珈琲と占いの店 地底人4
鳩時計から鳩が飛び出した。そして鳩が時を告げ終わると再び地底人内には静寂が訪れた。この店は昔から異常なほど静かなのだ。たぶんそれはここが地下街開設当時はマッサージ屋だったからだと思う。完璧すぎる防音設備。そのせいで店外の音がほとんど漏れ聞こえないのだろう。
「どこから話そうかしら……」
太田さんはそう言うと口元に手を当てた。そして困ったように眉間に皺を寄せる。
「ゆっくりでいいよ。今日はどうせ帰ってもやることないから」
「そう? じゃあ……」
太田さんは私の言葉にそう返すと二秒ほど目を閉じた。そしてB組で今起きていることについて語り始めた――。
太田まりあの話①
藤岡くん。彼は入学当初から協調性があまりない子だった。特に班行動やクラスで協力する行事などが苦手なようで五月の連休明けには他のクラスメイトに少しだけ煙たがられていたように思う。
「藤岡ぁ。またお前は」
「ご、ごめん」
「ったく。勘弁してくれよ」
――とそんなやりとりが日常的に行われていた。主に藤岡くんを責めるのは私の父の会社の子会社の子供。原田くんと小御門くんだ。
「まりあちゃんからも言ってやってよ。こいつまた俺らの指示無視してんだよ」
原田くんは呆れきった様子で言うとRV主催のコンペのパンフレットを振って見せた。どうやら藤岡くんが原田くんの考えたプランに沿わない行動をとったらしい。
「……藤岡くん。ちょっとだけ足並み揃えてくれないかな? せっかく原田くんがコンペ委員引き受けてくれたんだからみんなで協力してあげたいのよ」
「う、うん。ご、ごめんね。頑張るよ」
私の言葉に藤岡くんはつっかえながらもそう答えた。協調性がないだけで悪い子ではないのだ。単にトロいだけ。少なくとも私の目にはそう映る。
「まりあちゃーん。藤岡くんにはこっち手伝って貰うよぉ。コピー取ってホチキス留めする係欲しいんだよねぇ」
そのやりとりを見かねたのか桜井さんがそう助け船を出してくれた。桜井さんは思いやりと気遣いのできる子なのだ。だから短気で思ったことがすぐ口に出る原田くんのフォロー役を熟してくれているのだと思う。
「小御門っちも! サボってんじゃねーよ。ほら、学内ポスター掲示してこい」
「あいよ。んじゃ行ってくるわ」
原田くんにどやされて小御門くんは面倒臭そうにポスターの束を抱えた。そして「まりあちゃん行ってくるよー」と言ってB組から出て行った――。
思えば……。この頃はまだ今みたいにB組の空気は悪くなかったように思う。原田くんも小御門くんも桜井さんもみんなみんな優しかったし、藤岡くんだってそこまでハブかれてはいなかった。
でも……。そんな平穏な日々は夏休み前から徐々に崩れていったように思う。そうそれは……。B組の担任が学校を辞めた頃からだ。




