5.Cafe Time with you(41)
41.諦め ~樹side~
とある集落に到着した。
頭は冴えていた。
「電源を、入れます」
静かに、言った。
ポケットから、瑞葵のスマホを取り出し、側面のボタンを長押しした。
ゆっくりと画面が明るくなり、ロック画面が映し出された。
最後に撮った、家族写真だった。
鼻が、少しツンとした。
「総員、敵襲来は10分後、収束時間15分とする」
巌さんはそう言ってスマートウォッチにタイマーをセットした。
周りの黒服たちも一斉に腕で操作する。
「どうして15分、ですか?」
10分でも問題ないのではないかと思い聞いてみた。
「月光のソナタがそれくらいの長さだ」
Ludwig van Beethoven:Sonata quasi una Fantasia(月光のソナタ)
巌さんはこの件を、レクイエムの意味を込めているのかもしれない。
だけど、触れてはいけない大人の事情なのだろうと思って、それ以上は口を閉ざした。
夜空に、2基のヘリが飛んでいる。
迷わず、俺に向かってやってくる。
電源を入れてから9分。
到着は予定通り、10分。
「樹君、躊躇するな」
「はい」
「……哲平を見捨てないでやってくれ」
「……あ~。はい」
「俺にもしものことがあった時は……サポー「縁起でもねえ!生きて帰りゃいいだろ!」」
思わず、偉そうなことを言ってしまった……。
(まあ、生きていたら叱られたらいい)
そう思いながら笑みがこぼれた。
俺の心は静かだった。
周りの音が消えて、感覚が研ぎ澄まされていた。
ヘリから飛び降りてくる奴らは、猛スピードで俺に向かってくる。
黒服さん達が横から飛び掛かり、ナイフとナイフがぶつかり火花が散る。
そんな中、数人に囲まれてやってくる影がこっちに向かって歩いてくる。
“キョウコ”だ。
「あら?なぜ樹様がここに?あの女はどこですの?」
首を傾げ、不思議そうに話す。
「はは、ここにはいないよ」
「まあ、残念。……樹様、なぜナイフなんてお持ちなの?」
反対側に首を傾げるこいつの言動は、おかしい。
「わかってるだろう。お前をここで葬るんだ」
目の前の女は、おかしそうに笑う。
「それは、困りました。樹様と私は夫婦になるのに……。今なら許してあげますわ」
訂正。
イカれている。
俺は銃を構えた。
狙いを定め、引き金に手をかける。
「終わりだ」
パンッ
1発の銃声。
あいつの右肩をかすめた。
(やっぱり初めてだと無理か……)
女は俺が本当に撃ってくるとは思っていなかったのだろう。
体に傷を負いよろめいたが、次の瞬間鬼の形相で睨みつけ、喚きだした。
「何してくれてんの!せっかく、私が、優しくしてやってるのに!もうお前は、いらないわ!」
1人の護衛がそいつを支え、他の数人が俺に向かって走り出す。
手には、大きめのナイフを持って――。
あ、これは、無理かも。
生きて帰れなさそうだな……。
ハハ……と笑いが漏れた。
ふう……と息を吐き、肩の力が抜けた。
頑張ったと思う。
でも、俺はここまでだったんだろう。
本物の黒服には、遠く及ばなかった。
仕方、ないな。
俺は、銃を持つ手を下ろした。
(瑞葵、ごめんな)
目を瞑って、
その時を待った――。




