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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣に、いてもいいですか。ずっと――  作者: 蒼宙 つむぎ


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5.Cafe Time with you(3)

本日1話目です。

3.不思議の国の…… ~石川聡一side~


 出勤すると社内がざわついていた。

「坂口さん、どうしたんですか?」

 人だかりから少し離れたところにいた坂口裕子へ声をかけた。

 朝の挨拶と共に、彼女から聞いた話に自分の耳を疑った。

「同期の久遠君が帰国して早々、山本瑞葵さんに抱き着いていろんな意味でカオスになっています。石川さん、なんとかしてください」

 冷静沈着な坂口裕子が苦い顔をしながら指さす。

 その先には山本瑞葵ちゃんが久遠健太郎に抱き着かれている。

「……」

(なんてこった!彼女が!固まっているから好き勝手しやがって!健太郎め!)

 どうしたものかと動きが止まってしまった。


「あ、二人が哲平社長に連れられて行きますね。社長、機嫌悪そうですね……」

 坂口裕子の言葉にハッとする。

「あ、ちょっと行ってくるか……」

(今すぐにでも後を追いたいけど、まずはギャラリーを何とかしないとな)

 人をかき分け、傍観者の視線をこちらに向ける。

「皆さん、始業時間ですよ。ここに集まってないで仕事しなさい」

「え~。でも、気になるじゃないですか」

「そうですよ。石川さんも気になりますよね」

(もちろん気になる!だが!ここは会社だからな)

「彼らは同期ですからね。再開の挨拶といったところでしょう。すぐに仕事に向かわないのであれば、次回の人事考課に影響するということをお伝えしなければなりませんね」

 眼鏡をクイっと上げながら集まっている面々の確認をする。

(噂好きないつもの人たちですね。本当に次回の人事考課でしっかり見る必要がありそうですね)

 しっかりと脳内メモにインプットして社長室へと向かう。


 扉の前に立つと、ドアの隙間から冷気が漏れ出しているのを感じる。

(哲平、これはまずいか)

 ドアノブに手をかけると久遠健太郎の叫び声が聞こえる。

「瑞葵ちゃん!」

 ガタッという音も聞こえたので倒れたのかもしれない。

 慌てて中に入ると真っ青になった山本瑞葵ちゃんが倒れそうになっていて、久遠に支えられている。体が小さく震えているようだ。

 チッっと小さく舌打ちをしたがすぐに言葉を発してごまかす。

「哲平!いい加減にしろ!」

 哲平の目が座っていた。

(面倒な奴だな)

「健太郎君と山本さんは……、ちょっと久しぶりに会って舞い上がったのでしょう。ですが、一応ここは会社です。風紀を乱すのはやめなさい」

 哲平と彼らの間に割り入り、二人を退室するように促す。

 ふらふらになっている瑞葵ちゃんが気になるが、今はこっちを何とかしないと問題ありだと判断する。


「哲平、お前ちょっと冷静になれ。久遠健太郎は彼女の同期なんだろ。感動的な再開なんだ。少しは大目に見たらどうだ」

「石川が。すまない。ちょっと気持ちを抑えられなくなった」

「ちょっとか?これが。彼女、立つのも無理になるくらいの威圧出すなよ」

「え、瑞葵が?」

「はあ。見えてなかったのか……。最近のお前、どうかしてるぞ」

「……」

 自覚あるのかだんまりな哲平だ。

(だけど、瑞葵ちゃんをあそこまで追い詰めるのは、許せんな)

 許せないが、哲平の落ち込みがひどいので、さらに追い詰めるのはやめることにした。


「石川、俺はどうしたらいいんだ?」

 頭を抱え、弱弱しい声で助けを求めてくる哲平。

「お前、もしかして……」

「……ああ、彼女のことになると、抑えられないんだ」

「哲平も、か」

 小さくつぶやいたので、哲平には聞こえていない。

 通勤鞄のポケットに忍ばせていた、今一番の大切なものリスト第5位の代物を手にする。

 じっと見つめ、お別れの挨拶を済ませ、哲平のデスクにコトリと置いた。


「……石川。これは、なんだ」


「ん?これか?見てわからんのか。推し活は楽しいぞ」


「推し活……、は、楽しい、のか……?」


「当たり前だ。推しに貢いでなんぼだ」


「そう、か……」


 若干、引いているように見える哲平。

 まだ、推し活がわかっていない初心者なのだろう。


 ああ、ファンサイトで限定販売されていたミニマスコットの“アクたん“。

 “不思議の国のアクたん”というレアものだ。

 水色のワンピースが似合い過ぎて、裏で高額取引されているらしい。

 仕方がないので、落ち込んでいる哲平に譲ってやることにした。


2話目も投稿予定です。

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