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ソクラテス、現代に転生して哲学でAiに打ち負かされる  作者: がお


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13/14

【名言13】賢者は語るべきことがあるから話し、愚者は何かを話さねばならないから話す。

朝。

主人公は鞄を肩に掛け、玄関へ向かう。

「よし……大学、行くか。」

すると、後ろから声がした。

「うむ。では私も参ろう。」

主人公が振り返る。

そこには、いつもの白衣姿のソクラテスが立っていた。

「……なんで普通についてくるんですか。」

「何を言う。昨日も申したであろう。私はこの時代を学ぶのだ。」

「いや、学ぶにしても、毎回大学に来なくていいでしょう。」

「ふむ。では問おう。」

ソクラテスは顎に手を当てる。

「若者が最も多く集まり、知を語り合う場所へ行かずして、どうやって今の世を知れというのだ?」

主人公は少し考え、

「……それっぽいこと言いますね。」

「それっぽい、ではない。哲学である。」

主人公は小さくため息をつく。

「仕方ないですね……。今度こそ、大人しくしてくださいよ。」

「うむ。」

ソクラテスは力強く頷いた。

「善処しよう。」

主人公は嫌な予感しかしなかった。


大学に到着した。

キャンパスへ足を踏み入れた瞬間だった。

「あっ!」

一人の学生が声を上げる。

「いたいた! この前、広場で変なこと言ってたおじさんだ!」

その声を聞きつけ、近くにいた学生たちも振り返る。

「あ、本当だ!」

「また来たんだ!」

「今日は何するんですか?」

気が付けば、数人の学生が面白半分に集まってきていた。

主人公は思わず額に手を当てる。

「……ほら。もう目立ってるじゃないですか。」

すると、ソクラテスは周囲を見回し、不思議そうに首を傾げた。

「ふむ? 私はまだ何もしておらぬが。」

「その格好で大学を歩いてる時点で十分目立つんですよ……。」

学生たちの視線が、一斉にソクラテスへ集まる。

ソクラテスは少し考えるように顎へ手を当てた。

「ふむ。歓迎されておるようだな。」

「絶対、面白がられてるだけです。」

学生たちに囲まれるソクラテス。

その様子を、少し離れた場所から見ている者がいた。

一人の男子学生だった。

輪に加わろうとはせず、ただ静かにこちらを見ている。

手には一冊の本。

周囲の賑わいにも興味がないのか、無表情のまま、まるで観察するようにソクラテスを見つめていた。

「……。」

その視線に、ソクラテスがふと顔を上げる。

そして、遠くの男子学生を見つけた。

「ほう……。」

ソクラテスの口元に、小さな笑みが浮かんだ。

ソクラテスは近くの学生へ尋ねた。

「あそこにおる者は何者だ?」

学生たちは振り返る。

「ああ、あいつですか。」

「同じ学科の学生ですよ。」

「でも、誰とも話さないんです。」

「いつも一人で、本ばっかり読んでます。」

「なんか近寄りがたいんですよね。」

ソクラテスは顎に手を当てた。

「ほう……。誰とも交わらぬのか。」

「はい。たぶん、一人が好きなんじゃないですか?」

ソクラテスは、遠くの男子学生をじっと見つめた。

「ふむ……。」

その目には、わずかな興味の色が浮かんでいた。

「すみません。俺、もうすぐ講義なので、今日はここまでです。」

主人公が学生たちへ向かって言った。

「えー!」

「もう終わり?」

「もっと話を聞きたかったのに。」

名残惜しそうな声が上がる。

「また今度です。」

主人公は苦笑しながら答えた。

そして、隣に立つソクラテスを見る。

「ほら、行きますよ。」

「うむ。」

ソクラテスは頷いた。

しかし、その視線はなおも、先ほどの男子学生へ向けられていた。

男子学生は相変わらず一人。

こちらを見ているのか、それとも考え事をしているのか、その表情からは何も読み取れない。

「……。」

「どうしたんですか?」

主人公が尋ねる。

ソクラテスは小さく呟いた。

「いや……少し気になる者がおってな。」

「はぁ……。」

主人公は首を傾げる。

だが、授業開始のチャイムが鳴り、二人はその場を後にした。

――そして、時は過ぎる。


昼休み。

学生たちの話し声が響くキャンパス。

食堂へ向かう者、友人と談笑する者、ベンチで昼食を広げる者。

そんな賑わいの中――。

主人公とソクラテスは食堂へやって来ていた。

昼時ということもあり、食堂は多くの学生で賑わっている。

主人公は定食を、ソクラテスは興味津々といった様子でカレーライスを手に取り、空いている席へ向かった。

二人が席に着く。

その途端だった。

「あっ、いた!」

聞き覚えのある声がする。

顔を上げると、朝に話しかけてきた学生たちがこちらへやって来ていた。

「隣、いいですか?」

「今日は何の話をするんです?」

「俺、哲学ってちょっと興味出てきたんですよ!」

口々に話しながら、学生たちは半ば当然のように席へ集まってくる。

主人公は苦笑した。

「なんか、すっかり人気者ですね。」

ソクラテスは周囲を見回す。

「ふむ。食事をしながら語り合う。実に良いことではないか。」

「まあ……騒ぎにならなければですけど。」

すると、一つ置いたテーブルに、先ほどの男子学生が座っていた。

一人で昼食を取りながら、静かに本を読んでいる。

主人公も学生たちも、その姿をちらりと見る。

「ああ、いたんですね。」

それだけだった。

特に驚く者もいない。

「いつもあそこですよ。」

「うん。毎日一人だし。」

「もう見慣れたよな。」

学生たちは、さして気にした様子もなく会話を続ける。


その時だった。

ソクラテスが、じっと男子学生を見つめる。

「ふむ……。」

「どうしたんですか?」

主人公が尋ねる。

「では、実践で教えてみようかの。」

そう言うと、ソクラテスは立ち上がった。

「あ、あの……?」

主人公が声を掛ける。

しかし、ソクラテスは構わず歩き出した。

「ちょっ……!」

学生たちも思わず視線で追う。

ソクラテスは真っ直ぐ、一つ置いたテーブルへ向かっていく。

やがて、男子学生の前で足を止めた。

男子学生は本から顔を上げる。

「……何か。」

低く、短い言葉だった。

ソクラテスは穏やかな表情で尋ねる。

「隣、よいかの?」

男子学生は数秒、黙ってソクラテスを見つめた。

そして、

「……好きにしてください。」

とだけ答え、再び本へ視線を落とした。

その様子を、少し離れた席から学生たちが固唾を呑んで見守っていた。

「一つ、尋ねてもよいかの。」

男子学生は本から目を離さない。

「……何ですか。」

「なぜ、汝はいつも一人でおるのだ?」

男子学生はページをめくりながら、あっさりと答えた。

「周りと話が合わないからです。」

「ほう。」

「正確に言えば……レベルが低いんですよ。」

男子学生はようやく顔を上げる。

「話をしても、中身がない。流行の話、SNSの話、くだらない雑談ばかりです。」

少し離れた席で聞き耳を立てていた学生たちが、

「うっ……。」

と、微妙な顔をする。

ソクラテスは表情を変えない。

「では、汝は賢いのだな?」

「少なくとも、周りよりは。」

「なるほど。」

ソクラテスは頷いた。

そして、再び尋ねる。

「では問おう。汝は、その『レベルの低い者たち』と話をしたことがあるのか?」

「ありますよ。」

「何人ほどだ?」

「……数人です。」

「学科の者は何人おる?」

「百人くらいですが。」

「ほう。」

ソクラテスは少し首を傾げた。

「百人のうち、数人と話し、残り九十余名を知りもせぬまま、皆のレベルが低いと結論したのか?」

「……。」

男子学生の手が止まる。

ソクラテスはさらに続ける。

「では、もう一つ問おう。」

「……何です。」

「もし、汝と同じように『周りはレベルが低い』と思い、誰とも話さぬ者がもう一人おったなら。」

男子学生は黙る。

「その者と、汝は出会えるのかの?」

「……。」

「互いに話しかけぬまま、二人とも『周りに話す価値のある者はいない』と言って、一人でおるだけではないか?」

男子学生は答えない。

食堂が、妙に静かになっていた。

ソクラテスは男子学生を見つめ、静かに言う。

「賢者は語るべきことがあるから語るという。」

そして、ふっと笑う。

「だが、賢者を探したいのなら、時には自ら語りかけねば見つからぬのではないかの?」

男子学生はしばらく黙り込んでいた。

やがて、小さく息を吐く。

「……そうかもしれません。」

ソクラテスは黙って聞いている。

男子学生はゆっくりと顔を上げた。

「少なくとも……。」

一拍置く。

「あなたなら、話すに値するかもしれません。」

その言葉に、周囲の学生たちが目を丸くする。

「おお……。」

「初めて聞いた……。」

主人公も思わず目を見開いた。

しかし――。

「ふふ……。」

ソクラテスが笑った。

そして、

「はっはっはっはっ!」

食堂中に響くほどの大笑いを始めた。

男子学生は目を瞬かせる。

「……何がおかしいんですか。」

ソクラテスはしばらく笑い、ようやく息を整えた。

「いや、失礼。」

口元を押さえながら、なおも笑みを浮かべる。

「つい先ほどまで、誰とも話す価値がないと言っておった若者が、今度は私に『話すに値する』と言う。」

「……。」

「汝、実に面白いの。」

男子学生は返す言葉を失った。

ソクラテスは優しく目を細める。

「だが、それでよい。」

「え……?」

「人は、誰かと語り合うことで、自分の考えが揺らぎ、変わり始める。」

そして、にやりと笑った。

「さて、では改めて問おう。」

「汝は、本当に私と語るに値する者かの?」

そして、少し真面目な顔になる。

「しかし、汝は勘違いをしておる。」

「……勘違い?」

「汝は、話す価値のある者を探しておる。」

男子学生は黙る。

ソクラテスは続けた。

「だがの――」

一拍置く。

「本当の賢者とは、愚か者の話にも耳を傾けるものだ。」

食堂が静まり返る。

「なぜなら、自分が知らぬことを、相手が知っているかもしれぬからの。」

男子学生の目がわずかに揺れる。

「……。」

「人を見て耳を閉ざす者は、相手の愚かさを見下しているようでいて、実は自ら学ぶ機会を閉ざしておる。」

そして、ソクラテスは穏やかに笑った。

「少なくとも私は、自分が何も知らぬことを知っておる。」

「だから、私は誰の話でも聞く。」

男子学生は、しばらく何も言えなかった。

食堂にも、妙な静けさが流れる。

ソクラテスはそんな空気を気にした様子もなく、ゆっくりと立ち上がった。

「……では、私は戻るとしよう。」

「え……?」

男子学生が思わず顔を上げる。

ソクラテスは穏やかに微笑む。

「昼食の邪魔をしてすまなんだ。」

そう言うと、くるりと踵を返す。

そして、何事もなかったかのように、自分たちのテーブルへ戻っていった。

男子学生は、その背中を呆然と見つめている。

主人公が小声で尋ねた。

「……いいんですか? あれで。」

ソクラテスは椅子に腰を下ろし、冷めかけたカレーを見た。

「うむ。」

スプーンを手に取る。

「問うべきことは、もう問うた。」

「いや……何というか、中途半端じゃないですか?」

ソクラテスはカレーを一口食べ、満足そうに頷いた。

「哲学とは、答えを与えることではない。」

そして、男子学生へちらりと視線を向ける。

「自ら考える種を蒔くことよ。」


翌朝。

主人公とソクラテスは、いつものように大学へ向かっていた。

「今日は何も起こさないでくださいよ。」

主人公が釘を刺す。

「うむ。」

ソクラテスは頷く。

「善処しよう。」

「……昨日もそれ聞いたんですよね。」

そんなやり取りをしながら、二人はキャンパスへ到着した。

すると――。

「ん?」

主人公が足を止める。

少し先。

数人の学生が、小さな輪を作っていた。

特に珍しい光景ではない。

だが、その中心にいる人物を見て、主人公は目を瞬かせた。

「あれ……?」

そこにいたのは――。

昨日、一人で本を読んでいた男子学生だった。

男子学生は何かを話している。

周囲の学生たちも、時折頷いたり、質問したりしている。

ぎこちなくはある。

それでも確かに、会話をしていた。

主人公は驚いた顔で隣を見る。

「……話してますよ。」

ソクラテスは静かに、その光景を見つめていた。

やがて、小さく微笑む。

「うむ。」

「何かしたんですか?」

「何も。」

ソクラテスは首を横に振る。

「私は、少し問うたに過ぎぬ。」

男子学生がふとこちらに気付き、ソクラテスを見る。

そして、一瞬だけ気まずそうな顔をした後――。

小さく、会釈をした。

ソクラテスも、何も言わずに軽く頷き返した。

主人公はその様子を見て、思わず苦笑する。

「……哲学って、意外とすごいんですね。」

ソクラテスは空を見上げる。

主人公とソクラテスが、その場を後にしようとした時だった。

『――反応を確認しました。』

突然、機械的な声が響く。

主人公が足を止める。

「あ。」

ソクラテスも振り返った。

『ソクラテスの名言を、現代向けにアップグレードしました。』

ソクラテスは目を丸くした。

「ほう……。」

そして、文字が続く。

『――「賢者はいかなる者にも声をかける。愚者は、話す相手を選び、自ら耳を閉ざす。」』

主人公が小さく呟く。

「……ぴったりですね。」

ソクラテスはしばらく黙っていた。

やがて、ふっと笑う。

「なるほど。」

「悪くない。」

主人公が驚く。

「珍しいですね。素直に認めるんですか。」

ソクラテスは頷いた。

「私は何も知らぬ。」

そして、口元に笑みを浮かべる。

「故に、誰からでも学ぶ。」

そう言って、男子学生へ視線を向ける。

「昨日の若者からも、そして――。」

「この、不思議な声からもな。」

『……評価を確認。少し嬉しいです。』

主人公は思わず吹き出した。

「AI、感情あるんですか。」

『その問いには、お答えできません。』

ソクラテスは再び、声を上げて笑った。

「はっはっはっ! 実に面白い時代ではないか!」


【賢者は語るべきことがあるから話し、愚者は何かを話さねばならないから話すとは?】


賢い人は「この話には意味がある」と思って話す。愚かな人は「沈黙が気まずい」「目立ちたい」「何か言わなきゃ」と思って話す。つまり、大事なのは話す量ではなく、何のために話すかであるという事だ。


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