教室でもいつも通り……のはずなんだが
「もうクラス変わってから一週間か―」
ようやく去年のクラスと間違えずに登校できるようになった二年一組の教室で、隣席の友人の近石若葉が話しかけてくる。
「そうだな。まあ特に生活に目立った変化はないが……」
「そう悲しいこというなよ。新しい出会いがたくさんあっただろ」
「そうは言ってもさほど友達が増えたわけでもないしな……それに、今年もお前と同じクラスだからとりあえず一安心だし」
「な、なんだよ急に……」
「ぼっちめんどくさいし」
「そんなことかよ⁉ ま、いつものことだからどうでもいっか。それにしても……また囲まれてるなーあの二人」
そう若葉が見やった方向をそれとなしに向いて見る。
「まあそりゃ、帰国子女っていったら確かに注目されるよな」
そう、うちのクラス二年一組にはこの春イタリアから来た帰国子女の女子が二人在籍している。だけど双子ではなく双方別の地域、というか土地からやってきたらしい。
「しかもあんだけ華やかな見た目ときたらねぇ」
若葉が言う通り、二人ともかなり目を引く外見をしている。まず、髪の色。片や赤毛、片や金髪とそれだけで黒髪の多いクラスの中ではかなり目立つ。
「いやでも目に留まるからな」
廊下側の席で、ふわふわと長い赤毛を躍動させ大きな身振り手振りで何やら話をしているのは、ルドヴィア・佐倉・リリアーネ。よどみなく日本語を話すことができ、自己紹介の時はその流暢さでクラスメイトを驚かせていた。おしゃべり好きな性格のようで、すっかりクラスにもなじんでいる様子だ。
おまけに、透き通るような琥珀色の瞳、薄桃色の艶やかな唇と整った容姿もしているので、入学早々想いを寄せている男子は少なくないらしい。正直、できすぎて人生何周目かと思うのはここだけの話だ。
そのあまりの光属性っぷりに廊下側のはずなのにいやに眩しく思え、視線を窓側に移す。こちらは物理的に眩しいだけで――いや、そんなことはないか。と、視界に入ってきた鮮やかな金色を目に留めながらぼんやり思う。
窓から降り注ぐ陽光を反射しきらきらと輝く金髪を持つその少女は、アメリア・柊・セレーナ。佐倉と違って大人しい性格で日本語を話すのが苦手なようで、自己紹介は名前と挨拶をかぼそい声で話すぐらいだった。現に今も迫ってくる生徒におろおろとした様子でジェスチャーを使ってなんとか対応をしているようだ。
スっと通った鼻、色素の薄い灰色の瞳、折れそうな程華奢な身体つきは、なんとも小動物を思わせる。言動だけなら、こちら側に近しいものを感じて親しみが湧いたんだけどな……。
「そのうち落ち着くんじゃないか? まだ新学期になりたてで、皆浮かれてるんだろ」
「それもそうかね。まあ華があるのはいいことだしな」
「縁があるかはともかくな」
「それを言ったらおしまいじゃねえか。ある日席替えで隣の席になる可能性はまだあるだろ?」
「その時、上手く話せるか?」
「……は、話せはする。どもりながらな」
「それが普通通常平凡な男子ってことで」
「さすがに凡庸であることを強調しすぎじゃねえの⁉」
「お、それも追加しておくか。平、凡庸っと……」
「そうまとめても『ヘイ! ボンヨー!』とは呼べねえからな」
「なんだと⁉」
今日もそうやって友人と馬鹿な話をしてクラスで過ごす。俺は、目立つことや人とはきっと縁がない。そもそも、キラキラした帰国子女である彼女たちの視界にすら入っていないだろう。
ま、同じクラスになっただけだ。気にすることもねえか。そんな遠巻きから光を眺めるだけ、のはずだったんだが……。




