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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第101話 張良子房の初仕事! 失われた街道と二人の天才軍師

 異世界生活八十九日目。


 アストレアの市場広場には、昨夜までの賑わいが嘘のような静けさが戻っていた。


 住民たちを招いた大食事会は無事に終わり、長机や調理道具も片づけられている。広場の端には皇牙が造った黒竜の石像だけが残り、通りかかった子供たちがその翼を見上げていた。


 そんな光景を、張良は興味深そうに眺めていた。


 昨日召喚されたばかりの彼にとって、この街は知らないことばかりである。しかし、農民が商人へ気軽に声をかけ、職人たちが笑いながら仕事に向かう姿を見ていると、少なくとも住民同士の関係は悪くなさそうだった。


「張良様。おはようございます」


 声をかけてきたのは、最初に召喚された農民マルクだった。


「おはようございます。昨日は楽しい時間をありがとうございました」


「こちらこそ。皇牙様があんなに喜んでおられるのを見ると、準備した甲斐がありましたよ」


 張良は穏やかに微笑んだ。


「皆さん、ずいぶん主君を慕っておられるようですね」


「ええ。少し変わった方ですが、私たちの話をちゃんと聞いてくださいますから」


 マルクは照れくさそうに笑い、畑へ向かって歩き出した。


 張良はその背中を見送ったあと、城館へ目を向ける。


 民が主君を恐れず、失敗談を笑って語れる。昨日の宴席で感じたことは、単なる思い違いではなさそうだった。


     ◇


「くああっ……昨日は食いすぎたな」


 城館の食堂では、神城皇牙が大きな欠伸をしていた。


 目の前には焼きたてのパンと温かなスープが並んでいる。しかし、普段なら真っ先に手を伸ばす皇牙も、今日は少しだけ食べる速度が遅かった。


「殿。昨日は随分お召し上がりになりましたからね」


 向かいに座る巴が微笑む。


「だって美味かったんだよ! マルクたちと話すのも楽しかったしさ。またやりてえなあ」


「皆さんも喜ばれていました。ただ、次の開催は準備される方々と相談してからにしましょうね」


「分かってるって。セシリアたちも忙しかっただろうしな」


 皇牙はスープを飲み干すと、勢いよく立ち上がった。


「よし! 今日のガチャだ!」


 広間へ向かう足取りだけは、昨日と変わらず軽かった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:465人】

【SR以上排出率:5%】


「昨日は張良が来たんだ! 今日も大物が来たっておかしくねえだろ!」


 一回目の召喚陣は白く輝き、道路補修を得意とする男性が現れた。


【N ルドルフ】

【適性:道路補修補助】


「おっ、道路関係か。商隊も増えてるし、ちょうどいいな!」


 二回目も白い光となり、洗濯や衣類の管理を得意とする女性が姿を見せた。


【N エマ】

【適性:洗濯・衣類管理補助】


「これも必要な仕事だよな。よし、最後!」


 三回目の召喚陣が青く輝く。


【R ヴィルヘルム】

【適性:街道管理・交通整理】


「うおおっ! Rじゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに拳を握った。


 ヴィルヘルムは街道の維持管理や荷車の通行整理に適性があるという。西門を通る商隊が増えている現状では、頼りになる人材だった。


「まずは関羽たちに西門の様子を教えてもらってくれ。道路の修理はガルドたちとも相談してな!」


「承知いたしました。現状を確認したうえで、お役に立てる方法を考えます」


 三人を案内担当者へ引き継ぐと、皇牙は人口表示を確認した。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:468人】

【SR以上排出率:5%】


「四百六十八人! 五百人まであと三十二人か!」


 満足そうに画面を閉じたところで、クラリスが広間へ入ってきた。


「皇牙様。コルベール様が、張良殿のお役目についてご相談したいそうです」


「おっ、いいじゃん! ちょうど俺も考えてたんだよ!」


 皇牙は巴を伴い、会議室へ向かった。


     ◇


 会議室にはコルベールとナポレオン、そして張良が集まっていた。


 机の上には石の井戸と旧街道の測量図が広げられているが、今日は土地の境界を決めるための会議ではない。新たな軍師をどのような立場で迎えるかが、最初の議題だった。


「張良殿には、外交と長期戦略の助言役をお願いしたいと考えております」


 コルベールの提案に、皇牙は即座に頷いた。


「大賛成! 張良なら絶対頼りになるだろ!」


「ただし、子爵家との正式な交渉窓口は引き続き私が務めます。張良殿には、まずこちらの制度と周辺諸国の事情を学んでいただきたいのです」


「それでいいと思うぜ。いきなり全部任せるのも大変だろうしな」


 張良は静かに頭を下げた。


「ありがたきお言葉。まずはこの地の事情を理解し、皆様のお役に立てるよう努めます」


 こうして張良は、外交・長期戦略の助言役としてコルベールを補佐することになった。正式な国家体制が整う前であるため、大臣のような役職を新設するわけではない。


 役割が決まると、張良は机の上の地図を見つめた。


「ところで、ヴァルデン子爵家が今回の土地について、最も重視しているものは何でしょうか?」


 コルベールが説明する。


「古い井戸の管理記録と、旧集落に関する権利です。ただし、どの範囲を正式な領地と見なしていたかは、まだ明らかになっておりません」


「なるほど。では、調査が終わるまでの間、相手が求めている利益を整理しておくべきでしょう」


 張良は、石の井戸と旧街道を指した。


「子爵家にとって重要なのが井戸の利用や街道の通行であれば、領有権を確定する前でも、双方に不利益が出ない取り決めを考えられます」


 ナポレオンが腕を組んだ。


「所有権と利用権を分けるわけだな。その考えは私も検討している」


「ええ。ただし、私が気にしているのは、その先です」


 張良は穏やかに続けた。


「仮に相手が一部の権利を失う結果になったとしても、必要な利益が守られるなら、争いを続ける理由は減るでしょう。相手に退く道を残すことも、交渉では重要かと」


 ナポレオンの口元に笑みが浮かんだ。


「なるほど。私は調査で得た証拠を使い、有利な条件を引き出すことを考えていた。君は、その条件を相手が受け入れる理由まで用意するわけか」


「相手を追い詰めすぎれば、失うものがなくなったと考えるかもしれませんから」


 張良はそう答えたあと、すぐに付け加えた。


「もっとも、こちらが一方的に譲歩する必要はありません。住民の安全と暮らしを守ることが、何より優先されるべきです」


 皇牙は二人の顔を交互に見つめ、嬉しそうに笑った。


「……やべえ! ナポレオンと張良が一緒に作戦考えてる! 歴史好きにはたまんねえ光景だな!」


「君は少し静かにしていられないのか?」


「無理! だって本物だぞ!?」


 皇牙が胸を張ると、張良まで笑いを堪えきれなかった。


 コルベールは二人の考えを整理し、現地調査後の交渉に備えることにした。


 調査で子爵家に有利な証拠が見つかっても、現在の市街地の権利まで自動的に認めるわけではない。逆にアストレア側が有利になっても、子爵領の商人による通行や必要な井戸の利用を、無条件に拒む必要はない。


 ただし、いずれも今すぐ相手へ提示する約束ではなく、将来の協議に備えた検討案である。


「……なあ、張良」


 皇牙が急に真面目な声で呼びかけた。


「俺は別に、子爵家から土地を奪いたいわけじゃねえんだ。でも、今ここで暮らしてる連中を追い出したり、勝手に税を取ったりするような話だけは認めたくねえ」


 張良は静かに頷いた。


「承知いたしました。その一線を守るために、私どもが知恵を尽くしましょう」


「おう! 頼んだぜ!」


 その返事を聞いた皇牙は、すっかり安心したように笑った。


     ◇


 午後、中庭では共同調査の準備が進められていた。


 アレクシスとマティアスは測量縄と棒を並べ、既知の距離を繰り返し測って誤差を確認している。山本勘助は旧集落周辺の地図を広げ、調査する順序を説明していた。


「まず石の井戸を確認し、その後に北西の平坦な地形へ向かうでござる。古い道の痕跡が見つかっても、勝手に掘り返してはならぬ」


 アウグストは記録用紙を用意し、確認した事実と推測を別々の欄に記入できるよう整理していた。


「同じ石を見ても、道の一部だと考える方と、建物の跡だと考える方がいるかもしれません。見つけた場所や形だけは、正確に残しておきましょう」


 その提案に、アレクシスが頷いた。


「それなら、後から双方で記録を照合できますね」


 関羽も必要最小限の護衛を選び、西門の通常警備に支障が出ないよう勤務を調整していた。


 皇牙は一通りの説明を受けると、少し考えてから口を開いた。


「俺も行くよ。昔の道って面白そうだし、万が一魔物が出たら守れるからな!」


「殿が同行されるのであれば、私もお供いたします」


 巴が即座に答えた。


 コルベールは少し考えたあと、皇牙へ確認した。


「皇牙様。調査の責任者は私が務めます。現地では、事前に決めた手順に沿って進めてもよろしいでしょうか?」


「もちろん! 俺は護衛と見学だよ。勝手に土地を掘ったり、子爵家の連中と交渉を始めたりしねえって!」


 皇牙は笑って答えた。


 ただし、正式な代表者である皇牙が同行することは、相手側にも知らせる必要がある。コルベールはその旨を追加で連絡し、皇牙の立場を明確にすることにした。


     ◇


 翌日、異世界生活九十日目。


 皇牙は朝食を終えると、いつものように無料ガチャを引いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:468人】

【SR以上排出率:5%】


 一回目はN採集補助のルーカス。二回目はN厨房清掃補助のマリア。そして三回目には、R記録整理担当のコンラートが召喚された。


「おおっ! またRじゃねえか! 最近、書類関係の人材が増えてきたな!」


 皇牙は嬉しそうに三人を歓迎し、それぞれの担当者へ紹介した。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:471人】

【SR以上排出率:5%】


 その日の昼過ぎ、ヴァルデン子爵家からの正式な確認書が届いた。


 異世界生活八十八日目にアストレアから発送した日程変更への同意は、前日に子爵家へ届いていた。オスカーはその内容を確認し、子爵の承認を得てから確認書を送ったのである。


 書状には、共同調査を翌日、異世界生活九十一日目に実施することが明記されていた。


「これで本当に決まったんだな!」


 皇牙が嬉しそうに笑うと、コルベールは頷いた。


「はい。集合場所、調査範囲、同行人数についても双方で確認できました」


 子爵家側はエーベルハルトが責任者を務め、古い台帳に詳しい書記と測量担当者を同行させる。アストレア側はコルベールが責任者となり、勘助、アレクシス、マティアス、アウグストたちが調査を担当する。


 皇牙と巴の同行についても、子爵家から異議は出なかった。ただし、皇牙は護衛兼見学者として参加し、土地の権利に関する協議は責任者同士で進めることになった。


「よし! じゃあ、明日は早起きだな!」


「殿。今夜は早めにお休みくださいね」


「……それが一番難しいかもしれねえな」


 皇牙が苦笑すると、巴は楽しそうに微笑んだ。


     ◇


 異世界生活九十一日目。


 夜明けとともに目を覚ました皇牙は、朝食を済ませると広間へ向かった。


「調査に出かける前に、まずはガチャだ!」


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:471人】

【SR以上排出率:5%】


 一回目はN農作業補助のダニエル。二回目はN織物補助のリーゼ。そして三回目には、R石材調査補助のオルガが召喚された。


「おっ! 石材を調べるのが得意なのか! 今日の調査にも役立ちそうだな!」


 皇牙は嬉しそうに笑ったが、オルガをいきなり境界調査へ連れていくことはしなかった。子爵家へ通知した参加者名簿を勝手に変更するわけにはいかないからだ。


「まずはガルドたちに仕事を教えてもらってくれ! 調査で石が見つかったら、あとで相談するかもしれねえ!」


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:474人】

【SR以上排出率:5%】


「四百七十四人! 五百人まであと二十六人か!」


 人口を確認した皇牙は、巴とともに中庭へ向かった。


 そこには調査隊の面々が集まり、測量道具や記録用紙を荷車へ積み込んでいた。関羽が選んだ少人数の護衛も準備を終え、出発の合図を待っている。


「よし! それじゃあ行くか!」


 皇牙の言葉に、調査隊は西門へ向かって動き始めた。


     ◇


 石橋の東側、旧街道沿いの集合場所には、すでにヴァルデン子爵家の調査隊が到着していた。


 エーベルハルトはコルベールの姿を認めると、丁寧に頭を下げた。


「本日はよろしくお願いいたします」


「こちらこそ。双方にとって実りある調査になることを願っております」


 挨拶を終えると、双方の責任者は同行人数と持参した資料を確認した。


 子爵家側の書記は古い土地台帳の写しと租税記録を持参し、アストレア側は現在の測量図を広げる。調査内容は双方が記録し、発見したものについては同じ場所と状態を確認することになっていた。


「……おおっ! いよいよ始まるんだな!」


 皇牙は少し離れた場所から地図を覗き込み、目を輝かせていた。


 巴はその隣に立ち、周囲の様子へ目を配っている。


 最初の調査対象は、現在残されている石の井戸だった。


 アレクシスと子爵家側の測量担当者が井戸の位置を確認し、双方の地図へ記録する。続いて一行は、旧集落の北西にある細長く平坦な地形へ移動した。


「……ここでござる」


 勘助が足を止めた。


 周囲には乾いた草が生え、低い丘の間を風が吹き抜けている。一見するとただの荒野だが、よく見ると一部分だけ地面が不自然に平らになっていた。


 マティアスが測量縄を伸ばし、アレクシスとともに幅を確認する。


「……やはり、周囲より平坦な部分が続いていますね」


「ええ。しかも、ほぼ同じ幅で北西へ延びています」


 エーベルハルトも身を乗り出した。


「古い街道の跡でしょうか?」


「可能性は高そうでござる。しかし、まだ断定はできませぬ」


 勘助はそう答えると、地面に半ば埋もれた石へ目を向けた。


 石は一つではない。


 乾いた草の間に、似た大きさの石が間隔を揃えるように並んでいたのである。


「……アレクシス殿。こちらをご覧くだされ」


 アレクシスが近づき、石の位置を確認する。


 地表に露出した部分だけでは判断しにくいが、いくつかの石は平らな面を同じ方向へ向けていた。


 皇牙も思わず身を乗り出した。


「……おい、これって昔の道の石じゃねえの?」


 しかし、勘助はすぐには頷かなかった。


「可能性はあるでござる。ただし、石の並びだけで決めつけるわけにはいかぬ」


 エーベルハルトも静かに頷いた。


「まずは、見えている範囲を記録しましょう。掘削については、双方で必要性を確認してから判断すべきです」


 双方の測量担当者が石の位置と間隔を測り、アウグストと子爵家の書記が同じ内容を記録していく。


 そのとき、マティアスが少し離れた場所で声を上げた。


「皆さん! こちらにも石が続いています!」


 一行が近づくと、そこには地表からわずかに頭を出した石が、緩やかな曲線を描いて並んでいた。


 その曲がり方は、現在の旧街道とは明らかに違う方向を向いている。


 勘助は地図を広げ、石の並びと旧集落の位置を見比べた。


「……もしこれが古い道なら、土地台帳にある『道の曲がる場所』とは、ここを指すのかもしれぬでござるな」


 エーベルハルトも古い台帳の写しへ目を落とした。


「……確かに、記録の説明と合う可能性があります」


 皇牙は二人の顔を見比べ、思わず笑みを浮かべた。


「……すげえ! 本当に昔の道が残ってたかもしれねえのか!」


 まだ、それが旧街道の痕跡だと確定したわけではない。


 だが、アストレアとヴァルデン子爵家の双方が、同じ場所で同じ石の並びを確認した。


 それは、長く続いてきた領有権問題において、初めて現地で共有された具体的な手掛かりだった。


 そして、石の列が向かう先には、まだ調査されていない低い丘が続いていた。

お読みいただきありがとうございます。

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