建国祭、裏方決戦
※本編9〜10話の頃のお話です。
建国祭の三日前。閣下から極秘の呼び出しを受けたのは、クロードさんと、なぜか私でした。
「夜会で、メリアに――妻に、求婚する。本物の、だ。ついては二人に、その、助力を頼みたい」
きました!! ついにきました!! 私は飛び上がる気持ちを堪えきれず少しだけぴょんぴょんしちゃいました。クロードさんは十年来の感慨を噛みしめる顔。そして二人同時に頭を下げました。
「「全力でお支えします」」
作戦会議は、その場で始まりました。議題一、ドレス。
「贈るべきだと考えている。だが、何色が正解なのか、三日考えて分からなかった」
「氷色一択です!!」
即答しました。食い気味に。
「閣下の瞳の色です。殿方が瞳の色を贈るのは『私のものになってほしい』の意! 三百冊中二百八十冊で採用された、由緒正しき愛の告白です!」
「……そんなに前例があるのか。堅実だな。採用する」
議題二、指輪。こちらは閣下から具体的な要求が出ました。
「石は、ダイアを。時間が経っても価値の目減りしないものを。どれだけかかってもいい、最良のものを頼む」
「……宝石商との交渉は私が」
クロードさんが静かに引き受けました。後で聞いたら、閣下は石の意味まで調べ上げていて、「永遠」の石言葉を持つダイアモンドを、最初から決めていたそうです。三日悩んだのはドレスだけ。閣下、やるじゃないですか!
◇
当日の私の仕事は、お嬢様の支度でした。
氷色のドレスに袖を通したお嬢様は、鏡の前で、少し不思議そうにしていました。まさか…?
「あのですね、お嬢様。殿方が奥方に、ご自分の瞳の色を贈る意味、ご存じですか?」
「? 配色を三色に納めるためじゃないかしら? それに、ジークハルト様の色だもの、在庫があったのかも」
「公爵家にドレスの在庫などはありません!!」
だめでした。ポンコツが過ぎます、お嬢様…最後の最後まで、この調子でした。でも、いいんです。答え合わせは、今夜、ご本人の口からされるのですから。
◇
夜会のことは、たぶん本編で語られると思うので、裏方の景色だけ。
断罪の証拠書類一式は、クロードさんが手配した鍵付きの箱で搬入しました。中身は監査報告書の写し、諸侯の人数分。あの夜会で私が抱えた三十八枚が、可愛く見える量でした。成長しましたね、私の腕力も。
断罪が終わって、元王太子殿下が退場して、会場がまだざわめいている中――閣下が、お嬢様の前に、跪きました。き、キター!クロードさんクロードさんクロードさーん!!必死に目で合図し、私とクロードさんは、壁際の柱の陰で、握り拳のまま固唾をのんでいました。
「報告する。……私は、君に恋をしている」
きた。きたきたきた。頑張れ閣下。頑張れお嬢様。あと私の心臓、静かにして。
「三年契約は特例で一括計上して再契約いたしましょう」
――再契約、成立ぅーーー!!!
会場が沸いた瞬間、私とクロードさんは、無言で、勢いよく、ハグッ!そして何度もハイタッチしました。
最後に、ぱん!といい音がして。
そのまま。
…………そのまま、クロードさんの左手の指が私の指に滑り落ちて、私の手を離しませんでした。
え。
あれ。
拍手の音が遠くなって、視界の端で主たちが抱き合っていて。繋がれた手の奥に優しく私を見つめる瞳。
「……あ、あの」
「…………し、失礼、しました」
「いえ…」
クロードさんが、ゆっくり手を離しました。見上げたら、見たことないくらい真っ赤で、耳まで赤くて。年上の、いつも落ち着いた補佐官どのが、なんだか可愛くて…。
そして、私の心臓が、聞いたことのない音を立てはじめました。どく、どく、って。……あれ? これはなんなんでしょう……?
◇
その日の夜、食堂で
「……ソフィ殿。観測日誌は、本日で完結ですね」
「そ、そうですね。目標達成、ですものね。……この気持ち、何でしょう?巣立ちする雛鳥を見送る親鳥の気持ちとでも言いましょうか…へへへ、まぁ、親鳥になったことは無いんですけどね。いいことなのに、なんだか寂しく、なりますね」
「ええ。……ええ、本当に」
クロードさんが最後の文字を書き上げた。小さな灯りの下で、私たちはどちらも、それ以上は何も言いませんでした。
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本作品は、婚約破棄されたので、慰謝料と経費精算願います ~大手会計事務所内定だった転生令嬢は、簿記のわかる公爵さまと複式簿記で恋に落ちる~のスピンオフ作品です。
本編の裏側をお楽しみいただければ幸いです。




