ。環那、機密事項の書類とかは特にないから、好きにあさって片付けてくれ」





「分かりました」





「僕も手伝うよ」





「いや、お兄ちゃんは座ってて。邪魔しないで。私、これを3日で片付けるから、本当に邪魔しないで」





お兄ちゃんを座らせて、私は袖を捲りあげる。おぉ頼もしいな、なんて総大将が言ってたけど、晴嵐さんに首を掴まれて出ていった。






「これ、本当に3日で片付くの?」





「繰り上げも予定してる。繰り越しは絶対にしないから、まあ見てて」





「ふぅん」





「あー、寝てても良いよ」





「じゃあ、お言葉に甘えて奥の仮眠室に居るよ」





「はーい」





欠伸を噛み殺しながら、お兄ちゃんは奥の部屋に消えていった。よし、やろう。室長め、私を手離したことを悔やむが良い!!こんな辺境の地に追いやりやがって。





まずは書類の期限分け。個人別に書類を分けて、ダンボールにいれる。もちろん分かりやすいようにクリップで止めて、期限順に色分けした。期限が2ヶ月前ってヤバくね?なんで事務局からフォローが出なかったんだろう。





それが終わったら、一先ず私でも出来る経理関係の書類を片付けて、総大将のデスクに期限順に置いた。今日中に事務局に送りたいなあ。期限は終わってるけど。それさえも片が付いたら、今度は床に山積みになっている処理済の書類たちに取り掛かった。バインダーに閉じていくのが一番手間と時間が掛かったし、肩も凝った。






「…ふぅ、なんとか床が見えた」





「出来たかーい。なんて、…な?」





綺麗とは言いがたいが、床は床だ。床が見えた。へっ、どんなもんだ。よし、休もう。そう一息をついたと同時に、バンッと扉が開いた。真っ白けっけの総隊長が、ビニール袋片手に帰って来たと思ったら、そのまま思考停止したロボットみたいに固まった。






「おおおおお!!床が!おい、晴嵐、凱人!!見てみろよ、床が見えてるぞ!」





「おや、本当に床が見えてますね。いつぶりでしょう、まともな床を見るのは」





「うわっ、マジだ。いつぶりっすか、此処の床が見えてるの」





「もう何年も見てなかったな!いやぁ、有能な妹だな。室長が出し惜しみするわけだぜ」





「ナニイッテルノカ、ワカラナイナア…」





総隊長だけでなく、晴嵐さんと凱人兄ちゃんまで…。私、何言ってるのか分からない。分かりたくもない。





「環那、昼飯は食ったか?食堂に来てなかっただろ」





「昼?」





「と言っても、もう夕方だけど」





「売店でホットサンドを買ったから、良かったら食べな」





「あ、ありがとうございます」






総隊長がビニール袋を私に渡してきた。中を見れば紅茶とホットサンド。良かったなーと凱人兄ちゃんが私の頭を撫でる。





「これ、期限順か?」





「うん。経理関係の書類は、勝手に私が処理させてもらって、外神さんの確認で事務局に出せるようにした。あと処理済の書類はバインダーにまとめてある。1年前以降の書類もバインダーにまとめて、月別にダンボールに詰めた」






「ほぉー」





「久しぶりの書類だぜ…。なあ、奏多は帰ったのかい?」





「奥の部屋に居ますよ。これ、美味しいです」





ホットサンドのなかはトロトロのチーズとカツだった。本当に美味しい。売店って美味しいんだ…。売店もそうだけど、食堂にも行ったことないんだよね。書類が片付かないから部屋に缶詰だし。何百人も軍人がいるのに、事務局の人数は10人だしね。1日の業務時間で捌ける筈がないんだよ。食事は事務局の簡易キッチンでローテーション組んで、ご飯作って食べてたし。出る暇なんてなかった。あれ、事務局もブラック部署?山を越えたら、普通に休みもあったし、定時にも上がれたりしてたから、ギリギリグレーゾーン?






「美味いだろ。食堂の飯も美味いぞ?本部のも美味いけど、うちは桁違いに美味いと思うから行ってみろよ」





「…本部の食堂って行ったことないんですよね」





「え?確か、入隊して2年目ですよね?」





「事務局は、部屋の簡易キッチンで自炊してましたから。室長や先輩たちの手料理も美味しいですよ」





「じ、自炊?初めて聞いたが」





「昔は、順番に食堂に行ってたみたいなんですけど、その行く時間さえも惜しくなったって言ってました」





「事務局の室長は、あぁ見えて面倒くさがりですからねぇ」





「ご存知なんですか?」





「ーー嫁です」





「…お嫁さん、」





あれ?事務局の室長って男性だよね?そういうこと?知り合って間もないのに、突っ込んできたなあー。まぁ良いか。偏見とかないし。幸せが一番。






「大して驚かないんですね?」






「幸せが一番ですよ、晴嵐さん」





「…ふふ、さすが里桜兄妹。みんな、同じ事を言いますね」





「だってなあ?俺たちは、兄貴に育てられたようなもんっすよ。同じ事を言ってもおかしくねぇっす」





「奏多は良い兄だったんだなあ」





「そりゃあ、遠征に出っぱなしの両親ですからね。奏多と俺で7個離れていて、環那に至っては12個。年が離れている分、可愛くてしゃーなかったんですよ」





「君たち、そんなに離れていたのか」





「奏多さん、もう32歳になるんですね。童顔もいいところだ」





奏多32歳、凱人25歳、私20歳。年の差兄妹である。私と奏多兄ちゃんは一回りも違うのだ。父さんも母さんも頑張ったよねぇなんて、奏多兄ちゃんが前に笑っていた。





「一人で留守番のときもあっただろう?何も言わなかったのか?」





「特に言ったことないですし、友達が一緒に居てくれたんで寂しくもなかったです」





「そっか。で、君の二番目のお兄ちゃんが何とも言えない表情だが?」





「ーー環那?それ、初めて聞いたんだけどなぁ」





「初めて言ったもん」





「友達って女友達だよな?」





「え?」





「意地悪なカオだ。やっぱり奏多の妹だなあ」





せらせら笑いながら総隊長は、自分のデスクに座った。そして、パラパラと書類を確認し始めた。それを見ていた晴嵐さんもまた、自分のデスクに戻って束ねていた書類を手に取る。






「お兄ちゃんも仕事しないとね?」





「ちっ。今の、奏多にも言うからな」





「はいはい」





チクリに行ったのか、起こしに行ったのか分からないけど凱人兄ちゃんは奥の部屋に入っていく。友達が来ていたことを言わなかったのは、ただ面倒くさかったからだ。






「環那、凱人から聞いたけど、男を連れ込んでたの?」





「言い方が悪いよ、奏多兄ちゃん」





「はぁ?言い方が良いも悪いも関係ない。何処の誰を連れ込んだんだ?」





「はいはい。えーっと、確かねぇ」






目付きが変わった奏多兄ちゃん相手に、口答えをする気もなかった。何故なら面倒くさいからだ。奏多兄ちゃんはブラコンでシスコンだから、うん。面倒くさいの。





「言っちゃうのか、その男のこと」





「可哀想に」





「1回目は部活の帰りに、家の前で倒れてたから手当てに連れ込んだの。2回目も同じく。3回目からは、手当てを頼むって自分から来たわね」





「ふぅん?で、誰」





「知らないわよ」





「「はぁぁぁ?」」






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