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男前なセリフじゃない?


 昨日はそれぞれ休んだ(?)ところで、さて今日も今日とて放課後ぼろ臭い教室で集まる俺達。それに、こんな場所もあと一ヶ月の付き合いだと思えば、まあ悪くないか。そしていつも通り、佐倉(さくら)は黙々とドリル、(ひいらぎ)は俺に向かって発話の練習をすること一時間。


「よ、よろしく……おね……」


 顔を真っ赤にして『よろしくお願いします』を練習する柊。昨日確か言えたんだけどなー……。ま、今は力みすぎてるのかもしれん。


「あー、ちょっと休憩するか? 焦っても上手くいかないしな」


『ごめん、双葉(ふたば)君……』


「大丈夫だ。むしろ休憩するのにいい頃合いだ」


「そーだよセレナ! やっと休憩だー!」


『ありがとう』


 休憩という言葉を聞きつけ、喜びの声を上げその場で伸びをする佐倉、それに反して口を開かず静かにホワイトボードを提示する柊。

 やっぱりこの二人は正反対だよなー……。あれ? そういえば、こいつらの特徴はこの前本で読んだ理論に当てはまるような気がするんだが……。そうだ、この話は雑談のネタとしてちょうどいいかもしれない。


「なあ、思ったんだが……お前らって母語でも多分似たような性格? だよな」


「どういうこと?」


 突然聞いてきた俺に佐倉が質問を返し、柊も不思議そうな顔で頭を傾けている。


「どういう意味かと言うと……、イタリア語でも佐倉はおしゃべり好きで、柊は多分そんなに話す方じゃなくて、読んだり書いたりする方が好きなんじゃないかってことだ」


「まあそうだね~。しゃべりすぎてStai zittto!、じゃなくて……えーっと、静かにしなさい! って先生からよく言われてたな~。へへ」


 まったく反省してなさそうに過去を振り返る佐倉と、合ってると言うように深く頷く柊。


「その能力って第二外国語……二人が習得しようとしている日本語にも転用されるんだとさ」


「てんよー?」


『本来の目的とは別の目的で使われることだよ。リリー』


「その通りだ、柊。要するに、二人の母国語であるイタリア語の能力が、大なり小なりそれ以外の言語の能力でもある程度活きるってことなんだよ」


「ふんふん。……ってすごいね⁉ だって、そしたら自分の国の言語をマスターすればすぐに外国語も上手になるってことじゃないの⁉」


「まあ、ある程度って話だし、外国語自体の勉強はもちろん欠かせないからそんなにうまい話ではないんだけどな」


『なるほど……。母国語のレベルが高ければ高いほど、外国語のレベルも上げられるのかもしれないね』


「そういうこった。だがこれは、主に読み書きに出るらしい。だから――佐倉がなんで話せるかはまだあんまり分かんないんだよな……。ただ、母国語でも読み書きが苦手なら、日本語でも苦手だってことは、一応説明がつくな」


「なーる。あれ、それってつまり……」


「お、気づいたか? そうだ。お前はそもそも母国語の読み書きを鍛えてこいって話だ」


「やっぱり~~⁉ えー、うぅ……向こうにいる間少しでも本を読んでた方がよかったかなぁ……」


『リリー。向こうの本、持ってきてるからなんか貸そうか?』


「だ、大丈夫だよセレナ! 今は日本語やらなきゃだから!」


 柊の提案に、首を横にぶんぶんと振って答える佐倉。さてはこいつ、読書したくないんだな……? 本はいいものなのに。もったいない。ま、でもそういうやつもいるか。


「今はテストがひとまず終わってからだな。とりあえず転用する説が本当なら、お前らの能力が極端なのは母語からそうなんだから当たり前ってことになるな」


『なるほど……参考になったよ! それで、双葉君。その本面白そうだから、今度貸してくれないかな……?』


「あー、いいぞ。だが今回の試験……お前の場合はパーティだな。それが終わったらな」


 試験前に本なんて手をつけたら、全部そっちのけで本に夢中になってしまうのは目に見えている。本好きの業だな。


『分かったっ。試験終わったら絶対、だよ?』


「ああ。約束する」


「ちょっとー。本好きワールドで置いてかないでよーっ」


 そこで、俺と柊の話に置いてかれ気味だった佐倉が可愛らしく不満の声を上げる。


「ああ、悪い悪い。ま、何が言いたいかと言うと、元の個性だから、できなくてもそこまで気にすんなってこと。今はそれを改善するために頑張っているところだから、身も蓋もないかもしれないけどな」


「要は何事も固くなりすぎちゃダメってことか〜。双葉、たまにはいいこというじゃんっ」


「『たまには』ってなんだよ、『たまには』って……」


「だってー……最初はやる気なさそうな感じじゃん? って思ったからさ。でも最近は、意外と頑張ってくれてるよねっ。あたしも頑張らなきゃ」


「が、頑張る……」


「そりゃどーも。あ、そういえば、佐倉……」


「なーに?」


「最近お前、授業についていけてるか?」


「え? えーっと……ちょ、ちょっと難しいかも……」


 俺から目をそらしつつ、指を絡ませもじもじとしながらそう返答する佐倉。案の定、そうだったか……。


「やっぱりな。最近本格的に授業が進みだしたから、そんな気がしていたんだ」


『確かにそうだよね……先週よりぐいぐい進むようになったというか……』


 先週はまだ授業の進みが遅いこともあって日本語のドリルを中心に教えていたが、今後は授業内容もがっつり見ないといけないかもしれん。


「うぅ、バレちゃってたか……。そうそう、宿題もやろう! って張り切るんだけど、難しくてちんぷんかんぷんなんだよねー……」


「そういう時に、頼るために俺がいるんだろ。放課後に持ってきてくれれば教えるから、気にせず持って来いよ」


「え! な、なんか双葉のわりに……お、男前なセリフじゃないそれ?」


 若干驚いたような表情を見せる佐倉と、それに同意するよう頷く柊。二人とも若干顔が赤い気がするが気のせいだろうか。


「でも……双葉も頑張ってくれてるんだもんね。じゃあ、私も明日から宿題、逃げずに持ってくるね」


 佐倉が少しだけ真面目な顔でそう言った。


「おう。持ってこい!……あ、でも俺も分からないところはあるから、それは勘弁してくれ」


「あ、よかった。いつもの双葉だ」


「なんでそこで安心するんだよ!」


 まるで普段から俺が頼りない人間みたいじゃないか。


「ま、とにかく佐倉のゴールは中間テストだ。授業内容も完璧じゃなくていいから……三割ぐらいは分かるようにしような」


 赤点の点数がそのぐらいだから、三割分かればギリギリ逃れられるだろう。


「う、うん……」


『私も話す練習頑張るから、リリー、一緒に頑張ろ?』


「セレナぁ……。うん! 逃げずに頑張るねっ」


 不安そうに頷く佐倉を優しく励ます柊。うん、一緒に勉強する仲間がいるのは、存外心強いことなのかもしれないな。二人のそんな平和的なやり取りを見ているとなんだか少しだけ、この放課後にも意味が出てきた気がした。



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