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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第93話 子爵家に亀裂! ナポレオンが動かす領主の決断

 ヴァルデン子爵領の領都では、朝から二人の役人が軍務官庁の廊下で言い争っていた。


「ですから、農民たちが困っているのです! 収穫した穀物を売れなければ、次の作付けにも影響が出ます!」


「軍の補給を守るための調査だ。多少の不便は仕方あるまい!」


 開け放たれた扉の向こうで、土地管理官エーベルハルト・クラインは軍務担当官ヴォルフラム・シュタールを睨んでいた。机には、西部の村々から届いた陳情書が何通も並べられている。


 アストレアとの取引内容を五日以内に報告するよう求める通達が出されてから、子爵領の商人たちは慎重になっていた。取引そのものは禁止されていないが、軍の調査を恐れて買い付けを控える者がいる。


 その影響は、穀物を作る農民たちにも及び始めていた。


「貴殿の部署が通達を出したのは承知している。だが、領民の商売に広く影響する命令を、軍務官庁だけで決められるのか?」


 エーベルハルトが問いただすと、シュタールは不機嫌そうに椅子の背へ身を預けた。


「我々には軍の補給を管理する責任がある。どこへ物資が流れているか調べることの何が悪い?」


「軍需物資を調べる必要性まで否定しているわけではない。しかし、民間の食料取引まで一律に報告させる理由を説明していただきたい」


「アストレアが軍を組織すれば、食料は兵糧になる。今のうちに流通を把握しておくのは当然だ」


 シュタールは地図の上に指を置いた。そこには、灰の荒野に築かれたアストレアと、石橋を通る旧街道が描かれている。


「得体の知れぬ勢力が、我が領地の近くで急速に大きくなっているのだぞ?」


「だからといって、子爵閣下の正式な判断も確認せず、領民へ負担をかけてよい理由にはならん!」


 エーベルハルトは一歩も引かなかった。


「私は土地管理官として、この件を子爵閣下へ報告する。貴殿にも、通達を出した権限と根拠を説明していただく」


「……好きにするがいい」


 シュタールが吐き捨てるように答えると、エーベルハルトは陳情書をまとめ、部屋を後にした。


 軍務官庁の扉が閉まると、シュタールは深いため息をついた。


「……余計なことを」


 そのころアストレアでは、神城皇牙が城館の食堂で朝食を楽しんでいた。


「いやあ、朝から美味い飯が食えるって最高だな! こういう生活のために、俺は国を作ったんだよ!」


 皇牙が焼きたてのパンを頬張ると、向かいに座る巴が楽しそうに微笑んだ。


「ふふ。殿が喜ばれると、料理を作った方々も嬉しいでしょうね」


「だろ? じゃあ今度、厨房のみんなにも何かご褒美を考えるか!」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 もっとも、昨日まで考えていた大浴場の設計も忘れてはいない。食堂の隅には、黒竜の像を飾った入口の図面が置かれていた。


「……でも、その前に今日のガチャだな! 昨日はR三連発だったし、今日こそSR以上が来てもおかしくねえ!」


「殿。その幸運は本当に素晴らしかったですけれど、毎日続くとは限りませんよ?」


「分かってるって! だからこそ楽しみなんだよ!」


 皇牙は朝食を終えると、巴を連れて広間へ向かった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:438人】

【SR以上排出率:5%】


「さあ、運命の一回目!」


 白い光が広がり、N農具修理補助のルッツが現れた。二回目は青い光となり、R行政調査員のオリヴィアが姿を見せる。


「おおっ、またR! しかも行政調査員か! 今の状況にぴったりじゃねえか!」


 落ち着いた雰囲気のオリヴィアは、皇牙へ丁寧に一礼した。


「記録の照合と事実確認を得意としております。まずは、この街の制度を教えていただければ幸いです」


「もちろん! クラリスたちに頼んでおくよ!」


 三回目の召喚では、N木工作業補助のヘルマンが現れた。


「よし! 今日もいい感じじゃねえか!」


 皇牙は三人を歓迎し、それぞれの得意分野を確認した。ルッツとヘルマンにはガルドたちの工房、オリヴィアにはクラリスの行政部門を案内してもらうことになる。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:441人】

【SR以上排出率:5%】


「四百四十一人か! いやあ、順調順調!」


 皇牙が上機嫌で画面を閉じたところへ、コルベールが訪ねてきた。


「皇牙様。オスカー・ベルナー殿から返答が届きました」


「……おっ! ついに来たのか!」


 昨日まで何度も確認を求めていた、子爵家の通達についての返答だった。


 会議室へ向かうと、そこにはナポレオン、山本勘助、関羽、二宮尊徳が集まっていた。机の上にはオスカーからの書状と、商人たちの証言をまとめた記録が置かれている。


「皇牙。今回は少し面白い展開になりそうだぞ」


 ナポレオンが不敵な笑みを浮かべた。


「その顔、何か企んでるだろ?」


「企んでいるというより、相手が見落としていることを利用するだけだ」


 コルベールが書状を読み上げた。


 オスカーの返答によれば、軍務官庁がアストレアとの取引内容を報告させる通達を出したことは確認できた。しかし、その通達が子爵本人の正式な裁可を受けたものかどうかは、外交窓口でも確認できていないという。


 また、領内の土地管理官エーベルハルトからも、領民の生活への影響について確認が求められているらしい。


「……つまり、向こうの役人たちも揉めてるってことか?」


「そう考えられます。ただし、子爵家内部の正式な判断はまだ出ておりません」


 コルベールが慎重に答えると、ナポレオンが地図へ目を向けた。


「ここで重要なのは、誰が正しいかをこちらが決めることではない。子爵家の内部で意見が分かれているなら、正式な判断を求めればよいのだ」


「……どういうこと?」


「軍務官庁が独自の権限で通達を出しているのなら、その範囲を明確にさせる。子爵本人の命令なら、こちらは外交問題として交渉できる。どちらにせよ、責任の所在がはっきりする」


 皇牙は目を輝かせた。


「おおっ! つまり、偉い奴にちゃんと決めてもらえってことか!」


「そうだ。しかも、こちらから相手の領地へ兵を進める必要もない」


 ナポレオンは書状の一部を指した。


「オスカーは外交窓口だ。そこを通じて、子爵本人の判断を正式に求めよう。商人たちの不安も、領内の農民への影響も、確認できた事実だけを伝えるのだ」


 勘助が頷いた。


「感情的に抗議するよりも、正式な回答を求める方が筋が通っておりますな」


「よし! そういうのは全部任せた!」


 皇牙が即答すると、ナポレオンは呆れたように笑った。


「……君は本当に、仕事を任せることだけは迷わんな」


「当たり前だろ! 優秀な奴らに任せて楽するのが俺の夢なんだからな!」


 会議室に笑い声が広がった。


 その後、コルベールはオスカーへ送る正式な照会書を作成した。通達の権限と、商人への報告義務の範囲について子爵本人の判断を求める内容である。


 添付する資料には、商人たちから確認できた事実だけを記載した。取引を見合わせた商人がいること、農民の収入に影響が出始めていること、アストレア側は交易を続ける意思があること。


 ナポレオンはそれを確認し、満足そうに頷いた。


「これでよい。こちらは争いを望んでいない。ただ、商人たちが安心して通行できるよう求めているだけだ」


 皇牙も書状の内容を確認し、最後に承認した。


「よし! これで向こうの偉い奴がちゃんと考えてくれりゃいいんだけどな!」


 昼過ぎ、皇牙は市場へ向かった。


 そこで商人ハンスから、嬉しい知らせを聞くことになる。


「皇牙様! ハインツから返事が届きました!」


「おっ! あの小麦を売りたいって言ってた商人か?」


「ええ。取引を続ける方向で考えたいそうです。ただ、子爵家への報告が必要なので、契約前に条件を確認したいとのことでした」


「なるほど。そりゃ慎重にもなるよな」


 皇牙は腕を組んだ。


「で、うちは買えるのか?」


「必要な数量については、二宮尊徳殿が確認してくださっています。あとは価格と輸送方法が合えば、契約できそうです」


「よし! じゃあ頼むぜ!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 その日の午後、コルベールと二宮尊徳はハインツから届いた条件を確認した。小麦の品質や数量、輸送費を考慮し、アストレアの予算で購入できる範囲を整理する。


 ハインツ自身は領都から離れた村にいるため、その場で契約が成立するわけではない。それでも、双方が納得できる条件に近づいたことは確かだった。


 皇牙はその報告を聞き、満足そうに頷いた。


「よしよし! 商売が続けば、向こうの農民も困らなくなるかもしれねえしな!」


 夕方になると、子爵領の領都では新たな動きがあった。


 土地管理官エーベルハルトが提出した報告書を受け、子爵家の執務官から、軍務担当官シュタールと土地管理官エーベルハルトの双方へ召集状が届けられたのである。


 召集は翌日の午後。


 子爵本人が、通達の内容と領民への影響について説明を求めるというものだった。


「……ようやく動かれたか」


 エーベルハルトは召集状を読み、静かに息を吐いた。


 その表情には、緊張と安堵が入り交じっている。


「これで、少なくとも正式な判断を仰げる」


 彼は部下へ、陳情書と取引記録を整理するよう命じた。


 一方、軍務官庁ではシュタールが召集状を握りしめていた。


「……あの土地管理官め。余計なことをしおって」


 男は不機嫌そうに書状を机へ置いた。


「軍の補給を守るための調査だというのに、なぜここまで騒ぎ立てる必要がある?」


 側近が慎重に答えた。


「ですが、領民への影響について陳情が届いているのも事実です。子爵閣下も確認なさりたいのでしょう」


「……分かっている」


 シュタールはしばらく黙り込んだあと、机の上の地図へ目を向けた。


 灰の荒野に築かれた小さな街、アストレア。


 その存在が、今では子爵家内部の判断を左右する問題になり始めていた。


 同じころ、アストレアの城館では、皇牙が庭園を歩きながら巴と話していた。


「いやあ、今日はいい感じに進んだな! 商人との話も進んだし、子爵家にも正式な返事を求められたし!」


「はい。皆さんの働きのおかげですね」


「だよな! ナポレオンもコルベールも勘助も、ほんと頼りになるぜ!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 すると、巴が少しだけ表情を柔らかくした。


「殿も、皆さんの働きをきちんと認めておられます。それが、家臣たちにとって何より嬉しいことなのだと思いますよ」


「……そうなのか?」


「はい。私も、その一人ですから」


 巴の言葉に、皇牙は少し照れたように頭をかいた。


「……そっか。じゃあ、これからもよろしく頼むぜ!」


「はい、殿。いつまでもお側におります」


 夕暮れの風が庭園を吹き抜ける。


 皇牙はしばらく巴と並んで歩いたあと、ふと思い出したように口を開いた。


「……そうだ! 大浴場の設計、まだ完成してなかった!」


「ふふ。殿、また黒竜の像のことで悩んでおられたのですか?」


「当たり前だろ! あれは一番大事なところだからな!」


 巴の笑い声が庭園に響いた。


 子爵領では、明日、領主本人を交えた重要な話し合いが行われようとしている。


 しかし、アストレアの主は今日も変わらず、自分の理想のスローライフを追い求めていた。

お読みいただきありがとうございます。

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