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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第99話 共同調査、正式決定! 失われた街道への第一歩

 ヴァルデン子爵領の領主館へ、アストレアからの使者が到着したのは、朝の執務が始まって間もなくのことだった。


 使者が運んできた封書には、灰の荒野にある石の井戸と旧集落周辺について、双方立ち会いの現地調査を求める提案が記されていた。前々日の朝に発送され、街道の宿場を経由して届けられたものである。


 外交官オスカー・ベルナーは書状を読み終えると、すぐに土地管理官エーベルハルト・クラインを呼んだ。


「クライン殿。先方は、我々が考えていた以上に具体的な条件を提示しておりますぞ」


 書状には、測量担当者の立ち会い、発見物の共同記録、双方の許可を得ない掘削の禁止などが並んでいる。エーベルハルトは内容を確かめながら、昨夜調べた街道維持記録を机へ広げた。


「北道の位置を確かめるには、よい機会でしょう。こちらも準備は進んでおります」


 古い記録によれば、かつて北の古井戸へ向かう道が洪水で損傷し、南側に迂回路が造られていた。現在の街道がその迂回路に由来するなら、土地台帳の境界は従来の想定と異なる場所を指す可能性がある。


 だが、どちらの領有権が認められるかは、まだ分からない。


「閣下には、調査を承認いただきたいと進言しましょう」


 オスカーの言葉に、エーベルハルトは深く頷いた。


     ◇


 同じ日の朝、アストレアでは神城皇牙が大きな欠伸をしながら食堂へ入ってきた。


「……眠い。昨日、食事会の黒竜像を眺めてたら遅くなっちまった」


「殿。あまり夜更かしをなさってはいけませんよ」


 巴が朝食の席から微笑みかける。


 皇牙は焼きたてのパンを手に取ると、窓の外へ目を向けた。広場では明後日の食事会に向けて準備が進み、住民たちが楽しそうに行き交っている。


「そういや、明後日が食事会か! 早く肉を食いてえな!」


「ふふ。殿が一番楽しみにしておられますね」


「当たり前だろ。俺が楽しめない催しなんて、開催する意味がねえ!」


 巴は呆れたように笑ったが、その表情はどこか嬉しそうだった。


 食事を終えた皇牙は、いつもの広間で《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:456人】

【SR以上排出率:5%】


「今日は頼むぜ! できればSR以上! いや、URでも大歓迎だからな!」


 一回目の召喚陣が白く輝き、石材加工補助のベルントが姿を現した。


【N ベルント】

【適性:石材加工補助】


「おっ、石工か! ガルドたちも忙しそうだし、いいじゃねえか!」


 二回目も白い光となり、食材の選別と保存を得意とするイルマが現れる。


【N イルマ】

【適性:食材選別・保存補助】


「食事会の準備にも助かりそうだな! よし、最後!」


 三回目の召喚陣は青く輝いた。


【R マティアス】

【適性:測量補助・地形記録】


「うおおっ! 測量!? 今まさに欲しかった人材じゃねえか!」


 皇牙は思わず身を乗り出した。


 マティアスは落ち着いた青年で、距離や高低差を測り、地形の特徴を記録することを得意としていた。ただし、アストレアで使用している道具や記録方式はまだ知らない。


「皇牙様。まずは現地の測量方法を教えていただければと思います」


「おう! アレクシスって奴がいるから、そいつの手伝いを頼む!」


 三人を生活案内の担当者へ引き継ぎ、皇牙は人口表示を確認した。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:459人】

【SR以上排出率:5%】


「四百五十九人! 五百人まであと四十一人か。いやあ、順調だな!」


 機嫌よく広間を出ようとしたところで、クラリスが待ち構えていた。


「皇牙様。アレクシス殿から、新しい測量道具の確認にお立ち会いいただきたいとのことです」


「……えっ、もう仕事?」


 皇牙は露骨に顔をしかめたが、巴に促されると渋々頷いた。


     ◇


 城館の中庭では、アレクシスが測量用の縄と測量棒を並べていた。


 新しく召喚されたマティアスは、道具の使い方を教わりながら、一定の距離を測る作業を試している。二人はまず既知の距離を何度も測り、記録に大きなずれが生じないか確かめていた。


「……おお、何か本格的だな!」


 皇牙が感心すると、アレクシスは笑った。


「調査地では道幅や傾斜を確認する予定です。道具に誤差があれば、せっかくの測量も意味がなくなりますので」


 マティアスも頷いた。


「同じ場所を測っても結果が大きく違っては困ります。先に測り方を揃えておくことが大切です」


 彼は測量棒を地面へ立て、縄の張り方を変えて二度目の測定を行った。最初の数値との差を確かめ、記録用紙へ丁寧に書き込む。


 その様子を見ていた皇牙は、ふと首を傾げた。


「……なあ。そこまで準備してるなら、もう井戸を調べに行けばいいんじゃねえの?」


「共同調査は、まだ子爵家の正式な回答待ちでござる」


 後ろから声をかけたのは山本勘助だった。


 彼は中庭へ広げられた地図を指し、石の井戸と旧街道の位置を示した。


「我らが管理する土地で道具を試すのは問題ありませぬ。されど、境界が未確定の場所を勝手に掘り返せば、以前の取り決めに反する恐れがあるのでござるよ」


「……ああ、そうだったな。じゃあ、許可が出るまでは準備だけか」


 皇牙は少し残念そうに肩を落とした。


 だが、アレクシスたちが丁寧に道具を確認している姿を見ると、すぐに表情を和らげた。


「まあ、準備しといて損はねえな! 俺は細かい測量なんて分かんねえし、そこは任せた!」


     ◇


 午後、アストレアの会議室では、ナポレオンとコルベールが今後の交渉方針を整理していた。


 机には四つの区域を示した地図が広げられている。現在の市街地、旧集落、石の井戸、そして旧街道だ。


「調査結果がこちらに有利でも、不利でも、次の手を考えておくべきだ」


 ナポレオンは、石の井戸の位置を示す木片を指先で動かした。


「仮に子爵家が昔の井戸を管理していたと証明されても、それだけで現在の市街地まで支配できるわけではない。一方、こちらが古い境界の位置を示せても、相手の街道利用を全面的に拒めば交易に悪影響が出る」


 コルベールは静かに頷いた。


「つまり、土地の所有権と井戸や道路の利用権を分けて考える、ということですね」


「そのとおりだ。所有権が争われる場所でも、双方が井戸を利用できる取り決めは考えられる。道についても同じだ。もちろん、実際の境界を確認する前に譲歩する必要はないがな」


 ナポレオンは満足そうに笑った。


 コルベールは、その考えを二つの交渉案として書き留めた。子爵家の主張が一部認められた場合と、アストレア側の主張が有利になった場合。それぞれについて、住民の生活を守りながら争いを収める方法を検討する。


 皇牙が何より重視しているのは、今ここに暮らす人々の安全だ。領有権の結論がどうなろうとも、住民の追放や一方的な課税を認めるつもりはない。


「……交渉の余地を残しつつ、譲れない部分は守る。難しい仕事ですね」


「だからこそ、我々の出番なのだろう」


 ナポレオンは不敵に笑った。


     ◇


 夕方、ヴァルデン子爵領の領主館では、アルブレヒト子爵がアストレアからの提案書へ目を通していた。


 オスカーとエーベルハルトが同席する中、子爵は最後まで読み終えると静かに頷いた。


「……よい。共同調査を正式に承認する」


 その言葉に、エーベルハルトは深く頭を下げた。


 調査責任者は、すでに任命されているエーベルハルトが務める。古い台帳に詳しい書記と測量担当者を同行させ、必要な警備については軍務官庁へ協力を求める。ただし、調査隊が軍の威圧行動と受け取られないよう、護衛人数は限定することになった。


「場所は石の井戸と、その北西にある平坦な地形。調査は双方が立ち会い、勝手な掘削や施設の変更は禁止する」


 子爵は続けて、確認した事実を双方の記録へ残し、内容を照合するよう命じた。


「領有権については、調査結果を踏まえて改めて協議する。それまでは現状維持の取り決めを守れ」


 オスカーが頷く。


「では、アストレア側へ正式な回答を届けます」


「うむ。調査日程についても、先方の都合を確認せよ」


 子爵の署名と印を受けた回答書は、その日のうちに封じられた。


 調査の実施は正式に認められた。ただし、双方が現地へ集まる日時だけは、最後の調整が必要だった。


     ◇


 翌日、異世界生活八十七日目。


 アストレアでは朝から食事会の準備が進んでいた。


 開催は明日。市場の広場ではセシリアが参加者の人数を確認し、リーナたちが食材の仕込みを始めている。


 皇牙は朝食を終えると、忘れずに無料ガチャを引いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:459人】

【SR以上排出率:5%】


 一回目はN食器管理補助のロッテ、二回目はN倉庫整理補助のフランツ。そして三回目には、R文書管理担当のテオドールが現れた。


「おおっ! またRじゃねえか! 書類仕事は大歓迎だぜ! 俺がやらなくて済むからな!」


 皇牙は笑いながら三人を迎え入れた。


 テオドールには、クラリスやイザベルから現地の文書制度を教わってもらうことになった。召喚されたばかりで外交書類を任せられるわけではないが、今後の行政に役立つ人材である。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:462人】

【SR以上排出率:5%】


「四百六十二人! もうすぐ五百人だな!」


 皇牙が満足そうに頷いたところへ、コルベールが姿を現した。


「皇牙様。子爵家から、正式な回答が届きました」


「……おっ! ついにか!」


 回答書を運んできたのは、街道の中継所で馬を替えながら走った子爵家の伝令だった。昨夕に領都を出発し、夜を通して移動してきたという。


 皇牙は会議室へ向かい、コルベールから内容を聞いた。


「子爵閣下は共同調査を正式に承認されました。調査責任者はエーベルハルト殿。現地では双方立ち会いのもと、記録を照合することになります」


「よっしゃ! やっと決まったか!」


 皇牙は嬉しそうに拳を握った。


 同席していた勘助とアレクシスも、安堵したように頷いた。


 ただし、調査日程については双方の最終調整が必要だった。コルベールは、翌々日の異世界生活八十九日目に現地へ集まる案を提示し、伝令へ返書を託した。


 子爵家側がその日程を受け入れれば、共同調査が始まる。


「……ってことは、明日は食事会で、明後日が調査か!」


 皇牙は指折り数えてから、満足そうに笑った。


「最高じゃねえか! 食事会を楽しんで、その次の日に仕事すりゃいいんだな!」


「殿。調査の準備もございますから、あまり気を抜かれませんように」


 巴が微笑みながら注意すると、皇牙は苦笑した。


「分かってるって! 必要なら俺も行くし、危ない魔物が出たらちゃんと守るからさ!」


 その言葉には、いつもの軽さとともに、確かな責任感があった。


 午後、調査予定者たちは城館の中庭へ集まった。


 勘助、アレクシス、マティアス、アウグスト。それぞれが担当する仕事を確認し、測量道具や記録用紙を整理する。


 関羽は通常の警備を維持できる範囲で、調査隊へ少人数の護衛を同行させることにした。石橋の西側では子爵軍が警備を続けているため、現地で無用な誤解を招かないよう、武装も必要最小限にする。


 皇牙は準備の様子を眺めながら、ふと思いついたように口を開いた。


「……なあ、勘助。調査が終わったら、昔の道をちゃんと残しておくのも面白くねえ?」


「ほう。道の跡を保存するのでござるか?」


「そうそう! 歴史って、こういうのが残ってると面白いだろ? あとでみんなが見られるようにするのもいいじゃん!」


 勘助は少し驚いたあと、嬉しそうに頷いた。


「よいお考えでござる。ただし、土地の扱いが決まってから相談する必要がありましょうな」


「もちろん! 勝手に何か造って、また揉めるのは嫌だからな!」


 皇牙は笑った。


 その夜、アストレアの城館では、巴が皇牙の部屋を訪れていた。


「殿。明日の食事会、皆さん楽しみにしておられますよ」


「へへっ! 俺も楽しみだぜ!」


 皇牙は窓の外へ目を向けた。


 市場の広場には明日のための飾りが並び、遠くには大浴場の青い屋根が見える。何もなかった荒野に、今では四百人以上の人々が暮らしている。


「……なあ、巴。こういう暮らしを守れるなら、多少の仕事くらいはしてもいいかなって思うんだよな」


 巴は静かに微笑んだ。


「はい。殿はいつも、皆さんのことを大切にしておられますから」


「……いや、仕事が好きになったわけじゃねえぞ? そこは勘違いすんなよ!」


「ふふ。もちろんです」


 二人の笑い声が、静かな部屋に響いた。


 翌日は住民たちの食事会。そして、その次の日には灰の荒野の共同調査が予定されている。


 長く続いてきた土地の争いは、ようやく実際の地形を確かめる段階へ進もうとしていた。

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