5.Cafe Time with you(37)
37.私は悪女① ~キョウコside~
小さい頃から、私はなんでも願いを叶えてもらった。
欲しいものはその場で買ってもらえて、気分じゃない時は予定をすぐに変更してもらった。
退屈だった。
「それ、可愛いわね。私がもらってあげる」
この日も、私は気まぐれで“欲しい”と言った。いつものように手に入ると思っていた。
「こ、これは、ダメなの。お母さんが作ってくれたもの、だから。ごめんね」
初めての拒否。怒りに手が震えたわ。
家に帰って、新しいノートに山本瑞葵の名前をびっしりと書いて破り捨てた。
ほんの少し、イラつきが落ち着いた。
数日後、すごく顔のいい年上の男の子に出会った。
「私のものになりなさい」
いつものように侍らそうと声をかけた。
「は?なんでお前の“もの“にならないといけないんだ?頭おかしいだろ、お前」
体に電気が走った。
初めてだった。“お前”と言われたのは。
私は、初めての恋に落ちた。
私の前から去っていくあの子がどうしても欲しい。
「ねえ、あの子のことを調べて」
いつもそばに仕えている1人に声をかけ、意外なことを知った。
“山本樹”様。あの女の、兄だった。
気に入らなかった。
毎日、イラついて仕方なかった。
この日も、いつものように家で物に当たっていた。
「キョウコ、いい加減にしなさい。物に当たっても何も解決しないでしょう」
「お母さま。だってどうしても気に入らない子がいるんですもの。クソ!山本瑞葵!」
ついつい、汚い言葉をお母さまの前でついてしまった。
「山本瑞葵……。ふうん……。お母さまにどんな子か教えて」
お母さまは、優しい。いつも解決方法を教えてくれるのよ。
側使いが調べた報告書を手渡すと、急に大声をあげて笑い始めたお母さま。
甲高く、耳に突き刺さるようなその笑いは、少し怖かった。
「キョウコ、この子はおもちゃよ。壊しても全然かまわないわ。心をえぐって、最後は壊れたおもちゃとして廃棄したらいいのよ」
お母さまの目は、血走っていた。
怖くなり、1歩後ずさった。
でも、次の瞬間、私は目の前に星がちらつき、壁に激突していた。
その後、頬がジンジンと痛んだので、頬を強くぶたれ、吹っ飛んだと理解した。
お母さまは、――おかしい。
恐ろしくなり、体が勝手に震えて止まらなくなった。
この場から離れたいのに、動けない。
コツコツとピンヒールを打ち鳴らし、私の目の前に立つお母さま。
私に手を伸ばしてきたので、目をギュッと瞑った。
(また叩かれる!)
震えながら、自分の体をギュッと抱きしめ、衝撃に備えた。
だけど、訪れたのは痛みではなく、抱擁だった。
「キョウコ、痛かった?ごめんなさいね。でも、優しい気持ちなんて持つからいけないのよ。あなたは世の中のものを好きにできる存在なの。人を傅かせ、なんでも手に入れなさい。無理なら、壊してしまいなさい」
耳元でささやく声は柔らかいのに、私の心は氷に覆われていく。
優しさを持っていたら、私が壊されるかもしれない。
そして、私も“あの場所“に――埋められるのかもしれない。
生きていくために、
この日から、私は悪女の高みを目指すことになった。




