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4 担任からの呼び出し


「あー、部活見学は今日から始まるが、しつこく新入生を勧誘しないように。これでHRを終わる。解散」

 

 俺のクラスの担任、山城七海(やましろななみ)の平坦な声のHRの締めに、生徒たちのゆるい返事がこだまする。そのまま鞄を持ちバラバラと教室を出るクラスメイトたち。

 さて、ぼちぼち帰るか。帰宅部は新入生が来ても関係ないからな。とどうでもいいことを思いつつ俺も立ち上がると、


「わっ。なんすか先生」


 先程教壇にいたはずの山城が、片手に持った日誌で肩をたたきながら俺の目の前に立っていた。いつの間に移動したんだ……?


「新学期早々悪いんだが、初霜(はつしも)に用があってな。ちょっと職員室来てもらえるか?」


 新学期早々呼び出しなんて、いったい何だ? 目立った非行をした覚えはないのだが……。俺は嫌な予感を覚えつつ、山城の後ろを歩いて行った。


――



 部活に顔を出す先生が多いのか、人気のまばらな職員室。その片隅の山城のデスクに俺は呼び出されていた。


「突然呼び出して悪いな」


「いや……。それで用件はなんですか、先生」


「まあまあ。そんな固くなんなって。お前、クラスの帰国子女のこと覚えてるか?」


「あー、イタリアから来た女子二人のことですよね? 同じクラスなんで一応……目立つし」


 あんな華やかな容姿と話題性があれば、気にしようとしなくても目に留まる。


「それはよかった。お前は人に興味がなさそうな顔をしているからな」


 何気に失礼じゃないかこの人? と思いながらも、間違ってはいないのでスルーしておく。


「はあ……。それで、その転校生が?」


「そうそう。二人とも慣れない国での生活で困ってるそうなんだ。成績も正直危ういところがある」


 そりゃ日本の血が流れているとはいえ、今まで住んでいた場所から言語や文化の違う環境に来たら様々な困難があるだろう。


「そ、そうなんですね」


 でも、いきなり俺を呼び出してその話をする真意はまだつかめない。


「そこでだな、お前にはあの二人に日本語を教えてほしいんだ」


「………………は?」


「時間はそうだな……。昼間だと中々時間が取れないから、放課後がいいな」


「いやいやいや、いきなりなんですかそれ」


 なんでただのクラスメイトの俺が、そんなめんどくさそうなことをしなければいけないのか、まったくもって理解ができない。


「初霜は国語の成績がよかっただろ? それに、同じクラスで接する機会も多いからちょうどいいだろう」


「それなら、俺は学年2位なんで1位の人間の方がいいんじゃないですか」


 確かに俺は国語の成績がいい。でも万年2位だから、ずっと1位に君臨しているあいつの方が適していると思うんだが……。


「あいつは生徒会に入っていて忙しいし、違うクラスだから接点がない」


 そんな俺の問いに対し、冷たく返す担任。だが、貴重な放課後の時間を使ってまで引き受ける理由は特に無い。暇そうに見えても、俺だってやることはある。


「お断りします」


「なぜだ? 放課後美少女二人に囲まれて自分の得意科目を教えるハーレムタイムだぞ? 普通の男子高校生ならウハウハだろ」


「まかり間違っても教師がそんなこと言うなよ……。単にめんどくさいからですよ。それに、そんな下心から引き受けられても相手は嫌でしょう」


 どうせ教えるからには、教える側が真剣であるべきだと思う。だけど、人格者とは言い難い俺にそんな真摯さはない。


「ふーん……。じゃあ、この写真を見ても同じことが言えるのか?」


「いったいなんだよ……って、は⁉」


 山城が渡してきた写真には、倉庫付近で荷物運びのバイトをしている俺が写っていた。くそっ。いつの間に撮られたんだ……?


「うちの学校は別にバイトを禁じていない。だけど、それは届けを出した場合のみだ。さて、お前は出していたかな……?」


 したり顔でせまってくる教師。そう、俺はわけあって学校に届けを出さず、なんなら親にも言わずこっそり放課後や休日の空き時間にバイトをしていた。この教師、嫌なところをついてくるな……。


「これがバレたら、2週間の停学で内申にも響くだろう。逆に引き受けたらこの件は内密にしておくし、放課後のボランティアならぬ異文化交流ということで加点してやる。……さて、引き受けるか?」


 受けたら加点、断ったら失点。バカな俺でも流石にどっちがめんどくさいかは一目瞭然だ。あー……、もう、しょうがねぇな。


「…………やります。いや、やらせてください」


 こうして俺の貴重な放課後の時間は、謎の異文化交流とやらに捧げることになったのであった。

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