【名言10】友を得るには、まず友たれ。
久しぶりに投稿します。必殺の方も一段落したので、また再開します。
朝。
主人公が洗面所で顔を洗い、身支度を整える。
制服代わりの私服に着替え、鞄を肩に掛けてリビングへ向かうと、ソクラテスが湯呑みを片手にくつろいでいた。
「おお、おぬし。朝から忙しそうじゃのう」
「大学ですから」
主人公が答えると、ソクラテスは首を傾げた。
「だいがく?」
「最初に僕らが出会った所ですよ。」
「ほうほう。あそこは学ぶ場所というわけじゃな」
「そうです」
ソクラテスは顎髭を撫でながら、しばらく考え込む。
「して、何を学ぶのじゃ?」
「経済学です」
「けいざいがく……」
ソクラテスは難しい顔をした。
「それは美味いのかの?」
「食べ物じゃありません」
「そうか。残念じゃ」
主人公はため息をついた。
「じゃあ、行ってきます」
「うむ」
ソクラテスは頷く。
だが次の瞬間、当然のように立ち上がった。
「では、わしも行こうかの」
「なんでですか」
「学ぶ場所なのじゃろう?」
「そうですけど」
「ならば、わしも学びたい」
「絶対問題起こしますよね?」
「心外じゃのう。わしはただ質問をするだけじゃ」
「それが問題なんです」
場面は変わり、大学。
広いキャンパスを歩きながら、主人公は何度も周囲を見回していた。
幸い、ソクラテスは物珍しそうに辺りを見回しているだけで、まだ問題は起こしていない。
講義棟の前で主人公は足を止めた。
「僕は授業がありますから」
「うむ」
ソクラテスは頷く。
「しばらく別行動です」
「分かった」
妙に素直な返事だった。
主人公は少し不安になる。
「いいですか。絶対に騒ぎを起こさないでくださいよ」
「わしを何だと思っておるのじゃ」
「問題製造機です」
「ひどい言われようじゃのう」
ソクラテスは肩をすくめた。
「わしは少し大学というものを見て回るだけじゃ」
「本当でしょうね」
「安心せい。わしはただ、人々に話を聞くだけじゃ」
主人公は額を押さえた。
それが一番危ない。
「とにかく、おとなしくしていてください」
「善処しよう」
その言葉が全く信用できなかった。
主人公は何度も振り返りながら講義棟へ入っていく。
一方その頃、ソクラテスは学生たちが行き交う広場へ向かっていた。
時間は流れ、昼休み。
講義を終えた主人公は食堂へ向かう途中で足を止めた。
「そういえば……」
朝から放置していた人物を思い出した。
ソクラテスである。
嫌な予感しかしない。
主人公は辺りを見回した。
すると、中庭の方に妙な人だかりができているのが見えた。
何人もの学生が輪を作り、その中心を覗き込んでいる。
「まさか……」
主人公の頬が引きつる。
嫌な予感が確信へと変わる。
「やっぱり……」
主人公は人混みへ向かった。
近づくにつれ、聞き覚えのある声が耳に入る。
「では君は、友とは何だと思うのじゃ?」
やっぱりだ。
主人公は頭を抱えたくなった。
人垣をかき分けて中へ入る。
そこにはベンチに腰掛けたソクラテスと、それを囲む十数人の学生たちがいた。
まるで即席の講義である。
「友達って、一緒にいて楽しい人じゃないですか?」
一人の学生が答える。
ソクラテスは満足そうに頷いた。
「なるほど。では、一緒にいて楽しい者は全て友なのかの?」
「え?」
学生が言葉に詰まる。
ソクラテスは続ける。
「祭りで隣になった者と楽しく話した。ならばその者も友なのかの?」
周囲から「確かに……」という声が漏れる。
主人公は空を見上げた。
おとなしくしていろと言ったはずなのに。
なぜ講義を始めているのだろう。
しかし不思議なことに、学生たちは誰も嫌がっていなかった。
「何このおじさん」
女子学生が思わず吹き出す。
「変なこと言ってるのに、なんか面白い」
隣の友人も笑いながら頷いた。
一方で、腕を組んだ男子学生が感心したように呟く。
「でも、一理あるな」
学生達は、それぞれ意見を述べている。
「ならば明日も裏切らぬと、どうして分かる?」
男子学生は言葉に詰まった。
周囲から「おお……」と感心した声が上がる。
「はい、そこまでです」
主人公がソクラテスの肩を掴んだ。
「おお?」
「昼ご飯です」
「ほう、飯か」
ソクラテスは素直に立ち上がった。
学生たちから残念そうな声が上がる。
「えー、続きは?」
「またの機会じゃな」
ソクラテスは手を振る。
主人公はため息をつきながら歩き出した。
「食堂へ行きますよ」
「しょくどう?」
「ご飯を食べる場所です」
「なんと素晴らしい場所じゃ」
二人は学生食堂へ向かった。
食堂でそれぞれ昼食を受け取る。
主人公は定食を、ソクラテスは興味本位でカレーを選んでいた。
「ほう。これが大学の飯か」
「冷めないうちに食べましょう」
二人は空いているテーブルに腰を下ろした。
その時だった。
「失礼」
一人の男子学生が近づいてくる。
「急で悪いんだけど、財布を忘れちゃってさ」
男子学生は困ったように頭をかいた。
「昼飯代を貸してもらえないかな? 明日返すから」
主人公は少し迷った。
だが、本当に困っているようにも見える。
「分かったよ」
主人公は財布を取り出し、千円札を差し出した。
「ありがとな!」
男子学生は頭を下げる。
主人公は苦笑した。
「ちゃんと返せよな」
「もちろん!」
男子学生はそう言うと、食券売り場の方へ走っていった。
ソクラテスはその背中を見送りながら尋ねた。
「彼は友かの?」
「え?」
主人公は顔を上げた。
「今の男子学生じゃ」
「ああ、一応」
主人公は箸を手に取る。
「入学した頃からの知り合いです」
「ほう」
「友達かと言われると微妙ですけど」
主人公は苦笑した。
「普段はあまり学校に来ませんし、会うのもたまにです」
「なるほど」
「それに会う時は、大体お金を貸してくれって言われます」
ソクラテスは黙って主人公を見つめた。
主人公はその視線に気付いて肩をすくめる。
「まあ、悪い人じゃないんですよ」
「ふむ」
ソクラテスは小さく頷いた。
食事を終えたソクラテスは、お茶を一口飲むと立ち上がり、先ほどの男子学生のテーブルへ向かった。
男子学生は一人で昼食を食べている。
ソクラテスはその前に立った。
「少し尋ねてもよいかの?」
「え?」
男子学生が顔を上げる。
「おぬしは、あやつの友か?」
ソクラテスは主人公を指差した。
男子学生はきょとんとした顔になる。
「友達……ですけど?」
ソクラテスは静かに頷いた。
「なるほど」
そして、さらに問いを重ねた。
「では、おぬしは友とは何だと思うのじゃ?」
「何って……」
男子学生は少し考えた。
「困った時に助けてくれる相手、ですかね」
「なるほど」
ソクラテスは顎髭を撫でる。
「では、おぬしは今まで彼を助けたことがあるかの?」
「え?」
男子学生は固まった。
「彼には何度か金を借りています」
ソクラテスは静かに続ける。
「それは知っておる」
男子学生は言葉に詰まる。
「だが、おぬしは彼のために何をしたのじゃ?」
「それは……」
答えが出てこない。
ソクラテスは責めるでもなく言った。
「友とは助けを求めるだけの相手ではあるまい」
男子学生は視線を落とす。
「友を得たいなら、まず自らが友であらねばならぬ」
しばらく沈黙が流れた。
「わしはそう思うのじゃ」
男子学生は気まずそうに頭をかいた。
「はは……そうかもしれませんね」
ソクラテスは黙って見つめている。
「まあ、今度何かあったら手伝いますよ」
男子学生は軽く笑った。
その返事に深い反省の色はない。
ただ、その場をやり過ごしたいだけにも聞こえた。
「そうか」
ソクラテスはそれ以上何も言わない。
男子学生はトレーを持って立ち上がる。
「じゃあ、俺もう行くんで」
そう言い残し、足早に食堂を後にした。
主人公はその背中を見送りながらため息をつく。
「全然響いてないじゃないですか」
ソクラテスはお茶を一口すすった。
「そうかの?」
「そうですよ」
「人は他人の言葉では変わらぬ」
ソクラテスは静かに言う。
「変わるとすれば、自ら考えた時じゃ」
主人公は首を傾げた。
「では、今の話は無駄だったんですか?」
ソクラテスは小さく笑う。
「友を得るには、まず友たれ――じゃな」
「え?」
「友とは求めるだけのものではない。自らそうあろうとするものじゃ」
主人公は男子学生の背中を思い出す。
「でも、あの人には伝わってないと思いますよ」
「かもしれぬ」
その時だった。
主人公のポケットのスマートフォンから声がした。
『私は少し違う意見ですね』
主人公が顔をしかめる。
「お前、聞いてたのか」
『もちろんです』
スマホAIは平然と答えた。
『友を得るには、まず友を選べ――ですかね』
ソクラテスの眉がぴくりと動く。
『一方的に利用する人間と付き合い続ければ、損をするのは自分です』
「おぬしは随分と現実的じゃのう」
『統計的な話です』
ソクラテスは面白そうに笑った。
「確かにそうじゃな」
主人公は意外そうな顔をした。
「否定しないんですね」
「なぜ否定する必要がある?」
ソクラテスは肩をすくめる。
「友を選ぶのも大切なことじゃ」
そう言うと、ソクラテスは主人公を見る。
「だがまあ」
「?」
「友なら、もうここにおるではないか」
主人公は首を傾げた。
ソクラテスは自分を指差し、次に主人公のポケットのスマートフォンを指差す。
『その判定には異議があります』
AIが即座に返す。
「却下じゃ」
「却下しないでください」
主人公は思わず突っ込んだ。
昼休みの食堂に、二人の笑い声が響いた。
【友を得るには、まず友たれとは?】
良い友達が欲しいなら、まず自分が良い友達になりなさいという事。
友達だからと甘えるのではなく、友達だからこそ大切にしよう!
最近AI 使用が厳しいですが、僕にとってはAI はパートナーなので、このままのスタイルで続けます。




