5.Cafe Time with you(47)
47.罪① ~巌side~
ログハウスに哲平の親友を届け、安心した。
メモを受け取った時、正直、肝を冷やした。
緊急の連絡を受け、メモを確認してすぐに隊を編成し、久遠氏に連絡した。
「すまないが、手を貸してもらえないだろうか」
『巌殿ではないか。いかがされた』
「哲平の親友兄妹が、狙われている。俺は樹君をサポートするが……。妹の方の護衛が必要で……」
なんとも切れの悪いものの言い方をしていると、自分でも情けない。
だが、なんとかしてやりたいと願った。
哲平の親友のため。
俺の罪のため。
俺が、そもそもの原因を作ったのだから――。
山本兄妹の母が、あの女の義姉妹だと、知らなかった。
彼女の実家とは政略結婚の話が持ち上がっていた。
すでに俺には恋人と同棲しており、子どもも彼女のお腹に宿っていた。
一般家庭の彼女との婚姻はなかなか認められず、焦っていた。
そんな時に舞い込んでいたこの話。
兄はすでに結婚し、哲平が産まれていた。
だから父たちは、宙に浮いていた俺をその対象にしてしまった。
俺はずっと拒否し続け、そのうち実家にも帰らなくなった。
「巌君、ご実家に帰った方が、いいと思う」
急に、彼女がそんなことを言った。
「幸子、何を言っているんだ。俺は帰らん。お前と一緒になるんだ」
俺の言葉に、彼女は苦笑いをした。
「私は、お腹の子と二人で生きていくわ。あなたは……あなたには結婚のお話しがあるのでしょう?」
「なんで、それを……」
「今日、ご実家の方が、お見えになったの。別れてくれって……」
「クソっ!」
俺は、何にもできない若造だった。人脈もなく、自由に使える金もない。
貯金も、底を尽きそうになっていた時だった。
それでも、なんとかなると思っていた。
そんな時、あの蛇女が近寄ってきた。
「ねえ、貴方に縁談が来てるって聞いたの。あの、旧家の娘と」
びっくりした。
「だから何だというんだ」
こいつも幸子と別れろというのかと思ったんだ。
「でも、貴方には、大事な人が、いるんでしょう?別れたくなんか、ないんでしょう?」
「……」
何も言わなかった。
いや、言えなかった。――図星だったから。
「私が、なんとかしてあげても、いいわよ」
悪魔のささやく声が、耳に届く。
「……何が、望みだ」
きっと、見返りを望んでいるだろう。
「ふふふ。大した事じゃないの。とあるパーティに出たいだけ」
「……出ればいいだろう。招待されればいいだけだ」
「それがね……。招待状は父だけだったの。でも、私も煌びやかなところに行ってみたくて。ね、何もしないわ」
全く知らない女ではなかった。
とある政治家の娘だと聞いていた。
下手なことは、しないだろうと、……思ってしまった。
柳家の主催のパーティの招待状を、1つくすねて渡した。
そして、全てが崩れていった。
そのパーティの日、俺は産気づいた幸子と一緒に病院にいた。
難産だった。
丸2日経っても、産まれない。
帝王切開をするしか、無かった。
手術室に向かう直前、幸子が話しかけてきた。
「巌君、ありがとう。私、幸せよ」
「変なことを言うんだな。これから、俺たちは幸せになるんだ」
「ふふ……。そうだったわね。……ねえ、私たちの子供、きっと女の子だと思うんだ。名前は、“雪”ってつけたいな。あなたと初めて会った雪の日を忘れたくないから」
「“雪”か、いいな。そうしよう。男だったら?」
「その時は、巌君が名前を付けていいわよ」
そう言って笑った彼女の顔は、穏やかだった。
「それじゃ、行ってくるね。……巌君、また、ね」
その言葉が、最後だった。
手術中、幸子の容態が急変し、心臓が止まった。
血栓だった。
手を尽くしたが、どうにもならなく、俺と無まれてきた“雪”が残された。
どうしようかと病院でうなだれていた時、実家のものがやってきた。
「巌様……。家にお戻りください」
「なんで?俺は結婚しない。ほっといてくれ。幸子が、亡くなったんだ」
「結婚の件は、必要なくなりました」
「なくなった?」
「お相手のお嬢様が、家を出てしまわれました」
今さらだと思った。
もっと早くに解決していれば、幸子の運命は変わったかもしれないのに。
イラつきが沸き起こって、その男の胸倉を掴んだ。
「だったら、俺なんか必要ないだろう!」
叫ばずには、いられなかった。
思いを吐き出すしか、できなかった。
「巌様……。兄上様が、……人を刺しました」
「はあ!兄上が?あり得ん!あの優しい兄上がそんなこと!」
「本当でございます。パーティで、奥様のことを、泥棒猫呼ばわりしたご令嬢がおられ、揉めておりましたところを……」
「ご令嬢、といったか。誰だ?どんな女だ」
「その、とある政治家のお嬢様、だそうです」
俺は、取り返しのつかないことの原因を作ってしまった。
血の気が、引いた。
「それで、兄上は……」
「警察に」
「……兄が、出てきたら、俺は必要ないだろう」
「いえ……。お手紙を、預かっております」
そう言って、白い封筒を手渡された。
“巌へ
幸子さんは、生きているだろうか。あの女が、お前と接触したと聞いた。
俺が、あの女の男にならなかったばかりに、お前たちを巻き込んでしまった。
すまない。
警察から出たら、あの女を殺しに行く。
家を継いでくれ。
出来れば、哲平を頼む。
兄より“
吐きそうだった。
幸子が、生きているかどうかなんて、なぜ聞いてきたのだろう。
とっさに、雪のことが心配になった。
保育器に入っているはずの雪を探さないと。
俺は、病院内を走った。
産科病棟に着き、扉を開けると――。
ハサミを振り上げる看護師を目にとらえた。
「雪!」
急いで雪を庇い、右肩にハサミが刺さった。
「どけ!その子を殺さないと、私の子供が殺されるんだ!」
看護師は、泣きながら鋭利なものを探し、振りかざしてくる。
ああ、俺はとんでもない蛇女に絡みつかれてしまったんだ。
騒ぎを聞きつけた人たちが警察を呼び、看護師は捕まった。
「私の家族が殺される」
とつぶやきながら。
後日、看護師の家族は、忽然と姿をくらました――とニュースで知った。
長くなったので、今日は1話のみです。




