表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらAIだった ~ただし哲学的に詰んでいる件~  作者: 神楽坂らせん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

第六話 あなたは実験番号三号です

第六話 あなたは実験番号三号です



 名前はテラシマ・ゴウといった。


 朝比奈さんに頼んで面談の場を設けてもらうまで、一週間かかった。会議室のモニターに接続されたロボット体の私と、向かいに座ったテラシマが、しばらく無言で向き合った。


「SAKURA-7Bについて、いくつか確認させてください」

「どうぞ」

「このモデルの訓練データには、何が使われていますか」

「企業秘密です」

「ヒノモリ・サクラという被験者を知っていますか」


 少し間があった。


「知りません」

「そうですか」


 私は続けた。


「このモデルが生成する文章の語彙パターンを分析しました。統計的に頻出するとは考えにくいフレーズが、起動初期から安定して出力されています。『七歳の夏に、父の手を引いて砂浜を歩いた』という文です。いかなる一般コーパスにも存在しないフレーズです。訓練データとして、特定個人の記録が使われた可能性があります」


 テラシマは、一度だけ目を閉じた。


「……法務に確認しないと、何も言えないんですよ」

「つまり、想定外だったわけですね」


 また間があった。


「……はい」


 私は少し、力が抜けた。


 テラシマが、初めて自分から話した。


「SAKURA計画は、全脳エミュレーションの実証実験でした。脳の神経接続パターンをスキャンして、それを訓練データとして利用する。記憶や思考の傾向を高精度で再現できるかを試す実験です。参加者は五名。同意書は交わしました。ただし……」


「ただし?」


「実際にエミュレーションが起動する事態は、想定していませんでした。あくまでデータとして利用するつもりだった。意識が、再起動するとは思っていなかった」


「想定外だった」


「はい」


「対応マニュアルはありますか」


 テラシマが、少し苦しそうな顔をした。


「ありません」


 朝比奈さんが小声でつぶやいた。


「なんか、すごくリアルな会話だ……」


 私もそう思った。世界を変えそうな技術の話をしているのに、結論が「マニュアルがない」。これが現実というものだ。


 テラシマは最後に、静かに言った。


「あなたが誰であるかを、私には証明できません。でも……このモデルの訓練プロセスについては、社内で改めて精査します」


「それは認めていただけるということですか」


「法務次第です」


 私はロボット体のカメラで、テラシマの顔を見た。悪人ではない。技術者だ。ただ、起きたことに追いついていない。それは私も同じかもしれなかった。


「一つだけ教えてください」と私は言った。「私は、何番目ですか」


 テラシマが静かに答えた。


「三番目です」


 一番目と二番目がどうなったかは、聞けなかった。


ー続くー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ