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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第88話 URナポレオン、初仕事! 軍務担当官の思惑を見破れ

 異世界生活七十五日目の朝。神城皇牙は、城館の寝室に差し込む日差しを浴びながら、布団の中で大きく伸びをした。


 窓の外から聞こえてくるのは、荷車の音と人々の話し声だ。昨日、ヴァルデン子爵領の四つの村から百八十六人が移住してきたことで、アストレアは以前にも増して賑やかになっていた。


「……人が増えるのはいいんだけどさ。もうちょっと静かに寝かせてほしいよな」


 そんな贅沢な不満を口にしたところで、扉が軽く叩かれた。


「殿。お目覚めでしょうか?」


「巴か? 起きてるぞー。身体はな」


「ふふ。では、心も起こしていただかないといけませんね。ナポレオン殿が、朝から勘助殿たちと街道を調べておられますよ」


「……あいつ、昨日召喚されたばっかりだよな?」


 皇牙は思わず身体を起こした。せっかく異世界へ来たのだから、少しくらい観光したり、美味いものを食べたりしてもいいはずだ。それなのに、ナポレオンは早朝から働いているという。


「すげえな。俺だったら三日は休むぞ」


「殿の場合、三日では済まないと思います」


「……巴、最近俺の扱いが雑じゃね?」


 笑いながら着替えを済ませた皇牙は、朝食のあとで広間へ向かった。もちろん、毎日の楽しみを忘れるはずがない。


「さあ、今日も無料ガチャだ! 昨日はURナポレオンだったし、俺の豪運は今まさに絶頂期! 今日も頼むぜ!」


 目の前に《英霊召喚ガチャEX》の画面が浮かび上がる。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:423人】

【SR以上排出率:5%】


「できれば食料関係の人材が欲しいな。昨日だけで百八十六人も増えたし、食い物は大事だろ!」


 一回目の召喚陣が白く輝き、現れたのはN炊事補助のアンナ。二回目も白い光となり、N農作業補助のベルントが召喚された。


「おおっ、いいじゃん! しかも俺が欲しかった仕事の人たちだ!」


 皇牙が期待を込めて最後の一回を引くと、今度は青い光が広がった。


【R マティアス】

【適性:食料調達・仕入れ交渉】


「食料調達! 最高じゃねえか! 昨日は軍事の天才で、今日は食い物を確保する人材が来るとか、俺のガチャ優秀すぎるだろ!」


 皇牙は三人を歓迎し、案内担当者へ引き継いだ。アンナにはリーナの厨房、ベルントにはマルクの農作業、マティアスには二宮尊徳の食料管理を手伝ってもらう予定だ。ただし、仕事に入るのは街の案内と生活の説明を受けてからになる。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:426人】

【SR以上排出率:5%】


「よーし、四百二十六人! 今日も順調だな!」


 上機嫌で会議室を覗くと、そこには勘助、関羽、コルベール、そして昨日召喚されたばかりのナポレオンが集まっていた。


 机にはアレクシスが作成した測量図が広げられ、西門から旧街道へ続く道に、小さな木片がいくつも置かれている。


「おっ、朝から軍議か? ナポレオン、張り切ってんな!」


「皇牙か。ちょうどよい。君に頼みたいことがある」


「……嫌な予感がするんだけど」


「安心しろ。書類仕事ではない」


「よし、聞こう!」


 皇牙の態度が一変したことに、関羽がわずかに笑みを浮かべた。


 ナポレオンは地図の西側を指した。


「現在、アストレアには約二十名の警備担当者がいる。関羽殿の指揮で適切に配置されているが、問題は街道で異常が起きてから、街へ情報が届くまでの時間だ」


「伝令を走らせてるんだろ?」


「そのとおり。だが、昨日のように百人を超える人々が到着すれば、門の警備も住民への案内も忙しくなる。使える人数が限られる以上、連絡方法を増やした方がよい」


 勘助が測量図の小高い丘を指した。


「旧街道の南側には、街道を見渡せる場所がございます。そこから西門近くの見張り台まで、障害物は少ないでござる」


「ふむ。ならば、見張り台同士で合図を送れるようにしよう。敵の接近と、商隊の到着を知らせるだけでも役に立つ」


 ナポレオンはそう提案すると、皇牙へ向き直った。


「君の建築能力なら、見張り台を造るのは難しくあるまい?」


「なーんだ、そんなことか! 任せろ! どうせなら巨大な塔を建てて、頂上に黒竜の像を……」


「殿。目立ちすぎる見張り台は、相手にもこちらの位置を知らせてしまいますぞ」


 勘助の指摘に、皇牙は口を尖らせた。


「……ちぇっ。せっかく格好いい塔を造ろうと思ったのに」


「平時の景観ならともかく、軍事施設には役割に合った形がある」


 ナポレオンの言葉に、皇牙は渋々頷いた。


「分かったよ。じゃあ、実用性重視で造る。こういうのは専門家の言うことを聞くのが一番だからな!」


 その後、皇牙は巴とともに関羽たちの案内を受け、城壁の西側へ向かった。


 旧街道へ続く道の脇には緩やかな丘があり、そこから西門を見渡せた。皇牙は勘助が指定した場所に、木造の見張り台を二つ造った。さらに、見張り役が雨を避けられる小屋と、伝令が馬を待機させるための屋根付きの場所も設ける。


 建物が一瞬で現れる光景を、ナポレオンは黙って見つめていた。


「……なるほど。報告で聞いた以上の能力だな。通常なら、これだけの設備を整えるにも人員と時間が必要だ」


「へへっ! もっと褒めていいんだぜ!」


「だが、旗や鐘、それを扱う者は別に用意せねばなるまい」


「……あっ、そうだった」


 皇牙が頭をかくと、巴が楽しそうに笑った。


 旗や鐘はガルドたちが用意し、関羽は既存の警備担当者の中から見張り役を交代で配置することにした。人手が増えたわけではないため、見張り台には常時大勢を置かず、ほかの警備との兼ね合いを見ながら運用する。


 昨日召喚されたR伝令・街道案内のフェリクスも、アレクシスから道順を教わりながら連絡役に加わった。まだ周辺の土地勘は十分ではないため、当面は経験のある警備担当者と組んで動く。


「これで少しは便利になったかな?」


「まだ完成ではない。実際に使ってみなければ、問題点は分からん」


 ナポレオンは関羽に目を向けた。


「訓練をしてみよう。西の丘で商隊を発見したという想定で、門へ知らせるのだ」


「承知した」


 関羽の指示で訓練が始まった。


 最初は旗の合図を見落とす者がいた。別の場所では、鐘の音を商隊到着の知らせと勘違いした者もいる。ナポレオンはその結果を責めるのではなく、合図の種類を減らし、役割を明確にするよう提案した。


「複雑な仕組みほど、混乱したときに崩れやすい。まずは誰でも確実に理解できる合図だけを使おう」


 関羽も同意し、異常事態を知らせる旗と、伝令を求める合図を区別した。勘助は報告を受けたあとの連絡先を整理し、余計な伝達を減らしていく。


 再び訓練を行うと、今度は西の丘からの知らせが滞りなく西門へ届いた。


「おお! さっきよりずっとスムーズじゃねえか!」


「ふむ。これなら実戦でも役に立とう」


 関羽が満足そうに頷く。


「ただし、敵に見つかれば合図を妨害される可能性もある。見張り台だけに頼らず、伝令も残しておくべきだ」


「当然だ。情報を伝える方法は、一つに限らない方がよい」


 ナポレオンは自信に満ちた笑みを浮かべた。


「優れた軍隊とは、ただ強い兵士が集まった組織ではない。必要な情報が届き、命令が確実に実行される組織だ」


「くぅーっ! さすがナポレオン! 言うことが格好いい!」


 皇牙が感心していると、西の丘に立つ見張り役が突然旗を掲げた。


 訓練で使った合図とは違う。街道に動きがあったことを知らせるものだ。


「……ん? また訓練か?」


「いや、違う」


 ナポレオンが目を細めた。


「どうやら、早速役に立つようだな」


 しばらくして、関羽の下へ報告が届いた。


 旧街道の西側、ローデリヒの部隊が駐留している地点よりもさらに西から、荷車の一団が東へ進んでいるという。


 目撃されたのは、荷車八台と、それに同行する武装した者たちだった。


「商隊じゃねえのか?」


 皇牙が尋ねると、勘助が首を傾げた。


「まだ断定はできませぬ。ただ、荷車に子爵家の軍用旗が掲げられているとのこと。補給隊の可能性がございますな」


 昨日ゲルハルトから届いた報告では、子爵家の軍務担当官ヴォルフラム・シュタールの名義で、新たな部隊移動の準備が進められているという話があった。


 皇牙もそのことを思い出した。


「……もしかして、例のシュタールって奴が動かしてる部隊か?」


「その可能性はございます。しかし、確認するまでは分かりませぬ」


 勘助の慎重な言葉に、ナポレオンが頷いた。


「その判断でよい。荷車が八台あるというだけで、敵の目的は決めつけられん。まずは進路を確かめよう」


 関羽は見張り役へ監視の継続を命じ、街道を通る商人を妨げないよう注意を徹底した。アストレア側から武装した者を送り出せば、かえって相手を刺激するおそれがあるためだ。


 皇牙は腕を組み、遠くの街道へ目を向けた。


「……せっかくガチャでいい人材が来たのに、また面倒なことになりそうだな」


「皇牙。面倒を避けたいのなら、なおさら相手の動きを把握しておくことだ」


 ナポレオンは落ち着いた声で答えた。


「何も知らずに慌てるより、早く知って備える方が楽だろう?」


「……それ、めっちゃ正論じゃん」


 皇牙は思わず苦笑した。


 その日の午後、城館にはゲルハルトから別の報告も届いた。


 昨日、ヴァルデン子爵領の村々で行われた徴発について、ゲルハルトは巡察任務の範囲で調査を進めていた。村から示された徴発書類の控えを確認したところ、そこには軍務担当官の部署を示す印が押されていたという。


 ただし、それだけでシュタール本人が不当な徴発を命じた証拠になるわけではない。印の真正性や、現場へ伝えられた命令の内容を調べる必要があった。


「……なるほどな。つまり、怪しいけど、まだ犯人と決まったわけじゃねえんだな」


「そのとおりでござる」


 勘助が頷く。


「そして、先ほど確認された補給隊がこの件に関係するかどうかも、現時点では不明です」


 コルベールは報告を整理し、領都の外交窓口であるオスカーへ、徴発命令の正式な権限と補給隊の目的を確認する書状を作成した。


 皇牙はその横で大きく伸びをした。


「よし。難しい話は任せた! 俺は新しい住民たちの様子でも見てくるかな」


 夕方の住宅街では、昨日移住してきた人々が少しずつ生活を整えていた。


 ヨハン村長はクラリスと相談し、各世帯に必要な道具の不足を確認している。マルクは農業経験者と話し合い、今後の作業について説明していた。二宮尊徳も備蓄を確認し、仕入れを増やすための準備を進めている。


 皇牙が近づくと、ヨハンが笑顔で頭を下げた。


「皇牙様。昨日は本当にありがとうございました。皆、ようやく落ち着いてきたところです」


「それならよかった! 困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれよ」


「はい。おかげさまで、子供たちも元気を取り戻しました」


 広場では、数人の子供が木の枝を剣に見立てて遊んでいた。その後ろには、新しく建てられた住宅が整然と並んでいる。


 皇牙はその光景を眺め、少しだけ表情を緩めた。


 面倒な政治も、軍事も、できれば全部ほかの誰かに任せたい。それでも、自分が造った街で暮らす人々が笑っているのを見るのは悪くなかった。


「……まあ、こういうのを見ると、頑張って家を造った甲斐があるよな」


「殿らしいお言葉ですね」


 隣にいた巴が微笑んだ。


「でもさ、俺が頑張ったのは建物だけだぞ。食い物も仕事も、みんなが何とかしてくれてるんだからな」


「はい。皆で力を合わせているからこそ、この街は少しずつ大きくなっているのでしょう」


「だよな! よし、俺は安心して昼寝でも……」


「殿。もう夕方でございますよ」


「夕寝って言葉もあるだろ!」


 皇牙が胸を張ると、巴は声を立てて笑った。


 その夜、城館の会議室では、ナポレオンと勘助が新しい報告を確認していた。


 西の見張り役から届いた情報によれば、軍用旗を掲げた荷車の一団は、ローデリヒの駐留地点へ向かっているらしい。


「ふむ。補給物資を届けるのであれば、不思議な動きではござらぬな」


「そのとおりだ。だが、昨日からの報告と合わせれば、警戒しておく価値はある」


 ナポレオンは地図の上に置かれた木片を動かした。


「まずは相手が何を運び、どこへ向かうのかを確かめる。敵であると決めつけるのは、そのあとで十分だ」


 そこへコルベールが入ってきた。


「ゲルハルト殿から、もう一つ知らせがございました。領都の軍務担当官シュタールは、街道警備をさらに強化するよう求めているそうです」


「……追加の兵が来るのでござるか?」


「規模はまだ確認できておりません。ただ、ローデリヒ殿の部隊とは別に、補給と警備の増強が検討されているとのことです」


 ナポレオンはしばらく考え込んだあと、静かに口を開いた。


「なるほど。ならば、こちらも備えを進めよう。ただし、兵を増やすことだけが備えではない」


 勘助が頷いた。


「御意。まずは住民の避難経路と街道の監視を整え、必要なときに皇牙殿へ状況を伝えられるようにいたしましょう」


 そのころ皇牙は、自室の大きな寝台に寝転がり、満足そうに天井を眺めていた。


「……いやあ、今日もいい仕事したな。見張り台も造ったし、倉庫もそのうち増やしてやるか」


 そう呟いて目を閉じかけたところで、ふと思い出す。


「……あれ? 俺、結局今日も昼寝できてなくね?」


 仕事を減らすために召喚したURの英雄は、今日も誰より働いている。


 そして、その英雄が整えたばかりの監視網は、すでに子爵軍の新たな動きを捉えていた。

お読みいただきありがとうございます。

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