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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣に、いてもいいですか。ずっと――  作者: 蒼宙 つむぎ


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5.Cafe Time with you(42)

42.終わり ~樹side~


 俺は、目を瞑り襲撃を受け入れることにした。

 俺の命で瑞葵が助かるなら、いいと思ったからだ。


(俺はあの時、本当なら助からなかったんだ)

 瑞葵が助けてくれなかったら、両親とともに虹の橋を渡っていた。

(瑞葵、ごめんな)

 俺が目を付けられなかったら、明るい人生を送れていたかもしれない。

 ただ、俺たちは平穏な生活を送りたかっただけなのに。


 死ぬのは、怖い。

 痛みを受けるのも嫌だ。

 でも、1番怖いと思うのは、“俺”の思考が消えて“無”になることだ。

 何も感じない。

 何も考えられない。

 それが、怖い。

 そして、その瞬間が間近に迫ってくるとわかっていることが、怖い。


 自分の死は怖いけど、瑞葵が、妹が俺のせいで命を奪われることの方が、怖い。

 だから、死を受け入れることにした。



 あれから何秒経っただろう。

 衝撃が、襲ってこない。

 痛みを感じずに、“無”にならない死ってあるのだろうか……。


 恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。



「樹様!諦めないでください!」

「我々が、守りますから!」


 この集落の人たちだろうか。

 ごく普通の服を着た男女が長剣を持って襲ってきていた奴らと戦っていた。


「え?なんで……」

 俺は、この人たちを知らない。

 でも、俺の名前を呼んで、戦ってくれている。


「お嬢様のご子息!我々はそれだけで戦います!」

「お嬢様を守れなかった私たちは、お嬢様のためにあなたたちを守りますから!」

「だから、一緒に戦ってください!」


 ああ……。

 母さんは、愛されていたんだ。



 涙がこぼれそうになって、ギュッと目を閉じた。

 そして、大きく息を吸い込んだ。

(俺が、諦めたら、ダメだね。――母さん)



 目を大きく開け、目の前をしっかりと確認した。

 あのクソ女が、逃げようとしている。

(そうは、させるかよ!)



 左口角をニヤリと上げ、大声で叫んだ。

「大した事ねえな!クソ女!逃げるのかよ!」


 あいつは、こちらに顔を向け、睨んできた。

 それでも、まだこちらには向かってこない。

(クソ!もう一押しするか)


「腐れ外道!お前は逃げるだけしか能がないのか!そうやって自分で何もできない女は、男の前で股を開いてろ!物好きがいたらだけどな!」


 あの女はプライドが高い。

 女であることが武器と思っていても、それを下げずむ言い方をされたら、許さないだろう。


 あいつを支えていた奴が引きずって行こうとしていたが、振り払ってこちらに向かってきやがった。

(ちょろいな)

 右の口角も上げ、笑った。



 俺は、サバイバルナイフを鞘から抜き、キョウコを目がけて走り出した。

 あいつの護衛が一心不乱に俺に向かおうとしたが、黒服や集落の人たちに背後から切り付けられ、あっけなく散っていく。

 集落の人たちは、普通の一般人とは思えない動きだ。

(ほんと、心強ええ!)


 横目でそれぞれの動きを確かめ、俺はあの女の動きを捉えた。


「悪いな。お前はここまでだ」


 軽く腰を落とし、強く踏み込んだ。

 加速した俺は、そのままキョウコの脇腹を刺す。



 死にはしない。

 今は殺すつもりはない。

 少し、話をしたかった。



 痛みで倒れ蹲る女を見下ろした。

「お前、どれだけの人間を殺してきた」

 冷たい息を吐きながら、確認の言葉を話す。


「知らないわ。数えてなんかいないもの」

「数えきれないほど、か。救いようがないな」


 刺した脇腹を踏みつけ、のたうち回る醜い生き物に侮蔑の視線を送る。

 ナイフを持ちなおし、大きく振りかぶった。

「これで、終わりだ」


 振り下ろそうとした時、横から腕を掴まれた。


「樹様が手を下す必要はありません」

 手傷を負った人々が集まっていた。

 血が滴っている人もいる。


「樹様、我々にこの場を譲ってくれませんか?」

「え?」

「我々は、お嬢様に助けられた者たちです。復讐を、させてください」

「いや、人を殺すんだ。俺が罪を背負うよ」

「それはいけません。この土地は、日本であって日本ではありません。日本の法律はここでは施行されません。でも、それは日本人の樹様ではだめなのです。我々は、国籍がありませんから、許されるのです。ご理解ください」


 彼らの言っていることを確認する術はきっとない。

 でも、彼らの覚悟を奪うのも違うのだと、思った。



「彼らに任せて、帰ろう」

 巌さんが歩きながら声をかけてきた。


「いいのですか?」

 最後に、もう1度聞いてみた。


「哲平の親友を無くしたくない。彼らの言葉に甘えよう」

 そう言って、背中を押された。



「皆さん……。ありがとう」

 頭を下げ、巌さんの後を追った。



 彼らはあの女を囲み、何かを話していた。

 でも、俺は聞かないでいた。


 何かが暴れる音がしばらく続いた。

 そのうち、その何かは永遠に動きを止めた。



 全てが、終わった――。


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