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個人差があるもの


 昼休み、さっさと飯を食って若葉に断りを入れ、職員室へ行く。目的の人物は……お、いたいた。


「失礼しまーす。山城(やましろ)……先生、ちょっといいですか?」


「んぐ……初霜(はつしも)か。なんだよ飯食ってる最中に」


 口いっぱいにコンビニ弁当の白米を詰めながら振り返る山城。だが気にしない。俺のこの教師への評価は既に大分下がっているからだ。こうして相談しに来たのも、こいつが持ち掛けてきた案件のことだしな。


「それはすみません。でも、周りに聞かれず、かつ早めに相談したいことだったんです。えーっと……あいつらへの教え方のことなんですけど、いまいちどういうやり方が合ってるのか分からなくて。先週は、ひとまず弱点の克服のことだけ考えて、苦手なことばかりさせてたんですけど……週末本を読んで、なんかそれも違うのかなと思って……」


「うーむ。なるほどな……」


「教え方もなんとかメソッドとか色々あるみたいだし、結局何が正解なんですかね……?」


「正解を人に求めるのがちょっと早いぞ。……それはともかく、『なんか違う』と自分で気づけたのはいいことだ」


「?」


 山城の言っている意味が分からず、首を傾げる。


「苦手に向き合うことは大切だ。しかし、ひたすら苦手と向き合って、その他の新しい発見などには見向きもせずに、淡々と勉強する。ストイックで良いことという見方もあるだろうが――それって楽しいか?」


「まあ、楽しくはないですね……」


 むしろ根性無しの俺からしたら地獄だ。


「だろう? 勉強というのは面白くないイメージを持たれがちだが、本来は楽しいものだ。綺麗事に感じるやつもいるかもしれないがな」


「なるほど……」


「だから、私はその楽しさを伝えられるようなやり方であれば正直なんでもいいと思っている。実力主義とは相反してしまうこともあるのが、難点だけどな」


 山城は淡々として見えるが、確かに面白い授業をする。日本史の要点を掴んでいて、たまに入る「承認欲求や権力誇示のためにそんなにでかい墓を作っても、維持費もかかるし迷惑極まりなかっただろうな」等の、客観的なツッコミがしばしば生徒の笑いを誘っている。


「というか言語学習に限らず勉強って、教え方、学び方も個人差があるものだろ? だからまだ学習を始めたばかりだし、そんなに焦らず色々な方法を試してみるといいと思うぞ」


「まあそうかもしれないっすけど……テストまであと一ヶ月だし……」


「最悪ダメでも気負うことは無い。これも経験だと思って、お前自身も楽しむぐらいの気持ちでやってこい」


 山城はそう言い切ると、ふわりと微笑んだ。普段のクールな姿とのギャップに思わずハッとさせられる。


 生徒に無理矢理仕事を押し付ける、あくどい教師だと思っていたがちょっとこいつのことを見直したな。これでもまともな人間なのかもしれない。

 そう評価を改めていると、山城は周りに聞こえない程度の小声で顔の前で手を合わせつつ俺にこう言った。


「査定に響くかもしれないから、くれぐれも頼むぞ」


 ……前言撤回だ。評価はむしろ下げる方向で改めさせていただこう。


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