5.Cafe Time with you(18)
18.リニューアルの真相 ~樹side~
(何やってんだ……)
哲平が、崩れた。
俺たちには、時間がないのに!
俺と哲平が発起人のチーム、ヴォルフシュバルツが最初に手掛けたゲームのリニューアル版をずっと打診されていた。
だが、やりたいことを実現するには時期尚早だと断っていた。
だけど、状況が変わった。
「樹君、いつもありがとう。蓮も喜んでるわ……」
そう言って笑ってくれる人の顔は、疲れ切っていた。
「いいえ、俺が来たかったんです」
もう何年、ここに通っているだろうか。
「そう……。蓮は、いつになったら起きてくれるんだろうね……」
彼女は、そう言いながら息子の手を何度も何度も優しくなでる。
久遠 蓮――。
俺と哲平、朔、理央の同級生だ。
高校の頃、俺たちはゲーム制作チーム
ヴォルフシュバルツを作った。
一歳下の後輩、透も誘って。
俺たちはいつも一緒だった。
――あの時までは。
8年前、俺たちは絶望と後悔という言葉の意味を、初めて知った。
俺たちが作ったゲームは人気があり、有頂天になっていた。
大企業からのオファー。雑誌の取材。忙しかった。
だから、気が付かなかった。
蓮が、心を閉ざし始めたのを――。
「樹、俺はこのチームに必要ないんじゃ、ないかな」
蓮はたまにそんなことを言う。
「蓮?なんでそんなこと言うんだ?お前は俺たちの大事なダチだろ?」
「でも、俺はゲーム作れないし、センスないし。役立ってないだろ」
「ん~。蓮はいてくれたらそれだけでいいんだ。バカだな」
そう言うと、いつも連は苦笑いをして、お腹に手を当てていた。
バカなのは、俺達だった。
『樹!蓮が!』
「哲平?どうしたんだ?」
哲平が電話口で喚いて、何が言いたいのかわからない。
『哲平、俺が話す。樹、理央だ。……蓮が、事故に、あった。今病院で、手術してる』
笑えない冗談だ。
俺は、理央の言葉を理解できず、立ち尽くしていた。
その後のことは、正直覚えていない。
たぶん、哲平の実家から迎えが来て、病院に駆けつけたのだろう。手術室のランプが消えるのをずっと待っていた。
そして、蓮は――
一命を取り留めたが、ずっと目を覚ましていない。
事故は、飲酒運転の暴走が原因だった。
哲平を庇って、蓮は事故にあったらしい。
しばらくたった時、蓮の母親から血の付いた手紙を渡された。
蓮の文字で“樹へ”と書かれていた。
“樹へ
俺は、お前たちと友達で入れることが誇りだ。でも、チームのメンバーは、俺には荷が重すぎる。何もしていないのに、名前だけは、辛いんだ。
実は、やってみたいことがあるんだ。今からでも遅くないかな?
もしかしたら、俺に向いていないかもしれない。
でも、挑戦せずに後悔したくないんだ。
だから、チームから卒業させてほしい。
俺はお前たちとずっと親友だから。
それだけは、卒業できない
我儘で、ごめん。
久遠 蓮“
俺が、一番バカだ。
蓮の何を見ていたんだ。
その場で泣くことしかできなかった自分が、情けなかった
ずっと眠ったままの蓮。
彼の母は、重い病気を患っている。
だから、何としても目を覚まして欲しい。
俺たちは、賭けに出ることにした。
脳波に刺激を与えることを。
ドイツの医療研究機関と組み、ラットで何度も試験を繰り返した。
奇跡みたいな数字が出た。
そして、人試験の承認が下りた。
蓮の母親も、承諾してくれた。
だけど、莫大な資金が必要だった。
ある日、資金の確保と蓮の覚醒を、“ゲームのリニューアル”で解決することを思いついた。
俺たちは、何としてもやり遂げなくてはならない。
大事な親友を取り戻すために。
それなのに哲平が崩れてしまった。
テラスの隅で蹲っている大男を見つけた。
(仕方ないな……)
俺は、大きく息を吐いた。
「哲平!情けないな!」
明るく声をかけた。
ビクッと体が跳ねた奴も、意外に気が小さい。
俺は、こんなところで
止まってられない。




