5.Cafe Time with you(8)
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8.始動③
「瑞葵、あと石川君と健太郎君。ちょっと話をしよう」
怒涛のミーティングの後、兄が声をかけてきた。
「正直、かなりきついスケジュールだ。でも、自分一人が背負うんじゃない。瑞葵が指示を出して動いてもらうんだ。石川君、瑞葵の下についてもらう人選は任せる。哲平が文句言ったら俺が話をするから。健太郎君はサーバーの負荷を軽くするためにも“削る”ことを手伝って。瑞葵にもそのあたりを教えてやってくれ」
いいねと念押しをし、兄は哲平さんの元へと向かった。
兄も話も、まだちゃんと理解ができているとは言えなかった。
でも、何かしていないと不安につぶされそうになり、いてもたってもいられなかった。
「石川さん、私はどうすれば、いいのでしょう」
震える声で指示を貰おうとした。
「山本瑞葵さん。それは、今からあなたが考えるのです」
石川さんは、そう言い切った。
そうだった。自分が指示を出す側なのに。
(何やっているんだろ……。また、甘えようとしたわ)
唇をキュッと引き締め、自責の念に駆られる。
握った拳が震える。
「とは言え、パニックになるのもわかります。まずは落ち着いて全体を把握しましょう。そして、エンドラインから逆算しましょう。後は神崎透さんと打ち合わせが必要なのでは?」
「瑞葵ちゃん、誰でも初めてのことは不安になるよ」
健太郎君はそう言って背中をそっと撫でてくれた。彼は人の上に立つことを知っているのだろう。
「そう、だね」
人に指示を出すことなんて、できるとは思えない。でも、そうしないと、間に合わない。
「時間が限られている。全体を確認しよう」
健太郎君の言葉は、大切なことを気付かせてくれた。
「うん、ありがとう。あと神崎さんに連絡するわ」
そう言って、早速透さんに電話をかけた。
電話口で、透さんと合うことを決め、場所を自宅に移すことにした。
「お兄ちゃん、今から自宅で神崎さんと話し合いをすることにしたよ。お兄ちゃんも一緒にどうだろ」
「瑞葵、いい動きだね。でもな……」
兄は少し渋っているように見えた。
「神崎さんと2人きりは、ちょっと……」
言い淀むと、兄はすぐに察した。
「帰ろう。石川君、明日いろいろ伝えるから。健太郎君も、また明日ね」
そう言って扉へと向かう。
「あ、そう言えば、私の仕事は……」
「瑞葵の仕事はヴォルフシュバルツだよ。哲平には文句言わせない」
兄はうなだれている哲平さんを残し、私と一緒に帰路に就いた。
帰宅から程なく、神崎さんが合流し3人で話を詰めた。
「瑞葵が不安に思うのは、全体が見えていないからだよ。どうしたい?どこまでやりたい?」
「私が決めて、いいの?」
2人に問いかけると、何を悩んでいるのかと苦い顔をされる。
「君が、担当でリーダーになるんだ」
透さんは、はっきりと告げた。
「君ならやれると思っている」
言葉が、胸の奥に落ちてきた。
(私で、いいんだ)
思わず、生唾をコクリと飲んだ。
嬉しい反面、責任が、重圧が、重くのしかかる。
言われたことをするのではない。
一度だけ、長い深呼吸をした。
「それじゃ、私がしたいことを、――言います」
やってみたいことを、面白そうだと思うことを。
療養中ずっと書き綴っていたノート3冊を、ためらいながら棚から取り出す。
何度も端をなぞり、覚悟を決めて二人に語り始めた。
兄と透さんは、途中「そこまで考えていたのか……」と唸りながらも耳を傾けてくれていた。
1年度のリリースに、どれだけ反映できるだろうか。
ここからが、自分との戦いになる予感しか、ない。
明日も投稿予定です。




