株式会社ニンヒアレコード 新宿本社4
二三時。私たちは交代でお風呂に入った。そしてお風呂から上がると客間の和室に布団を三つ並べて敷いた。こうしてこの部屋をまともに使うのはこの家に住むようになって初めてだ。
「知ってはいたけどかすみんの家ってやっぱぶるじょわぁなんだね」
布団を敷き終わると千歳ちゃんがそう呟いた。それに対して私は「親がお金持ってるだけだよ」と軽く返した。実際これは本当の話なのだ。たまたま両親の会社の振り袖レンタル事業が軌道に乗っている。それだけのことだと思う。
「ハハハ……。そこで謙遜しないのがかすみんっぽいね」
私の返しに千歳ちゃんは先ほどよりは幾分元気な声で笑った。そして弥生ちゃんに「お金持ちっていいね」と話を振った。おそらく嫌味で言っているわけではない。千歳ちゃんの性格的にこれは単なる感想だと思う。
「まぁねぇ。香澄ちゃんのご両親は頑張り屋だからね。それでいっぱいお金稼げたんじゃないかな?」
「やっぱそうかぁ。かすみんの親ならそんな感じだと思ってたよ。ほら、かすみんってめっちゃ努力家じゃん? 親御さんもそんな感じよなぁ」
千歳ちゃんは勝手に私の親を努力家認定すると真ん中の布団にごろんと寝転んだ。そして「ふかふかやん。ええやん。羽毛布団やん」と笑った。でも……。私の耳にはその声がどことなく淀んでいるように聞こえた。無理に普段の羽田千歳のフリをしている。そんな風に。
「……それで? 何があったの?」
私は千歳ちゃんの右隣の布団入りながらそう尋ねた。千歳ちゃんはそれに「あ、うん。そうだよね」と返すと五秒ほど間を置いた。そして再びゆっくりと口を開く。
「フジやんがね。帰りに飛び降り未遂したんだ」
千歳ちゃんはそれだけ言うと掛け布団を両手でギュッと握った。そしてその握った手は酷く震えていた。まるで生まれたての子鹿みたいに。彼女の手には不必要な力が掛かっているように見える。
「え? 飛び降りって……。学校で?」
「うん、そう。旧校舎の屋上でさ……。まぁ幸い飛び降りる前に止められたけど……」
千歳ちゃんはそこまで話すと深いため息を吐いた。そして学校で何があったのかを教えてくれた――。




