珈琲と占いの店 地底人5
太田まりあの話②
七月初旬。夏季コンペ終了直後。夏休みまであと少しという時期の出来事だ。
「お前らにはガッカリだよ」
担任の来栖先生はそう言ってホームルームを始めた。その言い方は明らかに棘があってあまり聞き心地の良いものではなかった。彼はB組にとっては二人目の担任なのだ。思えば彼が担任になってからB組の空気は余計悪くなったように感じる。
「これだけ集まってA組の女子一人に誰も勝てないってどうなんだ? 流石に俺は恥ずかしかったぞ」
来栖先生はそう言うとわざとらしいため息を吐いた。そして「だからお前ら今日は反省文書け! それで秋には勝つぞ!」と続けた。その物言いはあまりにも横暴で……。クラス全体が苦い顔をしていた。最低の教育者。心底そう思う。
その後。私たちは反省文を書かされた。そして書き終わるとみんなの前で一人ずつ立って読まされた。酷い仕打ちだ。一人の教員が一クラスの生徒全員を吊るし上げ。控えめに言って頭がおかしいと思う。
でも……。問題はそこではなかった。いや、生徒を虐待まがいな方法で吊るし上げるのはそれはそれで問題だけれど、彼の行動はそれ以上に醜悪なものだったのだ。
「えーと……。太田と原田と桜井と小御門……。君らは書かないでいいよ。コンペ運営で頑張ってくれてたの知ってるから」
こともあろうにこの担任はそう言ってのけたのだ。要はロイヤルヴァージンの関係者だけは吊るし上げるわけにもいかない。そういうことなのだと思う。
だから私は「そうはいきません」とそれを突っぱねた。そして……。A組に負けた反省文を嫌みったらしく発表した――。
「来栖ずいぶんと荒れてたなあ」
ホームルームが終わると小御門くんが気だるそうにそうぼやいた。
「そうね。まぁ……。先生も悔しかったんでしょう。鹿島さんにボロ負けしたのは事実だから」
私は彼にそう返すと軽いため息を吐いた。残念ながらこれは紛れもない事実なのだ。たった一人の女子生徒に私たち全員が負けた。その事実だけは揺るがないと思う。
「……しっかし鹿島香澄って女は怖いねぇ。だって最終のデザインなんか型紙なしだったよ? あんなことする奴見たことないよ」
「そうだね……。正直アレは私も驚いた」
「だよねぇ。ま、あの子の叔父さんも似たようなもんだけどさ。マジで二人して天才なのな」
そう、これも認めたくないけれど鹿島香澄はこの業界においては真の天才なのだ。センスや色彩感覚に関しては私と大差ないけれど……。縫製に関してはプロだって彼女に敵わないと思う。
「天才……。そうね。そうかも知れない。でも……」
私はそこまで言って一旦言葉を句切った。そして「いつまでも負けてるわけにもいかないよ」と続けた。正直に言えばあのイカれた担任以上に私は腹立たしいのだ。誰に勝とうが鹿島香澄に負けたんじゃ……。花見川高校内では全く意味がないと思う。
私がそんなことを考えていると小御門くんが「まりあちゃんって昔から負けず嫌いだよねぇ」と笑った。私はそれに「そうかな?」とすっとぼけた言葉で返した。




