ニートの才能
「やっほ~。双葉おかえりー」
「……なんでいるんだ?」
家に帰宅しリビングの扉を開けると、我が家のソファでぐってりと寝そべっている怪しげな女がいた。その姿はまるで冬眠中の熊のようで完全に緩み切っている。
「ひっどいなあ。愛しのお姉さんにそんなことを言うなんて~」
「なーにが愛しのお姉さんだ。ただの叔母だろ」
こいつは叔母の緒方早苗。俺の一回り上の年齢の母さんの妹だ。小さい頃はちょくちょく遊んでもらっており、一人っ子の俺には姉のような存在だったので「姉ちゃん」と呼んでいる。若干変だと思わなくもないが、今更「おばさん」と呼ぶのもしらじらしい気がするので、変えずに呼んでいるってワケだ。べ、別に一回そう呼んだら怒られたとかじゃないぞ……たぶん。
「つれないねえ。姉さんも可愛げない子供を産んじゃって」
「それは俺だけでなく母さんに失礼だろ。……それより、姉ちゃんはハローワーク通ってんのかよ?」
新卒から六年勤めた会社を辞めてから現在まで、絶賛無職謳歌中の姉ちゃんが、分かりやすく肩をビクッとさせる。
「ま、まあね?」
気まずそうに目をそらしながら答えるその姿は、「嘘ついてマスヨー」と雄弁に語っているようにしか見えなかった。
「本当は?」
「もうここ二ヶ月は行ってないケド……」
「何やってんだよ……」
情けない嘘を吐く叔母に、思わず自分の額を抑えてしまう。
「て、ていうか働く気ないし……」
「正直姉ちゃんニートの才能はあったけどさあ、いいのかそれで?」
この叔母は昔っから怠惰の奴隷と言っても差支えないぐらいの怠け者で、とにかくだらしがなかった。だからそんなコイツがだらだらとニートしているのは自明の理と言えなくもない。
「うわーん甥が追い込んでくる! あ!洒落て――」
「ないからな」
「デスヨネー」
まったく、相変わらず能天気なやつである。そしてなぜか滔々と言い訳を語り始める。
「なんかハロワの説明会で『早期再就職には労働意欲の維持等様々なメリットがある』って言われたけど、そんなの元からないから辞めたに決まってるじゃない?」
「じゃあなんで就職したんだよ!」
「えー、働かないと世間の目が痛かったし、お金もなかったからしょうがなかったの。けど今は大丈夫!」
「何がだよ」
「世間の目より労働から与えられる苦痛の方が痛いって分かったから!」
「酷いなアンタ!……ま、貯金が尽きて干上がっても知らねえからな」
一周回ってキラキラとした瞳で労働の痛みを叫ぶ叔母に、もはや呆れるほかない。まあ、働くって確かに大変そうだとは思うが。
「双葉のケチー。でもいいよーん。お金使うほうじゃないから貯まってるし〜」
「ああそうかい。んで、今日は飯食ってくのか?」
これ以上この話題を続けていても埒が明かないので、目の前の夕飯のことに話題を切り替える。
「そのつもりー。双葉のご飯楽しみだなー♪」
「でも買い出し行ってないから、ありあわせの食材だぞ?」
「それでもよしとしよう」
「人の家に来て何様だ」
「なによー。アンタの腕を信頼してるっていう私なりの愛のメッセージなのに」
「そーかよ」
自分の料理が褒められて、なんだかくすぐったい気分になる。俺は必要に駆られて料理を始めた人間だが、作った料理を人に「美味しい」と喜んでもらえる瞬間はやっぱり嬉しい。
「だって双葉の料理だと不思議と、好き嫌いなくなんでも美味しく食べれるのよね~」
「あぁ……。姉ちゃんわりと偏食だもんな……」
「それに双葉って、なんだかんだ人のことよく見てるからねー。あたしの顔見て、あ、このおかず嫌いなんだなとかバレるし」
「それは姉ちゃんが顔に出すぎなんだよ」
「それを見逃さないアンタも大概でしょ。とにかく、夕飯よろしくね♪」
「へいへいっと」
まあ今日も母さんは仕事で遅いだろうし、俺も食べてくれる人がいる方が食事の支度もやる気が出るし、いいとするか。久々にこいつの好物でも作ろうかね。材料があればだが。
そんで、今ある食材は……と、キッチンに入ったところで調理台にでかでかと新聞紙に包まれた何かが置いてあるのが目に留まった。貼り付けられているメモ書きには、「ご近所さんからおすそ分けをもらいました。美味しく調理してね☆ 母より」との記載。もらえるのは有難い。だがしかし。
「こりゃでかいな……」
思わず声が出てしまうほどの大きさのたけのこに圧倒される。俺の顔より大きいぐらいのサイズだが、はたして鍋に収まりきるだろうか……?
「あちゃー、姉さん、大きいのもらってきちゃったね」
「……手伝ってくれるか?」
今日の夕飯は、たけのこ祭りになることが決定した。
……人のことをよく見てる、なんて言われても、面倒ごとが増えるだけなんだけどな。




