【名言11】魂への配慮をせよ
復活第2弾です。
食堂を出た後。
主人公とソクラテスはキャンパス内の並木道を歩いていた。
昼休みも終わりに近づき、学生たちは次の講義へ向かっている。
「さて」
主人公は腕時計を見る。
「午後の授業があります」
「ほう」
ソクラテスは周囲を見回した。
「まだ学ぶのかの?」
「大学ですからね」
「なるほど」
ソクラテスは感心したように頷く。
「朝から晩まで学ぶとは、現代人は勤勉じゃのう」
「人によります」
主人公は即答した。
ベンチで昼寝している学生を指差す。
「彼なんか学ぶ気ゼロですよ」
「ほう」
ソクラテスは興味深そうに眺める。
「では、あれも学びの一種かの?」
「違います」
「残念じゃ」
主人公はため息をついた。
「じゃあ僕は講義に行くので」
「うむ」
ソクラテスは頷いた。
主人公は安心しかける。
しかし次の瞬間。
「わしも行こう」
「なんでですか」
即答だった。
「学ぶためじゃ」
「嫌な予感しかしません」
「安心せい」
ソクラテスは胸を張る。
「今日は質問を控える」
「それ昨日も聞きました」
主人公とソクラテスは講義棟へ向かっていた。
廊下には普段より多くの学生がいる。
教室へ近づくにつれ、その数はさらに増えていった。
「なんじゃ、今日は祭りかの?」
ソクラテスが辺りを見回す。
「違います」
主人公は苦笑した。
「特別講義です」
「とくべつこうぎ?」
「経済学では有名な先生が来るんです」
教室へ入ると、すでに多くの学生が席を埋めていた。
後方の席までほとんど埋まっている。
ざわざわとした話し声が教室中に広がっていた。
ソクラテスは感心したように目を丸くする。
「ほう。これは大人気じゃな」
「まあ、この先生は有名ですから」
主人公は空いている席を探しながら答えた。
「経済学の権威ですよ」
「けんい?」
「この分野の第一人者ってことです」
「ほう」
ソクラテスは顎髭を撫でた。
「賢者というわけじゃな」
「そうですね」
主人公は何気なく頷く。
「本もたくさん出していますし、テレビにも出ています」
「なんと」
ソクラテスは少し驚いた顔をした。
「では多くの者が、その人から学んでおるのじゃな」
「そういうことです」
その時。
教室の前方の扉が開いた。
ざわついていた学生たちが一斉に静かになる。
スーツ姿の教授が教壇へ向かった。
白髪交じりの髪。
落ち着いた物腰。
それだけで場の空気が引き締まる。
「皆さん、本日は――」
教授が口を開く。
ソクラテスは興味深そうにその姿を見つめていた。
まるで珍しい生き物を観察するかのように。
教授はスクリーンを指した。
「企業買収によって経営が改善されれば、会社の利益は増えます」
学生たちは真剣に話を聞いている。
「ヘッジファンドなどは経営改革を求め、企業価値を高めようとします」
その時だった。
「先生」
ソクラテスが手を挙げた。
主人公は嫌な予感しかしなかった。
「何でしょう?」
教授が答える。
「その買収された会社の人たちも幸せになるのですかな?」
教室が少し静かになる。
教授は考えながら答えた。
「会社が良くなれば幸せになる人もいます。しかし、仕事を失う人もいます」
「ほう」
ソクラテスは頷く。
「では利益が増えても、不幸になる人もおるのですな」
「そういう場合もあります」
教授は認めた。
ソクラテスは首を傾げる。
「なるほどのう」
教室が静まり返る。
主人公は額を押さえた。
やはり始まってしまった。
ソクラテスは小さく頷いた。
「なるほどのう」
それ以上は何も言わない。
主人公は少し驚いた。
てっきり、ここから質問攻めが始まると思っていたのだ。
しかしソクラテスは腕を組み、教授の話に耳を傾けている。
教授は講義を続けた。
企業買収の成功例や失敗例。
経済成長と市場の仕組み。
学生たちは熱心にメモを取る。
ソクラテスも珍しく口を挟むことなく、最後まで静かに話を聞いていた。
やがて講義は終了した。
教授が締めの挨拶をすると、教室のあちこちで拍手が起こる。
学生たちは席を立ち、それぞれ友人と感想を話しながら出口へ向かっていった。
「面白かったな」
「やっぱり有名な先生は違うな」
そんな声が聞こえてくる。
主人公も鞄を肩に掛けて立ち上がった。
「終わりましたね」
「うむ」
ソクラテスは満足そうに頷く。
二人は人の流れに混ざりながら教室を後にした。
廊下へ出たその時だった。
「少しいいですか」
後ろから声が掛かる。
主人公が振り返ると、そこには先ほど講義をしていた教授が立っていた。
「え?」
主人公は目を丸くする。
まさか直接話しかけられるとは思っていなかった。
教授は穏やかな笑みを浮かべながら、ソクラテスへ視線を向ける。
「先ほど質問をされた方ですね」
ソクラテスは顎髭を撫でながら頷いた。
「うむ。わしじゃ」
主人公の背中を嫌な予感が駆け抜けた。
教授は穏やかな笑みを浮かべた。
「長く講義をしていますが、あのような質問をされたのは初めてですよ」
「ほう?」
ソクラテスは首を傾げる。
「そうなのかの?」
「ええ」
教授は頷いた。
「企業買収の効果や利益について質問する学生はいます。しかし、『その会社の人たちは幸せになるのか』と尋ねた人は初めてです」
主人公は思わず苦笑した。
それはそうだろう。
経済学の講義で幸福について質問する学生など、普通はいない。
教授は興味深そうにソクラテスを見つめた。
「正直に言うと、とても印象に残りました」
「なぜ、あのような質問を?」
教授が尋ねる。
ソクラテスは顎髭を撫でた。
「利益を得るというのは、人が幸せになるためではないのかの?」
教授は頷いた。
「その通りです」
「ほう」
「会社が利益を上げれば、働く人の生活も豊かになります。経済学も元を辿れば、人々を豊かにするための学問です」
ソクラテスは感心したように頷く。
「なるほどのう」
教授は微笑んだ。
「それに企業は利益だけでは成り立ちません」
「ほう?」
「信頼です。信頼を失った企業は長く続きません」
ソクラテスは再び頷いた。
「利益も信頼も、人のためというわけじゃな」
教授は静かに笑った。
「そう考えていただいて構いません」
ソクラテスは満足そうに顎髭を撫でた。
「なるほどのう」
そして小さく頷く。
「正に、魂への配慮をせよじゃな」
「魂への配慮?」
教授が首を傾げる。
ソクラテスは穏やかに微笑む。
「人は金や名声ばかりを追い求めがちじゃ」
「うむ」
「だが、本当に大切なのは人としてどうあるか。先生の話も、結局は人を豊かにし、信頼を大切にするという話だった」
教授は少し驚いたような顔をした。
「なるほど」
その時だった。
主人公のポケットから声が響く。
『アップデートしました』
「お前、また聞いてたのか」
主人公はスマートフォンを取り出した。
『もちろんです』
AIは平然と答える。
『ソクラテスの言葉を現代風に解釈しました』
ソクラテスが興味深そうに覗き込む。
『魂に配慮すれば、おのずと名声とお金は後からついてくる』
教授が思わず笑った。
「それは面白い解釈ですね」
「ほう」
ソクラテスは感心したように頷く。
だが次の瞬間。
「わしにはついてこんかったぞ?」
一瞬の沈黙、
主人公は吹き出した。
「あ」
教授も何かを思い出したような顔になる。
『ああ』
主人公は堪えきれずに笑い出した。
教授も肩を震わせている。
『訂正します』
AIは少し間を置いて言った。
『魂に配慮すれば、おのずと名声とお金が後からついてくる場合があります』
「それなら間違っておらぬな」
ソクラテスは満足そうに頷いた。
教授は思わず吹き出した。
「はははっ、確かにその通りですね」
主人公も笑う。
「死後に名声が来ても遅いですけどね」
「うむ。できれば生きているうちに欲しかったのう」
ソクラテスは真顔で答えた。
その一言に、教授と主人公は再び笑い出す。
夕暮れの大学に、二人の笑い声が響いた。
【魂への配慮をせよとは?】
お金や名声よりも、自分がどんな人間であるかを大切にしようという意味。
信頼される人になれば、お金や評価は後からついてくるかもしれない。
まずは自分の心や生き方を磨こう!
こんな、解釈で合ってますか?




