5.Cafe Time with you(36)
36.それぞれの思い
「瑞葵!大丈夫か!」
蹲り、体を震わせる私を心配した兄か駆け寄ってきた。
手に持っていた冊子を兄に見せるかどうか、悩む。
(きっと、今以上に心配をかけてしまう。でも、兄も彼女と従兄妹、だし……)
何も言えず、恐怖に振るえていたら、冊子を抜き取って読まれてしまった。
「……はあ?あいつと血縁関係?……この血を入れ替えようか……」
地を這うような声。かなり怒っている。
「怖いとは、思わないの?」
恐る恐る聞いてみる。
「全く!怖くはない!怒りしかない!」
こめかみに青筋が立っている。この状態の人を、初めて見た。
「瑞葵のことは、俺が守るから」
さっきとは雲泥の差の、春のような温かい声。そして、ふわりと優しくハグをしてくれた。
「絶対に、この命を懸けても――」
(俺はいい。瑞葵が生きてくれたら。それだけでいい)
(お兄ちゃん、それは嫌だな。生きていて欲しいよ)
私達は、それぞれの思いを打ち明けず、胸にしまった。
****
瑞葵がお風呂に入っている間に、黒服の1人に声をかけた。
「巌さんに、これを渡して欲しい」
母の手記と手紙を渡す。
「かしこまりました。今から向かいます。護衛が2人になりますので、お気を付けください」
そう言って一礼をした彼女は後ろに下がり、陰に入った瞬間気配が消えた。
「君たちは、本当に“影“なんだね。――俺にも、できるかな」
残りの2人に話しかけた。
「樹様は可能かと思いますが、私たちはそれを望みません。日の当たる場所で世の中を正してください」
珍しく返事を貰えた。
少しだけ、目を閉じ、心の奥深くで思考する。
ほんの10秒。
俺は目を開け、外に出た。
黒服が1人、ついてきた。
「ごめんね。俺、やられっぱなしは性に合わないんだ。……10km先でスマホの電源を入れる。俺を追ってくるはずだから、瑞葵を頼む」
そう言って林の中をテンポよく駆け始めた。
「私が護衛します。1人、残って瑞葵様をお守りします。――命を懸けて」
そう言いながら、銃の装填を確認している彼女は、迷いが無いようだった。
俺も、もう迷いはない。
ずっと、罪悪感を持って生きてきた。
でも、それは母も同じ気持ちだったのだろう。
実は、父のメモを俺は見つけていた。
父も、母の義姉から“自分のものになれ”と言われたが断り、執拗に追い回されたらしい。
“すまない、俺のせいで“と締めくくっていた。
俺たちは、何も間違っていない。
普通に暮らしていただけなんだ。
なのに、自分勝手な奴らに幸せを搾取されるのは、許せない。
「さあ、巌さん。俺を黒服にする?それとも――」
冷えた笑みを浮かべ、闇の中へと走って行った。




