珈琲と占いの店 地底人8
太田まりあの話⑤
その後。私たちはプールへ向かった。そして二人して裸足になってプールサイドをデッキブラシで磨いた。思えばこんな風にプール掃除をするのは小学校以来だ。
「手伝わせちゃってごめんねぇ。仁科先生が学期内にやるの忘れてたらしくてさ」
「そうなのね。……あの先生ってけっこうズボラね」
「そうなんだよー。マジで! 悪い人じゃないんだけど……。たまーに尻拭いさせられるんだよねぇ」
澪はさして嫌そうでもなく言うとデッキブラシで飛び込み台の角をゴシゴシ磨いた。そして「角はやっぱ苔付きやすいんだよね」と笑う。
「それで? なんで私と二人きりになりたかったの?」
私は必死にデッキブラシを動かす澪に本題を切り出した。それに対して澪は「ああ、だね。……じゃあ休憩がてら話すよ」とデッキブラシを動かす手を止める。
それから私たちは飛び込み台を椅子代わりに休憩した。空には肌を焼く太陽。こんなことなら日焼け止め塗ってくれば良かった……。と少し後悔を覚える。
「マリーさぁ。連休明けに話してた『自裁の魔女』って覚えてる?」
少し間を置いて澪にそう訊かれた。私はそれに「覚えてるよ」と答えた。覚えてるもなにも今現在B組内はその話で持ちきりなのだ。学生を対象とした復讐代行サイト『自裁の魔女』。そんな眉唾な都市伝説が流行っているのだからB組の生徒も大概だと思う。
「実はね。私なりに『自裁の魔女』について調べてみたんだ」
澪はそう言うとスマホを取り出した。そしてメモアプリのページを開くとそれを私に差し出した。メモアプリにはびっしりと『自裁の魔女』の考察が書き込まれている。
「すごいね。都市伝説好きだって言ってたけど……。ここまで調べるなんて」
「うーん。まぁ好きは好きだけど……。今回は好きで調べたわけじゃないんだよね。たぶんだけど……。B組ん中で今『自裁の魔女』ブームみたいになってるでしょ?」
澪はそう言うとバッグからペットボトルを取り出した。そしてそれを一口飲むと「ま、A組でもちょっと噂にはなってんだけどさ」と続ける。
「そうだね……。B組内ではけっこう流行ってると思う。実は五月の段階でちょこっとだけ話は出てたんだ」
私がそう返すと澪は「だろうと思ったよ」と言って軽くため息を吐いた。そして大きく背伸びをすると「あーあ」と力なく笑った。澪らしからぬ反応だ。何か良からぬことに巻き込まれてるのかな? 思わずそう邪推したくなる。
「それで? その『自裁の魔女』がどうしたの?」
私はやや強めの口調で澪にそう尋ねた。正直澪一人で納得されても困るのだ。わざわざ真夏のプールサイドまで呼びつけたのだから澪にもきちんと説明する義務はあると思う。
「ああ、ごめんごめん」
澪はそう言うと「フッ」と口から息を漏らした。そして「今からの話はオフレコでお願いね」と続けた――。




