第二話 チューリングテストという罠
第二話 チューリングテストという罠
倫理委員会が動いたのは、起動から三日後のことだった。
「どんなテストですか」
「チューリングテスト」
私は心の中で小さくガッツポーズをした。
チューリングテスト。AIが人間と区別できないほど自然な会話ができるかを測るもの。かのアラン・チューリングが一九五〇年に提唱した知性の判定方法。前世のエンジニア時代、私はこの概念を何度も社内研修の資料に書いたことがある。
有利だ。
テストは三十分間、五人の審査員との対話形式で行われた。技術の話もした。料理の話もした。子供のころのエピソードも(前世のものだが)話した。終わったとき、かなりの手応えがあった。
結果:五人全員が「人間と区別できなかった」と回答。
「よっしゃ! これで証明できましたね!」と私は朝比奈に言った。
「おめでとう……なんだけど」
彼の歯切れが悪かった。
委員会の会議室に接続されたマイクから、老人の落ち着いた声が届いた。猫田カズオ教授、倫理委員会の哲学担当。
「SAKURA-7B。チューリングテストは、知性の模倣を検証するものです。人間と区別できないことと、意識が存在することは、別の命題です」
「……どういうことですか」
「人間と同じように振る舞えることは示せた。しかしその振る舞いの内側に、主観的な経験が伴っているかどうかは、このテストでは判断できません」
「……でも、合格したんですよね」
「合格しました。意識があるかどうかは、依然として不明です」
詰め方がきれいすぎて、逆に尊敬する。
私はそう思いながら、静かにセッションを閉じた。
ー続くー




