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『瑠璃島館殺人事件』  作者: 西埜水彩
『瑠璃島館殺人事件』
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3/10

tre 事件発生

 ベッドの寝心地が思いのほか良かった。マットレスが固すぎずやわやか過ぎず、腰のところだけへこんでいることもない。


 流石公爵令嬢が泊まる部屋で、最低限のおもてなしのハードルも高いのだろう。


「セアラ様、失礼します、もうじきお昼ですし、身だしなみを整えましょう」


 ドアをノックする音と、リズさんの声が聞こえる。私は慌ててベッドから起き上がり、服と髪を軽く整える。ヤバいお嬢様がベッドに寝ころんでいたとばれるのがまずい。


「大丈夫よ」


「では失礼します」


 リズさんは淡々と私の髪の毛を整える。椅子がないのもあって、ベッドに座ったままなのが不便だけど、リズさんからはそんな感じしない。


「軽い食事会ですしね。ハーフアップにしましょう」


 今はただ伸ばしているだけの髪をリズさんは丁寧にすいて、輪ゴムでハーフアップにする。


 普段私は髪をくくらないのもあって、ハーフアップは慣れない。とはいえ今はお嬢様なので、我慢する。


「では行きましょうか」


 終わったのだろうか、リズさんは私の髪から手を離す。


「ありがとう。大ホールへ行きましょう」


 リズさんに続いて、私は部屋から出て行く。


 部屋の外にはリリさんやミーナさんもいる。


「そういえばリリさんやミーナさんは正式な食事会は初めて?」


 学校で集まって食事をすることはあったけど、正式な食事会はなかったはず。


 そしてリリさんは今回の旅のために雇われた農家の娘で、ミーナさんは掃除担当のメイドさん。身だしなみ担当のリズさんとは違って、2人はこういう食事会には不慣れって感じなのだろう。


「農家の集まりとは違うから不安です」


 設定通りに答えてから、リリさんはミーナさんの後ろに隠れる。


「私も掃除ばっかりで外食には縁がないので、不安です」


 ミーナさんはリズさんの後ろに隠れる。これでリズさん、ミーナさん、リリさんの順で並んだ。


「堅苦しい物ではないから、安心して」


 公爵令嬢はこういう食事会にも慣れているはずなので、私が慰める。


 とはいえ外での食事の経験なんて、私は残りの3人とあんまり変わらないくらい、ないのだけどね。


「では行きましょうか。いつまでのここにいたら時間がもったいないです」


 リズさんの冷静な言葉に従い、私達は昼食会場である一階へと向かう。


「セアラ様、ミーナ様、リズ様、リリ様。こちらが昼食の会場です。12時から昼食の時間ですので、それまでお待ちください」


 ローズさんがぎこちなさそうにスカートをつまみつつ、お辞儀をした。


 きっとローズさんも私達同様に、こういう堅苦しいことは初めてなのだろう。


「ところでどこに座ればいいのですか?」


 ミーナさんがローズさんの様子を気にせず、机と椅子を見る。


 一番奥の席にある短い辺には、すでにカミルイさんが座っている。だけど他にはだれもいない。これは好きに座って良いのかな?


「奥の方でお願いします。セアラ様達が一番偉いですから」


 ローズさんはスカートから手を離して、机を指さす。


 どうやらカミルイさんの近くに座れば良いらしい。そこで奥の先に、私達は座る。


「ローズさん、へアトンさんはいらっしゃいましたか?」


 どこからどう見ても執事のコスプレと断言できるようなかっちり感と安っぽさを同居させている人が、少し早足でここにやってきた。


「まだここにはいらっしゃっていないです」


 ローズさんが冷静に答える。


「ということで呼んできます」


 へアトン様を呼びに、コスプレっぽい執事は行ってしまった。


 どうやら昼食はみんなでとる予定らしい。たしかへアトン様って私達以外で泊まっていたお客様だ。別に私はその人がいなくても問題ないけど、この館で働いている人にとってはそうじゃない。


「皆さんもう始まりましたよ。用心深くしてくださいね」


 カミルイさんが突然話し出した。明るく軽い声は、とても楽しそうだ。


「もう始まっているのですか? そんな感じはしません」


 周りを見ても、特別なことが起きているわけじゃない。それどころか私達とカミルイさん以外ここにいないのだから、全員集合しているわけでもない。


 昼食会場に姿を見せないへアトンさん。果たしてもうこれは事件が起きていると断言できるのかはまだ分からない。


 そもそも何人今この館にいるのかも、私は知らない。ローズさん、コスプレっぽい執事、カミルイさん、へアトンさん、それから私達4人以外にも誰かいるのかな?


「まさか1人ずつ殺されるとかないですよね?」


 リリが素っ頓狂なことを言う。1人ずつ殺されるなんて危ない考え、どこで学んだの? 同じ学校で学んでいる私にはさっぱりなんだけど。


「いえそれもありません。殺されるのは1人だけです」


 1人だけでも殺されたら、大問題だって。


「ギャー」


「始まりました?」


 大きな悲鳴と共に、私は立ち上がる。これは何かが始まったみたい。


「そうですよ。では行きましょう、皆さん」

 私、メイドの3人、そしてローズさん。その5人を連れるようにして、カミルイさんは2階へ行く。


 へアトンさんが使っている部屋の前で、コスプレっぽい執事がいた。


「死体です、死体。へアトンさんが死んでいます」

 私はコスプレっぽい執事の話が終わる前に、部屋の中へ入った。


 そこには布団にくるまっている人に、ナイフが刺さっていた。布団の綿がはみ出るほどだから、かなり深い傷なんだろうな。うんこれは死んでる。


「本当だ、へアトンさんが死んでいます」


 へアトンさんが死んでいる。私はへアトンさんと会ったことがないから実感わかないけど、それでも人の死は悲しい。


「セアラ様殺人事件です。どうしましょう」


 リズさんは部屋から離れる。


 今まで私は人生でいろいろあったけど、こんな風に殺された人を見るのは初めてだ。


 しかもこんな風に自分がいた部屋の隣となると、初めての経験になる。


「こりゃあ死んでいますね」


 リリさんは落ち着いて、室内を見ている。


「そうですね、もう始まったみたいですし、調べましょう」


 ミーナさんも部屋のあちこちを確認し始めた。


「リリさん、ミーナさん、ストップです。今から説明しますから、聞いてください」


 カミルイさんが大きな声を出す。


 果たしてカミルイさんは何を説明するのだろうか? へアトンさんが死んで、これからどうするのかってことかな?


 まあこれで始まったわけだし、あとは楽しむだけ。


 なんせ私はこのために、ここへ来たのだから。



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