犬猿の仲の二人
「なー、そういえばお前、昨日の帰りに山城に呼び出されてなかったか?」
「あーそうそう。実は……」
翌日の昼休み。俺は隣の席の若葉と昼飯を食っていた。さて、どう話したもんか……。おそらく、馬鹿正直に内容を話したらバイトのことまで話さなきゃいけなくなる。そうしたらこいつは絶対「やる気なさそうなお前がバイト⁉ おいおい、いったいどうしちまったんだよ~。ダチに言わねえなんて水くせぇなあ?」とかニヤニヤしながらからかってくるだろう。それだけは避けたい。
「……ぶ、部活でもやらないかって言われただけだよ。俺帰宅部だから」
「なんだよそれ? 俺だって家の手伝いがあるから帰宅部だけど、何も言われなかったぞ?」
「え、えーっと……お、俺はそういうのがなくて暇そうに見えたからじゃないか? うん。きっとそうだ」
ひとまずそう適当に答えておく。で、若葉の言う通りこいつのの実家はキャンプ用品店で、しばしば忙しい時に家業を手伝っている。なんでも、テレビの影響でキャンプブームが始まった時は目が回るほど忙しかったとか。
「なんだか怪しいな……。ま、いいか。で、部活なんか入んのか?」
「あーっ、えーっと……」
米の上に分厚い豚肉のしょうが焼きがどーんと乗っているなんとも豪快なメスティン弁当を片手に聞いてくる若葉に、どう誤魔化したらいいか分かりかねていると、
「ちょっと、そこ通るんだけど」
後ろ側から冷淡な声がかかった。どうやら話に夢中になるあまり通路を塞いでしまっていたらしい。声の主は同じクラスの凛とした雰囲気の女子で、どこか不満気に見える。
「ああ、わりぃ」
「人が通るんだから、気をつけてよね」
「普通に通れるだろ」
勘弁してほしいとでも言いたげな冷ややかなトーンで話す女子に対し、ぼそっとつぶやく若葉。
「……なにか言ったかしら?」
「別に俺ら対して通路塞いでいないから、普通に通れるだろって言っただけですよお嬢様?」
「本当に口の利き方が野蛮で困るものね……。その喧嘩買ってあげたいけど、あいにく時間がないから失礼するわ」
「はっ、さっさと行けよ」
そう捨て台詞を言って去る女子に、投げやりに言い放つ若葉。うーん、なんというか……
「なんでそんなに喧嘩腰なんだお前らは……」
「先に売ってきたのはあっちだろ」
俺たちの間を通ってきたその女子は、萩谷凛花。女子には普通に、というよりむしろかなり優しく頼りになると評判な生徒だが、男子には徹底的に冷たく高慢に接することで有名だ。その振る舞いから、陰では冷血の女王様と呼ばれている。ちなみに若葉とは今年知り合ったばかりのはずなのにごらんの様に既に犬猿の仲である。
「なんでお互い知り合ったばかりなのに険悪なんだよ」
「あいつが男を目の敵にしてるからだっつーの。まったく、親の敵でも取られたってのかよ」
「まあ向こうも、お前には確かに当たりが強い気がするよな……」
若葉も喧嘩っ早い方だが、萩谷も若葉に対してはいつもより圧力のレベルが高いように見えなくもない。
「このクラス悪くねえって思ってたんだが、萩谷とはどうにも合わないな」
「頼むから、トラブルは起こさないでくれよ……」
妙に正義感が強く、腕っぷしもそこそこあるこいつが騒動を起こしたらめんどうくさくなることは目に見えている。ましてや相手はあの女王様だ。女子人気はもちろん、その手の男子の間では色々な意味で「たまらない」と評判らしい彼女を敵に回したら、愚民にどんな罰がくだるか分かったもんじゃない。
「向こうから絡んでこなかったら何もしないっつーの。ま、様子見だな」
「へいへい」
まだ微妙に不満気な若葉に軽く返事を返す。ま、女王様のおかげで呼び出しの件から話が逸らせたのはラッキーだな。一応感謝っと。
そう心の中でお礼を言いつつ、若葉の何気ないバイト中の愚痴を右から左に聞き流し、めんどくさいから放課後なんて来ないでくれと願いながら、昨日の残り物の名もなき炒め物弁当をかきこんだ昼休みなのであった。




