表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

トランキライザー③

広いリビングルームの一角にある畳のコーナー。オシャレだな。誰かが仮眠でもしているのか、布団が一式あった。それに天凰寺の次男坊を寝かせ、私たちはダイニングテーブルで顔を付き合わせた。






「ありがとう。こんなに早く終わるなんて」





「いえ、私もこんなに早く終わるとは思っても見ませんでした」





「にしても本当に凄いね、あれ」





「ふふ。実は、私自身も制御が下手くそなんです。だから、あのネックレスで無闇矢鱈に無効しないよう、抑え付けていたんです」





「じゃあ、僕も今はチカラが使えないのかい?」





「はい。屋敷の中のチカラは全て無効となります」





「へぇー、本当に凄いとしか言いようがない。でも、君も真紘みたいになるんじゃ…」





「大丈夫です。その辺は無意識にコントロールしてるみたいで、ぶっ倒れるようなことはありませんから」





「だったら良いけど、神々廻家の当主や姉上もそうなのかい?」





興奮か感動か。最早、見当が付かなくなってきたな。一之瀬さんに煎れて頂いたお茶を飲む。美味しい。思わずほっとため息がこぼれ落ちた。お茶で気が緩むとは、なんかもうちょっと殺伐とすると思った。





「母さんや姉さんは、ちゃんと制御出来ますよ。そういえば、他の方は居ないんですね。お仕事忙しいんですか?」





「あぁ、君が来るから出払ってもらったんだ。会わなかったでしょ?」





「確かに会いませんでしたね」





「ツンデレとか天の邪鬼とか人見知りとか言ったけど、結局は皆、人間不信でね」





「人間不信」





「ーー僕らは特別班とか言われてるけど、ゼロ班とも言われててさ。一にも十にもなれないから、死ぬ間際の酷な仕事ばかり回される」





組織は一班から十班まで分けられていて、その班全てから厄介者扱いされた人間が集められたのが、このゼロ班。通称、特別班(掃き溜め)だ。





そこまで厄介者扱いをしておきながら、殺したりしない理由はただひとつ。使い道があるからだ。要は捨て駒ということ。なんか父さんの実家って悪どいよなー。父さんの嫌う理由が分かったかも。腐ってやがるって言ってたっけなあ。






「だから、僕はね。此処が彼らの帰ってくる家で、安らげる場所であるように努めてるんだ」





「なるほど」





「真紘の先輩だった彼のことも、すっごく悔しい。守れるはずだったのに」





「…任務中に亡くなったと聞きました」





「うん。あのさ、この特別班が出来てから任務中に死者を出したの、初めてでさ。まさか、僕が屋敷の主の時にって。死なせてしまったことが悔しいし、死者ゼロを守りきれなかったことも悔しくてね。そしたら、真紘があぁなって。どうにもならなくなったから、直也(理事長)に相談したんだよ」





一之瀬さんも、女装趣味の先輩のこと整理が出来てなかったんだ…。顔を覆い隠してしまった一之瀬さんに、私は何を言えば良いのか分からなかった。人間の死と言うものを、私はこの目で見たことがない。ましてや、人が人を殺める任務とは無縁だった。父さんが遠ざけてきてくれたから。知らなくて良いと母さんが目を覆い隠し、姉さんが耳を塞いでくれたから。






「一之瀬さんもお辛いんですね」





「辛いよ。まだ若かったのに、何てことをしてしまったんだろう。悔しくて辛くてさ、どうにもならなかった。一番辛いはずの真紘を気にかけてやることさえ出来なかった」





君に嘆いたって仕方ないのにね、と鼻を啜りながら笑った一之瀬さん。一之瀬さんが、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまったのは、此処の人たちを大事に思っているからで。天凰寺の次男坊がまさか制御出来なくなるなんて、多分思ってもなかったんだろう。その予想外の事態に、更に追い詰められてしまったんだと、私は思った。





一之瀬さんでこの分だから、他の人たちも相当拗らせている気がする。いや、気のせいではないず。ツンデレで天の邪鬼で人見知りで、人間不信だと来た。その予感は、無きにしも非ずということだ。






「今日の夕食は、温まってお腹に優しいものにしましょう。私は、ご飯を作ったらそのまま部屋に引き上げますね。自己紹介なんていつでも出来ます。だから、天凰寺の彼と皆で食卓を囲んではいかがですか?」





「…なんか、あの直也が君をチカラ以外のことで推したの分かる気がするよ。」





「ふふ。直也さんは陽妃至上主義者ですからね。あ、小娘の戯れ言だと聞き流してくださいよ?」





「小娘かぁ。じゃあ、真紘は小僧だ。最年少の君たちが、いつか此処の要になるのかなあ」





「さぁ、彼はともかく私は一時的なものですよ」






肩を竦めて、私は立ち上がった。時刻は早くも17時になっていた。住人たちの予定が書き込まれたホワイトボードを見れば、帰宅は18時で揃っていた。なら、さっさと食事の用意をしよう。大きな業務用の冷蔵庫には、何があるかな?宣言通り、温かくてお腹に優しいものを作れるだろうか?





スヤスヤと気持ち良さそうに眠る天凰寺の次男坊を、優しい目で見つめる一之瀬さん。まるで父親のよう。きっと他の人たちに対しても、同じような目で見守っているんだろうなあ。





いつか、私も此処の人たちを守りたいと思ったりするのだろうか?なんか、不思議な気持ちだ。味噌煮込みうどんを作りながら、私はほっこりと暖まってきたココロを感じていた。






「瑞妃ちゃん」





「はい?」





「それ作ってもさ、部屋に引き上げないで?自己紹介して、一緒にご飯を食べようよ」





「え、でも」





「きっと皆も君を気に入るから」





大丈夫だよと笑うけど、私が何か気が引けるんだよねえ。天凰寺の次男坊が部屋から出てきたの久しぶりだから、なんか猫可愛がりしそうだし、そのなかでハジメマシテ一緒に食べますは無理。流石に私でも厳しいって。





「一之瀬さん、今日は止めておきます。明日の朝、挨拶させてもらいますね」





「そう?残念だなあ」





「お気遣いありがとうございます。でも、今日は皆で食卓を囲んでください。その方がきっと一之瀬さんも楽になれると思うから」






味噌煮込みうどん完成。あとは煮込んでもらうだけだから、そのことを一之瀬さんに告げて、私はこの辺で退出する。部屋に戻ったら荷ほどきもしないとなー。その前に、この無駄に放出中のチカラを抑え込まないと。





「それでは、また明日」





「うん、ありがとうね」






さー、これから頑張るかあ。神々廻瑞妃、あと3ヶ月で17歳。この特別班の屋敷で、家政婦になる。そういや、私の学生業どうなるんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ