5.Cafe Time with you(23)
23.はるか先に見えるゴール ~瑞葵・坂口・哲平~
「今日も、帰れないかな……」
どこからか生気のない声が聞こえてくる。
目の下にクマが出来、虚ろな目をした人たち。
弁当の容器やスタキッキングされたカップラーメンのカップが大きなごみ袋に入っている。
部屋の隅には、寝袋がいくつも……。
(地獄って、あるんだ……)
瑞葵は腰に手を当て、栄養ドリンクを飲む。
視線の先の屍を目を細めて見る。
「……お風呂に、入りたい」
今一番の希望を口にしてしまった。
「ふかふかのベッドで寝たい。焼き肉が食べたい」
次々に、思った言葉が出てくる。
そして、涙が出てきた。
「帰りたい……」
私の希望は、いつかなえられるのだろう。
テストプレイを止め、大人数でバグの箇所を探すが、見つからない。
「なんで、見つけられないんだろう……」
何か見落としているのだろうか。
「コードで、変なところってないように見えたけど」
「うんうん。それに、バグが起きるときもあれば、起きない時もあるんだよな」
「そうなんだよね。人数多いときは、起こりやすく感じたかな」
「反対に、少ないときは問題なかったりするな」
「やっぱり?みんなもそう思ったんだ」
「でも、それがなんでなのかが、わからないんだよな……」
みんなが頭を抱える。
(もう、無理なのかな)
諦めかける人たち。
限界ぎりぎりのところに、私たちは立っている。
*****
「石川さん。あの、ちょっと気になることがあるんです」
私は、石川さんの袖を小さく引っ張り、小声で話しかける。
「坂口さん。どうかしましたか?」
いつも身綺麗にしているこの人が、無精ひげを生やしている。
シャツもクタクタだ。
「その……。コードの一部が、旧コードなんじゃないかと……」
「旧コード?」
そう言って仕様書をめくる。
「本当ですね……。まあ、問題は……」
とつぶやきながら、さらにページを捲る。
「いや、これはもしかして……」
さらに違う仕様書を手に取り、確認する。
「坂口さん、もしかしたら見つけた、かもですよ」
青年のような笑顔。
(あ、右側。八重歯なんだ)
生まれて初めて、男性を素敵だと思った。
何も言えず、彼の顔をじっと見た。
「行きましょう。お手柄ですよ」
そう言って、私の手を繋いで駆け出す。
ドキっとした。
胸が、苦しい。
繋いでいる手が、熱く感じる。
この感情は、どうしたらいいのだろう。
*****
「哲平、このコードが問題かもしれない」
石川が声を弾ませ、近寄ってきた。
「……問題があるようには見えないが――」
指さされたコードは、よく使われているものだ。
(石川が間違うとは思えないが)
疑いの眼差しを送る。
「これ、旧コードだ。今はできるだけ使わないようにって話題になってる」
石川の言葉に、自分の思考が一瞬止まった。
(そう言えば、そんなことを理央も言ってた気がする)
理央や石川は常に情報を集めているが、俺はそこまでしていない。
(俺が、見落としたか……)
頭を抱えたくなった。
もっとしっかりしないといけないのに。
最近はボロボロだ。
謝罪の言葉を伝えようと口を開く。
「悪い、おれが……」
「これで、なんとかなるな!坂口さんが気付いてくれたんだぞ。感謝しろよ!」
被せ気味に話す石川が、珍しく満面の笑みだ。
「坂口、ありがとう」
「いいえ、私はちょっと気になっただけです。石川さんがご存じだったから、見つけられたんです」
気の強いイメージの彼女は、視線を下げて小さな声で答える。
「坂口さん、もっと自分を褒めてあげなさい。それだけのことをあなたはしたのです」
石川は、彼女の頭を優しくなでている。
「……」
(俺は、何を見せられているんだ)
2人の空気に、少し胸焼けしてしまった。
修正箇所は鬼のようにある。
それでも、彼らの気付きで、ゴールが見えた。
疲れている彼らと、乗り越えられるだろうか。
リミットまで、あと1か月だ――。




