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トランキライザー④

グツグツと煮えたぎる鍋。それは、来たばかりの少女が作った味噌煮込みうどん。美味しそうな匂いが漂う。





「え、 彰良さんが作ったの?」





「つか、真紘が部屋から出て来てるんだけど。何、やっと落ち着いたの?」





「僕が作った訳じゃないよ。僕の料理はダークマターだって皆知ってるだろ」





僕の正面、キッチンカウンターで顔の似ていない二卵性双子の凪沙(なぎさ)嵐成(らんせい)が、不思議そうな顔をして僕の手元を覗いてきた。泥まみれのままで料理場に近づくなってあれほど言っているのに。全く聞いていないな。





「新人?気配するけど居ねぇじゃねぇか」





「まぁた押し付けられたの?押しに弱いねぇ、彰良さんは」





「おかえり、(こう)圭人(けいと)。新人さんというか、色々あってね」





此処には僕と真紘の他に4人の住人がいる。あの子が亡くなってから、こうやって集まることをしなかった。だから、まじまじと皆の顔を見るのは一ヵ月ぶりだ。





「ふーん。挨拶はねぇの?」





「ーーふふ、今日はね、皆で食卓を囲んでって言われたんだ」





「皆でって、その新人がいないのに?」





「僕も誘ったんだけど、明日の朝挨拶するってさ。嵐成、真紘を起こして」





「ん。まーひーろ、起きろー」





あの子がいた時に戻った気がした。僕とあの子がキッチンに並んで、凪沙が飲み物を出して、圭人が食器を並べる。嵐成が任務後の仮眠につく真紘を起こす。





「いただきます。直也のお墨付きだから、きっと美味しい筈だよ」





「直也さんの?」





「そういえば、あの子のこと直也さんが呼んだって言ってた」





「直也の所の生徒なんだけどね。僕が一人でパンクして、その間に真紘があぁなっただろ?どうにもならなかったから、直也に相談したら彼女が来てくれた」





一口、恐る恐る食べた彼等はホッとしたように息をついた。うまっ。口々に零れるその言葉を聞いて、僕の肩に乗っかっていた何かが軽くなった。久しぶりだ。ご飯が美味しいと思うのは。五臓六腑だけならず、血液にまで染み渡っていっている気がした。





「あー、うま。樹里(じゅり)ねぇも料理上手かったけど、今回の新人も……なあ、彰良さん、そういや彼女って言ってなかった?また男の娘ってやつ?」





「ん?なんだ、嵐成。聞き流してくれなかったのかい」





「…まじで女ァ?」





「真紘と同い年の女の子だよ。すっごく綺麗な娘でさあ」





嵐成と晃が顔をしかめた。女嫌いだから仕方ないけど、今更追い返したくない。こんなに美味しい料理を作ってくれて、彼等と向き合う時間をくれたんだから。





「…彰良さん、あの子は樹里さんの代わり?だったら、直也さんに返して。誰も樹里さんの代わりになれないよ」





「それ本人にも言われたけど、樹里の代わりで此処(特別班)に入れるわけないよ。彼女は彼女の仕事を果たしに来てくれたんだから」





「仕事?」





「真紘のチカラを抑える仕事だよ。ネックレス、彼女のものなんだから、落ち着いたらちゃんと返しなよ?」





真紘は、自分の首に下がったネックレスを握りこんだ。真紘の為に、わざわざ来てくれたんだから、そんな意地の悪いこと言っちゃだめだよね。代わりなんかうちは要らないし。





「真紘君のチカラを抑えるって、何?真紘君が自力で抑え込んだんじゃないの?」





「圭人、真紘が自力で抑え込めるなら、1ヶ月も引きこもらないって」





「ーーそれって神々廻家の末娘のか?」





「晃、知り合い?」





「昔、神々廻家に世話になった時にな」





晃は、今では制御が出来ているけど、昔は真紘以上に制御が下手くそだったんだっけ。神々廻家に預けられるってよっぽどだけどさぁ。紅い目を懐かしそうに細める晃を初めて見た。それは、他の子達も同じだったらしく、まじまじと彼を見ている。





「へー。あの晃さんがその反応ってことは、なかなか面白い娘かもしれないんだねぇ。明日が楽しみ」





「こらこら、苛めちゃダメだよ。やられたらやり返すように言ってあるからね」





「嵐成君、凪沙君を見張っておいた方がいいよ。やらかす前にね」





「皆して酷くなーい?オレ、そんなことしねーし」





「…ごちそうさまでした。俺、先に部屋戻るね」





「あ、真紘君。プリンがあるんで食べませんか」





先に席を外そうとする真紘を、圭人がプリンで捕まえた。圭人、よくやった。席に座り直した真紘。空っぽになった味噌煮込みうどんの鍋を下げて、食後のデザートを出す。





「この1ヶ月、君たちに無理させてきたから、明日と明後日は休みにした。君たちに向き合えなくて悪かったね」





「彰良さん…」





「ごめんね、家族を一人奪ってしまった」





「何を言ってるのさ、彰良さんは。樹里ねぇのこと、確かに辛かったけど、樹里ねぇは真紘を守ったんだから」





「そうそう。あんな任務だったのに穏やかな顔だったじゃん。大好きな真紘を守ったわよー!って聞こえた」





「彰良さん、俺、絶対に任務で死んだりしないから。樹里ねぇの分まで頑張るから、もう暴走しないから、泣かないで」





嵐成と凪沙の言葉と、真紘が抱き付いてきた温かさに、僕の涙腺は今度こそ壊れた。見られたくなくて顔を隠して、飲み込めない嗚咽をみっともなく漏らす。





「彰良、一人で抱えさせて、なにもしてやれなくてすまなかった」





「彰良さん、真紘君、あまり泣きすぎると新人さんに変に思われますよ」






結局、皆で泣いて、瑞妃ちゃんに泣いたことがバレないように目を温めたけど、多分バレそう。聡い子だから、何も言わず笑うんだろうなあ。





朝には、ありがとうって言おう。





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