25 俺はまだ朝日を拝みたいんだ
課題漬けのGWもあっという間に終わり、テストまであと一週間。俺たちはなぜか――
「何これー⁉ ドリンク飲み放題なの⁉ すっごーい! 何飲もう?」
『お店の中だから、はしゃぎすぎちゃダメだよリリー。けど……確かにすごいね』
「見慣れたモンも新鮮な反応があると面白れぇなあ……ってなんでお前がいるんだよ」
「当然でしょ。私も教えることになってるんだから。駄犬から二人を守る役割もあるし」
「駄犬はやっぱり言いすぎなんじゃ……」
「なんか言った⁉」
「ナンデモゴザイマセン」
五人でファミレスに来ていた。
――
なぜかというと簡単。テスト期間で、放課後は部室等への立ち入りが禁止されたからだ。多目的資料室は部室ではないが、黒寄りのグレー。あんまり学校には残らないでくれという学校の意向に大人しく従って、当初はそれぞれ帰って勉強するか。ということになっていたのだが……。
「双葉ー。今回も勉強会やろうぜ」
昼休みの教室で、若葉が俺にそう声をかける。俺と若葉はいつもテスト前にファミレスで勉強会をしており、もはや恒例となっていた。よって今回も二人で開くこととなったのだが……。
「おー、そうだな」
返事をしてから、ふとあいつらのことが頭をよぎる。一応、テスト前にも二人に課題は出してあるが……大丈夫だろうか。
「なんだよ? 煮え切らない顔して。……あ、もしかしてあの二人の事か?」
「……まあ、そんなとこだ」
こいつに内心を読まれたのが若干癪だが、否定する理由もないので素直に認める。
「ふーん。佐倉さんの方は期末テストが勝負なんだよな?。それなら……」
「それなら?」
「勉強会、誘えば? 二つ返事で来そうじゃん」
あくまでも軽いノリで、そう言い放つ若葉。どうやらこいつは、自分の言葉の重みを分かってないようだな。
「まあ、そうかもしれんが……よく考えてみろ。誰かに見つかったらどうなると思う?」
「『なんでその辺の葉っぱどもが高値の花に手を出してるんだよ。お前らは大人しく野原でたたずんでろ雑草ども』……ってところか?」
なんだ、俺たちとあの二人の立ち位置をよく分かっているじゃないか。
「ああそうだ。それでありもしない噂がたってひっじょ~~に面倒なことになる。下駄箱に雑草を詰められる人生、送りたいか?」
「それは嫌だが……。学校からちょっと遠いファミレス行けば大丈夫じゃねーの? 誰もそんな気にしねーよ」
「念には念をだな……。あーでも、まぁいいかもしれねぇな……。こんなことも今回限りだしな」
「だろ? あ、そういえば日本語教えるのって、今回のテストまでなんだっけか?」
「そうだ。これでいつバレてリンチになるかのストレスから解放されるぜ……」
「とか言ってお前、実際……」
ものはさっそく、グループチャットに『若葉とファミレスで勉強会をする予定だが、二人も来るか?』と送っておく。放課後に言ってもいいんだがこういうことは忘れちまうと、めんどくさいからな。
「ん? なんか言ったか若葉? すまん、聞いてなかった」
「いーや、自覚してないならそれはそれで、面白そうだからな」
にやついた表情で、意味ありげに言い放つ若葉。こいつのこの表情、本当に憎らしいんだよな……。
「なんじゃそりゃ。……あ、二人とも来るってさ」
通知が来てすぐに気づいたのか、二人からの返信が速攻で届いた。
『行くいく! いつもの部屋使えないからピーンチ! ってちょうど思ってたの!』
『私も行くね』
とのことである。
「じゃ、おまえの家の方が学校から遠いから、その辺にしよーぜ」
「へいへい」
若干呆れた様子の若葉を尻目に、次の授業の教科書を出していると予鈴が鳴り始めた。
――
そして俺と若葉の男子陣、佐倉と柊の女子陣それぞれで向かうことにして、ファミレスに入って二人を待っていたのだが……。
「ちっ。もしかしたらとは思ってたけど、やっぱりお前も来たのかよ……誘ってねーのに」
当然のようにファミレスの前にいて俺たちを待っていた萩谷に、若葉が文句をつける。
「はぁ? 当然じゃない。私も教えるのを手伝ってるんだから。むしろ、役に立ってないあんたが帰りなさいよ」
「あーあー、あいかわらず減らず口の絶えないこって。これだから女王様は困るんだよなぁ」
「アンタって本当人を煽ることだけは天才的よねぇ……でもね、今回私に声をかけてきたのは、初霜なのよ?」
「はぁ⁉ 双葉、お前裏切ったのか⁉」
そうドヤ顔を決める萩谷の言葉を聞いて、若葉は俺に怒りの視線をぶつける。
「だ、だって二人を誘うなら、萩谷はいるべきだろ……? 俺じゃ全教科を見てやるなんて芸当はできないからな」
「あぁー……じゃあ俺が『二人を誘えば?』って言ったのが間違いだったのかよ……くそ……」
「そういうこと。だからアンタがやっぱり帰るべ――」
「やっほー! おっまたせー♪……ってあれ、なんでこんなギスギスした雰囲気なの?」
言い争っていたら、佐倉と柊が俺たちのテーブルに到着した。二人は店内に入って早々、若葉と萩谷の空気を察し目を丸くする。
『離婚直前の夫婦みたいな気まずさだね……?』
「「こいつと夫婦なんかじゃねぇ(ないわ)!」」
「あ、あぅ…………」
「あー、おまえら、暴走しすぎだ。柊が泣きそうじゃねぇか」
柊の発言はなまじ悪意が無いから、心に刺さるものがあることは否定しないが。
「す、すまん柊さん……」
「ご、ごめんなさい……」
『ううん、私が変なこと言ったからだよね。ごめんね』
「いいえ、柊さんは何も悪くないのよ。とにかく、そういうことで、今日は私も二人に教えるからね」
柊に聖母の様な優しいまなざしを向けた後、俺たち二人をキリっと睨みつけそう言い放つ女王様。そして彼女はこう付け加えた。
「それに、男共でいたいけな女子を囲むなんて本当に破廉恥だし……お目付け役の私が居なきゃどうなるか分かったもんじゃないわ」
「お前が世話される立場じゃね?」
「それは喧嘩を売ってると受け取っていいのかしら?」
「まーまー二人とも。まず注文しよ? スマホで頼むみたいだよ。……あ、ティラミスある!」
今にも取っ組み合いそうな険悪な雰囲気の二人をなだめつつ、メニューを見る佐倉。
「本場中の本場だな。こっちのが口に合うといいけど」
「日本の食べ物はなんでも美味しいから楽しみだよ~」
「おう。あ、そういえばティラミスってイタリア語……だよな? 何か意味とか由来ってあるのか?」
「確かにそれは気になるな」
ふとつぶやいた俺の疑問に柊がぴょこん、と頭を上げて反応し、カリカリと一生懸命にホワイトボードに書き始める。もういつも通りの慣れた沈黙を待つこと数秒、
『「私を元気にして」って意味だよ。Tiramisuって書くんだけど、tiraが「引っ張って」miが「私を」suが「上に」=私を上に引き上げて=元気にしてって意味なんだ』
「なるほど。確かに美味しいデザートを食べたら元気になるもんな」
「分かるー! ということで、ティラミス頼んじゃおー♪ あとドリンクバーかな。みんなは? あ、私読めないから双葉みんなの分注文よろしくっ」
軽快にそう言い放ち、ついでに注文係に俺を任命する佐倉。気使ってるんだかちゃっかりしてるんだか分かんないやつだ。
「はいはい。わーったわーった」
「ん-、俺はドリンクバーと激辛チキン」
「わ、私はドリンクバーだけでいいわ」
「ドリンクバー、と、わ、私も、ティラミス」
わりとがっつりな若葉、ドリンクバー単品注文の萩谷、そしてかぼそい声で答える柊。……ん、柊?
「おお、柊! 話せたじゃないか! えらいぞ!」
「へ、へへ……」
照れ笑いをこちらに向ける。自分から、自然に話せるようになったことは感慨深い。
「双葉、感動するのも分かるけど声大きい」
「親バカじゃないんだから」
呆れたような視線を佐倉と萩谷から向けられる俺。しょうがないだろ、あの柊が人前で話せているんだぞ⁉ 話せなかった姿からの成長に思わず胸がじーんとなってだな……はっ、今はそれより注文注文っと。
「ひとまずドリンクバーが五個に、ティラミスが二つ、激辛チキンが一つな。よーし、頼んでおいたぞ」
「サンキュー。飲みもん取りに行こうぜ」
「うん! 早く行こいこセレナ!」
「待ってよリリー……」
ぞろぞろと立つ三人、俺も続いて行こうとするが萩谷が席を立つ気配がないことが気になった。
「? 萩谷は行かないのか?」
「せ、席から全員離れたら荷物を見てる人がいなくて危ないでしょう。一応」
「そ、そうか。すまん」
確かにこのご時世で若干不用心だったかもしれない。こういう視野の広さは、やっぱりさすが優等生ってところだろうか。心の中でそうぼやきつつ俺も三人の背中を追いかけ、ドリンクバーに向かって飲み物を取ってくることにする。
――
俺たちは席に戻り、入れ違いで萩谷がドリンクバーに向かう。
「よっこいしょっと。あ、双葉お前まーた烏龍茶か?」
「そうだよ悪いかよ。で、お前は……なんだその怪しい色の飲みもんは」
そう俺は、隣に座った若葉の手元にある黒ずんでる奇妙な色の液体に怪訝な目を向ける。
「なんかレモンスカッシュとコーラと……なんだっけ?」
「相変わらずお前はチャレンジャーだな……」
「まーな。あ、佐倉さんたちは何取ってきたんだ?」
「あたしはアメリカーノ! セレナは?」
「わ、私も……」
「へー、二人ともエスプレッソじゃないんだな」
若葉が意外そうに言う。確かエスプレッソは圧力をかけて短時間で抽出するコーヒーで……アメリカーノはそれを薄めたやつ、だったけか。
「エスプレッソ嫌いじゃないけど、苦すぎるなーって思うんだ」
『向こうでも、私は食後に飲むことが多いかな』
「ふ~ん、なるほどな……ま、日本人でも全員煎茶を飲むわけじゃないしな」
「そーゆーこと!」
「なんだその置き換え理解」
そんな会話をのんびりしていたら入れ違いで取りに行ってきた萩谷が戻ってきた。
「あ、凛花ちゃん何取ってきたのー?」
「か、カプチーノだけど……」
「え⁉ お昼にカプチーノ⁉」
萩谷が取ってきたカプチーノを見て、驚きの声を上げる佐倉。柊も若干目を見開いて驚いている様子だ。な、なんでだ?
「そ、そんなに驚くことか?」
『イタリアではカプチーノは朝に飲むのが一般的なんだ』
「そう、だいたい……うん、午前中が多いかな」
「そ、そうなのか……」
『最近は観光客も増えて、それに伴ってお昼にも出すお店も増えたんだけどね』
「じゃあいつかイタリア行ったら、気をつけないとな。双葉」
「いや行く予定はねぇよ……」
国内旅行はともかく、海外旅行なんて考えたことも無いな……。いい経験になるとは思うが、だるがりの俺がそんなことに挑戦できる自信は無い。
「未来は分かんないだろ、だから挑戦を……って、うえぇ……これ……げほっ、くそまず……」
「あーあーほらチャレンジしすぎたから……」
話しながら持ってきた奇妙な色の液体を吸った若葉は、その味のひどさにむせ返る。だから言わんこっちゃない。チャレンジャーもいいとこだ。
「うえ……水取ってくる……」
そしてグロッキーな表情で席を立つ若葉。そんなやつを横目に、萩谷が自身のカプチーノに砂糖を三袋ほどドバドバ入れていた。
「へぇ、萩谷って意外と甘党なんだな」
「……何よ、意外で悪かったわね」
そう若干恥ずかしそうにする萩谷。その姿は普段とのギャップで若干可愛らしく見えて――って、いかんいかん。相手は女王様だぞ。
――
若葉もまた戻ってきて、勉強を進め始める俺たち五人。
「凛花ちゃんの教え方分かりやすいよね〜」
「そ、そうかしら? そう言ってもらえると嬉しいわね……」
教え方を褒めてくる佐倉にタジタジになる萩谷。分かる分かる。ストレートに褒められるとどう反応したらいいか分かんなくなるんだよな。
『しかも万遍なく成績がいいのって、すごいよね……』
そして柊まで、そうキラキラした視線を萩谷に向ける。
「よ、予習復習をしているだけよ。でも、その……ありがとう」
「あー女王様は成績優秀で素晴らしいこって」
「サボってばかりの駄犬は口を出さないでくれる?」
「なんだこの態度の差は」
やっぱり男女で態度変わりすぎだろ、女王様。温度差ありすぎて耳キーンなるわ。あ、これは違うか。
「もー、みんな喧嘩ダメだってばー。ほら、可愛いロボットでも見て落ち着こー? とことこ動いていて、癒されるし……あれ? あの子、こっちに近づいて来たよ?」
「ご注文の、商品デス」
「えー! しゃべった! 可愛い!」
ティラミスとチキンを持ってきた配膳ロボットに、はしゃぐ佐倉。
「はいはい。で、注文したものを取ったら、ボタンを押して返すんだよ」
「おぉ、ハイテクだね……バイバイ、アンドレア!」
「いや勝手に名前つけんなよ」
「そうよ、佐倉さん。女性かもしれないんだから、その名前は不適切よ」
「そういう意味じゃねぇよ」
最近話していて思ったが、女王様も案外抜けているところがあるのかもしれねぇな……。
「双葉も大変だな……チキン取ってくれてさんきゅ。いっただっきまーす」
憐みの目を向けつつ、届いたチキンに手を付ける若葉。
「分かってくれるか若葉よ……」
「まぁ佐倉さんとのやりとりは正直殺意湧くけど、萩谷へのツッコミはお疲れって感じ」
「そんな気軽に殺意を向けてくれるな」
「ふふっ……」
俺たちのくだらないやり取りを見て柊が微笑む。
『みんな、やっぱり面白いよね……個性的っていうか……』
「まあ確かにそうだよな」
『他人事みたいに言うけど、双葉君もその一人だよ?』
「なんだと!? 釈然としないな……」
「みんな元気すぎー。ふふっ。ま、それよりせっかく届けてくれたし、ティラミス食ーべよっ。そだ、スプーンっと……あ、セレナここ置いとくねー。それじゃ、いっただっきまーす!」
勉強道具を置き、スプーンをボックスから自分の分と柊の分を取ってからティラミスに手をつける佐倉。スプーンでふわふわのクリームをすくって、大きめの一口を頬張る。
「…………Buono!」
「ぼーの? ……って、なんだっけ。聞いたことがあるような気がするんだが……」
「あ、ごめんごめんっ。イタリア語で『美味しい』って意味! これ、ふわふわのクリームがすーっとなめらかに溶けてめっちゃ美味しい!」
「ああ! 道理で聞き覚えがあったのか。そんなに美味いなら、頼んで正解だったな」
「うん! あっちのも美味しいけど、こっちも好きだな〜。 どっちもいい! ね、セレナはどう?」
「い、いただきます……」
小さく手を合わせた後、柊もティラミスをひとすくいする。そして口に入れたその瞬間、ふわりと顔を綻ばせる。
「ん……!」
柊はしばらく目を閉じて味わった後、いそいそとホワイトボードを手に取った。
『口当たりがかろやかで、すごく食べやすいね。それでいてちゃんとマスカルポーネの濃厚さも感じられて、甘さもくどすぎなくて好きだな。下の生地もスポンジじゃなくてサヴォイアルディ……向こうと同じビスケットを使っているから、クリームと違う食感が楽しめて――』
「お、おお……すげえな柊……」
「これはもしかして……双葉と似てるかもしれねえな……」
柊がホワイトボードに書いた熱意の感じられる食レポを見て圧倒される俺たち。その反応を見て柊は、顔を赤くする。
「…………あ、あぁぁぁぁ…………」
「セレナー恥ずかしがらなくていいじゃん! あたしよりナイスな食レポでいいと思うよっ」
「そうよ。素敵だと思うわ」
女子二人が恥ずかしがる柊にフォローを入れる。そうだ。そんなんで恥ずかしがってたら俺はとっくに樹海に埋まってるさ。
「でも本当に美味しいよねーこのティラミス……あ、なに双葉こっち見て。食べたいの?」
「え? 特にそういうワケじゃ……」
「しょうがないな~。遠慮しないでいーよ! ほら、一口あーげるっ」
言いかけているところで、佐倉が自分の使っていたスプーンでティラミスをひとすくいし、俺に向けてくる。こ、これって間接キスってやつでは……? そう迫ってくる佐倉にタジタジになっていると、ふと頬にひゅっと冷気を感じる。
「双葉、分かってるよな……?」
「…………朝日を拝めない体にしてあげるわよ?」
やべ、殺される。
「い、いや、本当にいらないんだ、佐倉。俺はまだ朝日を拝みたいんだ」
「? 何言ってるの双葉? 美味しいから一口あげるなんて普通のことじゃん。意味わかんないんだけど」
佐倉はそう言い切ったものの、言葉の勢いとは裏腹に頬がうっすら赤い。 おまけに、さっきまで平気で突き出してきていたスプーンの先も、今はほんの少しだけ揺れていた。
……なんで仕掛けた本人の方が動揺してるんだ。
「と、とにかく、いいからその一口は自分の口にしまうんだ。あ、ほら柊からもなんか言ってやってくれ」
佐倉を説得しつつ、唯一俺に敵意を向けていない柊に助け舟を求める。
「ご、ごめん、そうだよね……」
かぼそい声で応答する柊。お、助けてくれそうだな。それにしても、今日の柊は本当によく話せていると思う。うん、良い傾向だ――
「⁉ なんでお前までスプーンをこっちに向けるんだ⁉」
「…………リリーだけ、不平等……?」
なぜか柊までティラミスをすくったスプーンを俺に突き出してくる。お前も一口寄越せなんて俺は言ってないんだよ! あぁ、余計にややこしいことになっているし、吹き付ける冷気はもはやブリザード級になっているし、そもそも俺たちは勉強しに来ただけだろ。うわぁぁぁ………。
「……これ、どっち食っても死ぬな……」
「「当たり前でしょ(だろ)」」
俺のつぶやきに、即答する若葉と萩谷。こいつらなんでこんな時だけ息が合うんだよ。
「……ほら、あーん」
「あ、あーん……」
「ちょ、いらな……」
迫りくる「あーん」の猛攻と吹き付けるブリザードに俺は処理落ちしかける。そのまま時が止まること数秒。
「はぁ〜……もー、分かったよ。双葉、食べないんでしょ? じゃあ……」
痺れを切らした佐倉が、スプーンの矛先を変える。
「セレナ、あーんして?」
「「「え?」」」
突然の提案に一瞬、空気が止まる。
「だってー、なんかギスギスした雰囲気になっちゃったし……それなら、あたしとセレナが食べさせ合いっこすればよくない?」
「へ……?」
「だって、それなら平等じゃんっ」
「「た、確かに……?」」
確かにじゃねえよ。
「じゃあ……えっと……はい、リリー……あーん?」
「あーん。じゃあセレナも、あーん」
「おい」
ぱくり。お互いにティラミス食べさせ合いっこする美少女二人。絵になる。非常に絵になるが……。
「おー、平和に収まったな」
「これなら眼福極まりないわね」
「いや収まってねえよ」
極まってないとは言いきれないが……こほん。こうして命の危機は去ったが、こう……色々と納得がいかないままだった。なぜだ。




