思わぬ成果
先日、初霜には「楽しさを伝えられるようなやり方であればなんでもいい」とは言ったが、暴論すぎただろうか……。
正直、今回任せたのは適当すぎたかもしれない、と反省しなくもない。だけど、この学校に赴任して二年目でさして慣れてもいないのに、いきなり「イタリアからの帰国子女、ワケありだからめんどう見てあげて~。くれぐれもよろしく☆」なんて上から任せられた私の身にもなってくれ。ああめんどくさい。
そんな中、国語が得意な生徒のなんだかこう……いい塩梅の秘密を見つけたら、ラッキーと思ってしまうのもしょうがないだろう?
結果的にあんな雑な形で任せてしまったが、一応教師として責任は取らねばいけないとは思っている。嘘ではない。……たぶん。いや、生徒を脅して仕事を押し付けたことがバレたら懲戒免職か? それは勘弁願いたい。やっぱり頑張ってくれ、初霜。
心の中で若干の後悔と反省をしながら、多目的資料室のドアの前に立ち、扉のガラス窓から三人の様子をこっそり覗いてみる。
「……だから、こういうことで……」
「えー、ちょっと分かんないんだけどー!」
なにやら初霜の説明に、佐倉が分かりかねていて停滞しているようだ。ん~、やっぱりこうなるよな……。ちょうど来たところだし、解説でも入れておくか……。と、引き戸に手を添えたところで、柊がホワイトボードを掲げているのが目に入った。ん……? ここからだと字までは見えないが、なにやらフォローしているようだ。
「あ、そういうこと! なるほどね〜」
「流石柊だな」
「だよね! それに、本当は双葉よりセレナの方が頭いいよね〜」
「それは認めるが、佐倉にだけは言われたくないな……」
「ちょっとー、なにそれ? 双葉ひどくなーい?」
「先に言ってきたのは佐倉だろ」
「へぇ~~、ふぅ~ん。そういう風に言うんだ~」
「めんどくさい絡み方だな……」
二人の間の空気が段々険悪なものになってくる。ちょっとしたことで場の空気が悪くなるのってよくあることだが、こいつらもまだまだ子供だな。ま、でもたまたま居合わせた高校生なんて、こんなものか。……仕方ない。喧嘩になったら多分責任を取るのは自分だし、仲裁にでも――
「……二人、とも……喧嘩……しな、いで……」
? 今の声はなんだ? この中から聞こえた気がするが――
「二人とも、喧嘩、ダメ……!」
今度はさっきよりはっきり聞こえた。これは……柊の声だ。二人を見かねて仲裁に入ったのか。あの柊が……。
「「!?」」
ほとんど話さない柊が声を出したことに、二人は思わず顔を見合わせ目を丸くして驚く。
「え、今セレナ……喋れてた……よね?」
「あ、ああ……。確かに声が出てたな」
「あぅ…………」
「やったー! セレナが喋れたー!」
「この調子で本番話す言葉も練習しようぜ!」
さっきまでの雰囲気はどこへやら、柊が一言話せたことにより手を合わせて大喜びする二人。当の本人である柊は恥ずかしさで顔を真っ赤にしているが。
二人ともいささか喜びすぎじゃないかとは思うが、このぐらいはしゃぐ方が若者らしいのかもしれない。特に、初霜はあまり感情を見せる方ではないから、こうはっきりと気持ちを表に出しているところを見ると子供らしくて安心する。あいつに任せたのは、案外正解だったのかもしれないな。
「おや、山城先生。なにやら機嫌がよさそうですな」
後ろから声がかかって振り向くと、隣のクラスの担任である森原が立っていた。手には楽譜を持っていることから、部活動の監督のついでに通りがかったのだろう。
「そうですかね。森原先生」
「ええ、なにやら微笑んでいたようで」
どうやら知らぬ間に頬が緩んでいたらしい。若干恥ずかしい。
「それは失礼。まあ――思わぬ成果が出たところで」
そう言って、私はもう一度だけ扉の向こうに視線を向けた。




