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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第100話 SR張良、降臨! アストレア初の大食事会

 異世界生活八十八日目。


 アストレアの市場広場は、夜明け前から普段とは違う熱気に包まれていた。


 大鍋の中では肉と野菜が煮込まれ、隣のかまどからは焼きたてのパンの香りが漂っている。広場の片隅には黒竜の石像が置かれ、子供たちがその翼を見上げては歓声を上げていた。


 今日開催されるのは、アストレアで初めての大規模な住民向け食事会である。


 催事運営を任されたセシリアは、参加希望者の名簿を確認しながら、広場を忙しそうに歩いていた。昨日までに申し込んだ住民は三百人を超えたが、全員が一度に集まるわけではない。昼と夕方の二部制にして、仕事を休めない者も交代で食事を楽しめるようにしている。


「そちらの机は、もう少し壁際へお願いします。荷車が通れなくなってしまいますので」


 指示を受けた作業員が机を動かすと、セシリアは通路の幅を確かめて頷いた。


 厨房ではリーナが調理担当者をまとめ、二宮尊徳が用意した食材の数量を確認している。今回の催しに使う肉や野菜は、備蓄と通常の仕入れに無理が生じない範囲で確保したものだ。料理が不足すれば困るが、必要以上に作って食材を無駄にするわけにもいかない。


 その様子を見ていたクラリスは、手元の名簿を閉じて小さく息を吐いた。


「……ここまで準備できれば、あとは無事に始まることを祈るばかりですね」


「大丈夫です。何かあっても、その場で対応できるよう担当を分けていますから」


 セシリアは微笑んだ。


 城館で暮らす者から市場の商人まで、これほど多くの人が同じ催しを楽しみにしている。召喚されて間もない彼女にとっても、今日の仕事は特別なものだった。


     ◇


「くああっ……眠い」


 城館の食堂へ入ってきた神城皇牙は、大きな欠伸をしながら椅子へ腰を下ろした。


 昨夜は食事会の黒竜像が気になり、寝る前にもう一度広場を見に行ってしまったのだ。夜更かしした自覚はあるが、後悔はしていない。


「殿。今日は朝から随分と賑やかですね」


 向かいに座る巴が微笑む。皇牙は窓の外へ目を向けると、眠気も忘れて身を乗り出した。


「おおっ! もう準備が始まってるじゃねえか! 早く肉を食いてえな!」


「ふふ。あまり朝食を召し上がりすぎると、お昼に食べられなくなりますよ」


「……それは困る」


 真剣な顔でパンを見つめる皇牙に、巴は笑いを堪えきれなかった。


 皇牙は少し考え、いつもより早めに食事を切り上げることにした。今日の主役は昼からの料理である。朝から満腹になってしまっては、せっかくの楽しみが台なしだ。


「よし! 腹も空けときたいし、ガチャを引こうぜ!」


 広間へ移動した皇牙は、期待を込めて《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:462人】

【SR以上排出率:5%】


「今日は食事会の日だし、何かすげえことが起こる気がするんだよな!」


 一回目の召喚陣は白く輝き、荷車修理補助のヨーゼフが現れた。


【N ヨーゼフ】

【適性:荷車修理補助】


「おっ、いいじゃねえか! 最近は商隊も増えてるし、修理できる奴がいると助かるな!」


 二回目も白い光となり、接客と配膳を得意とするアンナが姿を見せた。


【N アンナ】

【適性:接客・配膳補助】


「おおっ! 今日の食事会にぴったりじゃねえか!」


 皇牙は二人を笑顔で迎え、生活案内の担当者へ引き継いだ。アンナも希望すれば今日の配膳を手伝えるが、まずは新しい環境に慣れることが優先だ。


 そして三回目。皇牙が祈るように両手を合わせると、召喚陣から眩い金色の光が溢れ出した。


「……おい、ちょっと待て。この色って!」


 光の中に一人の男が現れる。穏やかな目元と落ち着いた物腰。しかし、その視線には、周囲の様子を一瞬で見極めようとする鋭さがあった。


【SR 張良】

【適性:知略・外交・長期戦略】


「……張良?」


 皇牙は呆然と表示を見つめ、次の瞬間、飛び跳ねんばかりの勢いで叫んだ。


「うおおおおっ! 張良子房!? あの漢の高祖を支えた張良か!? マジかよ!」


 張良は少し驚いた様子を見せたが、すぐに姿勢を正した。


「張良、字は子房と申します。あなたが私を召喚された主君でいらっしゃいますか」


「そう! 神城皇牙だ! よろしく頼む!」


 皇牙は勢いよく手を差し出しかけ、慌てて動きを止めた。前世の歴史書で読んだ人物が目の前にいるという事実だけで、興奮が抑えられない。


 張良はそんな皇牙を興味深そうに見つめ、静かに頭を下げた。


「お招きいただいた以上、微力ながらお力添えいたしましょう」


「微力どころじゃねえって! お前が来てくれたら、俺の仕事がめちゃくちゃ減るかもしれねえじゃん!」


 巴は呆れたように笑ったが、張良はむしろ面白そうに目を細めた。


「……なるほど。主君は、働く者の才を用いることを好まれるようですね」


「そうそう! 得意な奴に任せるのが一番だろ!」


 皇牙が得意げに胸を張ると、張良は小さく笑った。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:465人】

【SR以上排出率:5%】


「四百六十五人! しかも張良だぜ! 今日は最高の日じゃねえか!」


     ◇


 昼前、城館の会議室にはナポレオンとコルベールが集まっていた。


 机には子爵家との書状の控えが並び、その一番上には共同調査の日程に関する文書が置かれている。


 アストレアは昨日、異世界生活八十九日目に調査を開始する案を返書に記して発送していた。しかし、その返事が子爵家へ届くより先に、向こうから別の連絡が届いたのである。


「子爵家は調査の実施そのものには同意している。ただ、向こうの古い台帳を運ぶ書記と測量担当者の準備が間に合わないらしい」


 ナポレオンは書状へ目を落とし、続けた。


「それで、九十一日目の開始を希望しているというわけだ」


 コルベールが頷く。


「こちらの八十九日目という提案とは行き違いになりました。先方の書状は、こちらの返書を受け取る前に出されたものです」


 子爵家の申し出には、調査隊の準備だけでなく、古い記録の運搬と護衛の手配に必要な時間についても記されていた。


「なら、九十一日目でいいんじゃねえの?」


 扉を開けて入ってきた皇牙が、あっさりと言った。


 彼の後ろには巴と張良が立っている。


「二日くらいずれたって、土地が逃げるわけじゃねえだろ。向こうが準備できねえのに無理やり始めても、いいことないしな!」


 ナポレオンは少し笑い、コルベールも頷いた。


「ごもっともです。では九十一日目に同意する返書を作成し、本日中に発送いたします」


「おう! 任せた!」


 子爵家側に返書が届くのは早くても翌日以降となる。そのため、この段階ではアストレア側が日程変更に同意しただけで、双方の最終確認はまだ完了していない。


 張良は一連のやり取りを聞きながら、机の端に置かれた地図へ目を向けていた。


「……こちらでは、土地の境界を巡る問題が起きているのですね」


「そうなんだよ! 昔の井戸が誰のものだったかって話から、ややこしいことになってさ!」


 皇牙が簡単に事情を説明すると、張良は慎重に頷いた。


「詳しい記録を拝見する前に判断はできません。ただ、民の暮らしが関わるのであれば、境界を決めることだけが解決ではないかもしれませんね」


 ナポレオンが興味深そうに顔を上げる。


「ほう。君なら、どう考える?」


「土地の所有と、そこを通る者の利益は別の問題です。道を閉ざして得をする者がいなければ、通行を認める方が双方のためになることもあるでしょう」


 張良は穏やかに微笑んだ。


「もちろん、まずはこの国の事情を学ばねばなりませんが」


 ナポレオンは満足そうに頷いた。


「……面白い。どうやら、君とはよい議論ができそうだ」


 皇牙は二人を見比べ、嬉しそうに笑った。


「やべえ! ナポレオンと張良が同じ部屋で国の話してる! 歴史好きとしては、こんな光景だけで飯三杯はいけるぞ!」


「殿。お昼のお料理の分も残しておいてくださいね」


 巴の一言に、会議室へ笑い声が広がった。


     ◇


 正午、市場広場に鐘の音が響いた。


 食事会の開始を告げる合図に、住民たちが長い机へ集まってくる。焼きたてのパンと煮込み料理が配られ、広場には温かな湯気と香ばしい匂いが満ちていた。


「うおおっ! すげえ! 本当に祭りみたいになってるじゃねえか!」


 皇牙は巴と張良を伴い、広場へ足を踏み入れた。


 住民たちが次々と挨拶し、子供たちが黒竜像を指さして歓声を上げる。皇牙はその様子を眺めながら、満足そうに胸を張った。


「へへっ! どうだ、張良! これが俺の街だ!」


 張良は広場を見渡し、興味深そうに目を細めた。


 商人が農民へ料理を勧め、職人たちが笑いながら同じ机へ腰を下ろしている。主君である皇牙も、特別な席へ案内されることなく、住民たちの間を歩いていた。


「……なるほど。皆がずいぶん自然に主君へ話しかけるのですね」


「そりゃそうだろ! 俺だって、みんなと飯を食いたいし!」


 皇牙は笑いながら答えた。


 そのとき、背後から聞き覚えのある声がした。


「皇牙様! こちらへどうぞ!」


 振り返ると、最初に召喚した農民マルクが手を振っていた。その隣には、職人ガルドも座っている。


「おおっ! マルク! ガルド!」


 皇牙は嬉しそうに駆け寄り、二人の向かいへ腰を下ろした。


 マルクの皿には、肉の煮込みと焼きたてのパンが盛られている。彼はそれを眺め、しみじみとした声を漏らした。


「……最初は、こんなに立派な料理をみんなで食べられるなんて、思いもしませんでしたよ」


「だよなあ。最初は畑だけ造って、種も道具も足りなかったもんな!」


 皇牙は笑った。


「皇牙様が広い畑を一瞬で造ったときは驚きました。でも、農民が一人しかいないのに畑だけ増えても、作物は増えませんからね」


 マルクは苦笑した。


 ガルドも頷き、自分の手を眺めた。最初の工房には、立派な建物があっても必要な道具が揃っていなかった。家具を直し、金具を作り、暮らしに必要なものを少しずつ増やしてきた日々が思い出される。


「皇牙様は、何でも建物を造って解決しようとされましたからな」


「うっ……。だって、造れるんだから仕方ねえだろ!」


 皇牙が言い返すと、二人は声を上げて笑った。


 巴もその光景を見ながら、懐かしそうに微笑んだ。何もない荒野で、皇牙とマルクとガルド、そして自分の四人だけで暮らしていたころ。魔物の警戒も、食料の確保も、住む場所の整備も、すべてが手探りだった。


「……あのころは、巴にも苦労かけたよな」


 皇牙がふと呟く。


「殿。そのようなことはありません」


「いや、あっただろ。護衛も探索も全部任せてたしさ」


 巴は少し驚いたあと、柔らかく首を振った。


「確かに忙しくはありました。ですが、殿と皆さんと一緒に暮らしを整えていく時間は、私にとって大切なものでした」


 皇牙は照れくさそうに笑った。


「……そっか。なら、よかった」


 そのやり取りを聞いていた張良は、静かに料理へ手を伸ばした。


 建国当初の苦労を知る者が、主君の前で遠慮なく失敗談を語っている。しかも、皇牙はそれを叱るどころか、一緒になって笑っていた。


 張良は少しだけ目を細めた。


「……この国の強さが、少し分かった気がいたします」


「ん? 何が?」


「人が安心して力を貸せることです。主君が失敗を隠さず、働く者の話に耳を傾ける。そうした関係は、命令だけで作れるものではありません」


 皇牙は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑った。


「そんな難しいこと考えてねえって! みんなが得意なことをやってくれりゃ、俺が楽できるだろ?」


「……ふふ。なるほど」


 張良は穏やかに微笑んだ。


 ただの怠け者なのか、それとも人を使うことに長けた主君なのか。今はまだ判断できない。それでも、この若者が築いた街に、確かな魅力があることだけは理解できた。


     ◇


 夕方の部も、大きな混乱なく終了した。


 昼に仕事をしていた商人や警備担当者たちも、交代で料理を楽しむことができた。準備に奔走した厨房の人々には、別の担当者が料理を取り分け、落ち着いて食事をする時間を設けている。


 皇牙は広場の片づけが始まると、近くに積まれていた重い机へ手を伸ばした。


「よいしょっと! これ、どこへ運べばいいんだ?」


 セシリアが慌てて駆け寄ってくる。


「皇牙様! 片づけは私たちで行いますので、お休みください!」


「いや、こんくらいは手伝うって! 今日、みんな頑張ってくれたしな!」


 皇牙は笑いながら机を運び、倉庫の入口へ下ろした。


 もっとも、何もかも自分で片づけるつもりはない。次の机を運ぼうとしたところで、ガルドが笑いながら肩を叩いた。


「皇牙様。あとは我々にお任せください。これ以上働かれると、明日になって文句を言われそうですからな!」


「……おい! よく分かってるじゃねえか!」


 周囲から笑い声が上がる。


 皇牙は素直に手を引き、最後にセシリアとリーナ、クラリスたちへ礼を伝えた。


「今日はありがとな! みんなのおかげで、めちゃくちゃ楽しかったぜ!」


 セシリアは少し疲れた表情を見せながらも、嬉しそうに頭を下げた。


「こちらこそ、ありがとうございました。皆さんの笑顔を見られて、私も嬉しかったです」


     ◇


 夜、城館へ戻る道を皇牙と巴が並んで歩いていた。


 広場の喧騒は遠ざかり、街の灯りが静かに揺れている。昼間はあれほど賑やかだった黒竜像も、今は月明かりを浴びてひっそりと佇んでいた。


「……なあ、巴。最初は四人しかいなかったのにな」


 皇牙が小さく呟いた。


「はい。ですが、今では多くの方がこの街で暮らしておられます」


「だよな。俺、楽して暮らしたくて国を作っただけなのに、何かすげえことになっちまったな」


 皇牙は笑ったが、その眼差しは穏やかだった。


 最初は自分の城が欲しかった。美味しい料理を食べたかった。毎日ガチャを引いて、優秀な家臣に面倒な仕事を任せたかった。


 その気持ちは、今でも変わっていない。


 けれど、今日の食事会で見た住民たちの笑顔を思い返すと、もう一つ守りたいものができたのだと実感する。


「……まあ、これからも面倒な仕事はみんなに任せるけどな!」


「ふふ。それでこそ殿ですね」


「でもさ。みんなが困るようなことになったら、そのときは俺もちゃんと動くよ」


 巴は足を止め、皇牙の横顔を見つめた。


「はい。私は、どこまでも殿のお側におります」


 皇牙は少し照れたように笑い、再び歩き始めた。


 翌日は共同調査の最終準備。そして九十一日目には、石の井戸と失われた北の道を巡る調査が予定されている。


 新たな英霊・張良を迎えたアストレアは、また一つ大きな節目を越えた。


 皇牙が望む、のんびりとした暮らし。


 その夢はまだ完成していないが、今夜の街には、確かに彼が求めていた幸せが広がっていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も10話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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