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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第87話 奇跡のURナポレオン召喚! 子爵軍から逃れてきた186人

 異世界生活七十四日目の朝。神城皇牙は、城館の食堂で焼きたてのパンを頬張りながら、窓の向こうに広がるアストレアの街並みを眺めていた。


 昨日、ヴァルデン子爵家の騎士ローデリヒ・ハルトマンと交渉し、旧街道に駐留する六十名の部隊は、新しい命令が届くまで現在位置を維持することで合意した。商人の通行も妨げないという話になったものの、西門周辺の緊張はまだ解けていない。


「……なあ、巴。六十人も兵士を並べて、一体何が楽しいんだろうな。俺ならそんな暇があったら昼寝するぞ」


「殿の場合は、暇がなくてもお昼寝なさるでしょう?」


「ぐっ……否定できねえ!」


 巴に笑顔で指摘され、皇牙は思わずパンを喉に詰まらせかけた。慌てて水を飲むと、向かいに座っていた巴が楽しそうに笑う。


 こうして呑気に朝食を取れるのも、関羽やディランたちが街を守ってくれているおかげだ。面倒なことは優秀な人材に任せる。それが皇牙の理想だった。


「よし! 今日もガチャ引くか! そろそろ、とんでもない偉人が来てもいい頃だろ!」


 食事を終えた皇牙は、巴を連れて広間へ向かった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:234人】

【SR以上排出率:5%】


「軍師は勘助がいるし、関羽も強い。でも、もっと優秀な奴が増えれば仕事を分担できる! つまり、俺の自由時間が増える!」


「殿。皆さんがお忙しくなるだけではありませんか?」


「適材適所ってやつだよ、適材適所!」


 皇牙は意気揚々と一回目のガチャを引いた。白い光の中から現れたのは、N製粉補助のエミール。続く二回目も白い光となり、N織物補助のカティアが召喚された。


「おお、どっちもありがたいな! 街が大きくなれば粉も布も必要になるし、仕事には困らなさそうだ!」


 二人を案内役に引き継いだ皇牙は、最後の一回へ手を伸ばした。


「さあ、運命の三回目! 頼むぜ、俺のガチャ運!」


 指先が画面に触れた瞬間、召喚陣から黄金の光が噴き上がった。


「……ん?」


 光は消えるどころか、さらに強くなっていく。広間の床に刻まれた魔法陣が赤金色へ変わり、天井近くまで光の柱が立ち上った。


【特別演出発生】

【UR召喚確定】


「…………は?」


 皇牙は目をこすり、もう一度表示を見た。


「う、UR!? おいおいおい! 嘘だろ!? 〇・一九パーセントだぞ!?」


「殿!? どうなされたのですか?」


「巴! URだ! 最高級の大当たりだぞ! 俺、今日死ぬんじゃねえか!?」


「そのような縁起でもないことをおっしゃらないでください!」


 興奮する皇牙の前で光が収束し、一人の男が姿を現した。灰色の軍服を身にまとい、片手を胸元に添えた男は、周囲を見渡しても少しも取り乱さない。


 鋭い眼差しと堂々とした立ち姿。皇牙はその顔に、歴史の教科書や肖像画で見覚えがあった。


【UR ナポレオン・ボナパルト】

【適性:軍略・統率・行政改革】

【固有スキル:《皇帝の采配》】


「ナ……ナポレオン!? フランスの、あのナポレオン・ボナパルト!?」


「その名に間違いはない。君が私を呼び出したのか?」


「そう! 神城皇牙だ! よろしくな! いやあ、すっげえ! 本物だ! 身長の噂とか聞きたいことが山ほどある!」


 皇牙が勢いよく詰め寄ると、ナポレオンは片眉を上げた。


「私の身長より、まず説明すべきことがあるのではないか?」


「……あ、そうだった」


 皇牙は慌てて居住地と召喚の仕組みを説明した。ナポレオンは要点を確認しながら聞き、最後に城館の窓へ目を向ける。


「つまり、君は未開の地に街を築き、独立した国家を目指しているわけか。なかなか野心的だ」


「いや、別に野心はねえぞ。偉人たちに仕事を任せて、俺は美味い飯食って昼寝して暮らしたいだけだ!」


「……国家を築く力を持ちながら、望みが昼寝とはな」


 ナポレオンは呆れたように息を吐いた。しかし、その口元には楽しげな笑みがある。


「もっとも、適切な人物に権限を与えるのは統治の基本だ。君自身がすべてを抱え込むより、よほど賢明かもしれん」


「だろ!? 話が分かるじゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに笑い、《万能鑑定EX》で固有スキルの説明を確認した。《皇帝の采配》は、ナポレオンが正式に指揮する部隊の命令伝達と連携を円滑にする能力らしい。ただし、兵士の体力や武勇を直接強化するものではなく、十分な訓練や指揮系統の整備も必要となる。


「おお! すげえ便利そうじゃん!」


「どれほど優れた命令でも、兵に届かねば意味がないからな。それより、この街の軍備について聞きたい」


「おっ、仕事する気満々だな! 最高だ!」


 そう言って皇牙が笑ったところで、広間の扉が勢いよく開いた。


「皇牙様! 西門へ大勢の避難民が到着しました!」


 駆け込んできたディランの顔には、明らかな動揺が浮かんでいた。


「避難民? 何人くらいだ?」


「百人以上です! まだ後続もおります。子爵領の村々から逃げてきたと……!」


「……はあ!?」


 皇牙はナポレオンへ向き直った。


「悪い! 歓迎会はあとだ! 巴、行くぞ!」


「はい、殿!」


「私も同行しよう。今の話は、見過ごせん」


 三人が西門へ向かうと、そこには荷車を連ねた人々の長い列ができていた。泥のついた服を着た男たち、幼い子供を抱く女性、疲れ切った表情の老人。荷台には鍋や毛布、農具が積まれ、家畜を引いている者もいる。


 ディランたちは槍を下ろしたまま、人々を広い待機場所へ案内していた。


「皇牙様。こちらはエルム村の村長、ヨハン殿です」


 紹介された白髪交じりの男が、深く頭を下げる。


「どうか、お助けください。我々は故郷へ戻ることができません」


「とりあえず顔を上げてくれ。何があったんだ?」


 ヨハンは乾いた唇を湿らせ、事情を話し始めた。


 子爵領の街道周辺では、数日前から軍への食料供出が増えていた。最初は通常の買い付けだと思われていたが、やがて穀物や干し肉を半ば強制的に持ち出す兵士が現れ、荷車や馬まで差し出すよう要求されたという。


「村には冬に備えた蓄えがございます。それまで渡せと言われれば、家族を養えません。断れば、軍の命令に逆らうのかと脅されまして……」


「……ふざけんなよ。兵士の飯のために村人が飢えたら意味ねえだろ」


 皇牙が顔をしかめると、ヨハンはさらに続けた。


「軍勢が街道へ向かうと聞き、戦になるという噂も広がりました。そこで四つの村の者たちが話し合い、以前から評判を聞いていたアストレアへ移り住もうと決めたのです」


 避難の準備は昨日突然始まったわけではなかった。先に家財をまとめていた家族が村ごとに出発し、子爵軍の駐留地点を避けるため、街道南側の農道を使ったという。途中の古い水車小屋で合流し、最後は畑沿いの道を通って西門へたどり着いたのだった。


 説明を聞いた勘助が、後から到着したアレクシスに地図を確認させる。


「その農道ならば、ローデリヒ殿の陣地を通らずにこちらへ来られますな。ただし、荷車には難儀したでしょう」


「ええ。車輪が泥にはまり、皆で押しました。子供たちもよく頑張ってくれました」


 ヨハンの言葉を聞き、皇牙は人々を見渡した。泣き疲れて母親の肩で眠る子供がいる。靴を脱いで足をさすっている老人もいた。


「……分かった。ここで立たせとくわけにもいかねえな。みんな中へ入ってくれ!」


「で、ですが、我々は子爵領の住民で……」


「それがどうした? ここで暮らしたいんだろ?」


 ヨハンが目を見開く。


「はい。我々の意思で、そう決めました」


「じゃあ、歓迎するぜ。まずは飯と寝る場所だ!」


 皇牙はディランに人々の誘導を任せ、城壁の内側にある広い空き地へ向かった。ここなら既存の住宅地ともつながり、市場や井戸への行き来もしやすい。


「よし。せっかくだし、ちゃんとした住宅街にするか!」


 皇牙が《国家創造EX》を発動すると、地面に光の線が走った。整った道路が延び、その両側へ家族向けの住宅と二階建ての集合住宅が次々に現れる。広場には共同の洗い場と水汲み場も造り、昨日整備した集会所へ通じる道もつないだ。


 突然現れた建物を前に、避難民たちは呆然と立ち尽くした。


「い、家が……何もなかったところに……!」


「すごい! お城の魔法使いだ!」


 子供の声に皇牙は得意げな笑みを浮かべた。


「へへっ! どうよ! これが俺の《国家創造EX》だ!」


「殿。建物は立派ですが、中の寝具などはまだございませんよ」


「……あっ、そうだった!」


 巴の指摘に、皇牙は頭をかいた。住宅を無料で建てられても、毛布や食器、食料まで生み出せるわけではない。


 そこへ二宮尊徳とクラリス、マルク、ガルドたちが駆けつけた。


「殿。食料の備蓄を確認しました。今夜の食事は十分に用意できます。ただし、人数が大幅に増えますので、数日以内に仕入れを増やす必要がございます」


 二宮尊徳が帳簿を開きながら説明する。


「商人へ追加の買い付けを依頼し、持参された食料についても各世帯へ確認いたします。保存の利くものは分けて保管しましょう」


「任せた! 必要な倉庫があったら俺が造るから言ってくれ!」


 マルクは農具を持つ避難民に声をかけ、農作業の経験者がどれほどいるか確認していた。ガルドは職人たちを集め、新しい住宅へ運ぶ家具や生活道具を手配する。リーナの厨房では大鍋が追加され、温かいスープを作る準備が始まった。


 クラリスは村長たちが持参した世帯名簿を受け取り、広場に机を並べて受付を設けた。


「皆さんのお名前とご家族、移住の意思を順番に確認します。詳しい職歴などは後日伺いますので、今日は無理をなさらないでください」


 四つの村から来た代表者が協力したことで、確認作業は思った以上に進んだ。世帯ごとの人数を照合し、アストレアで暮らすことを希望するか、一家ごとに確かめていく。


 その様子を、ナポレオンが少し離れた場所から見ていた。


「……君は、軍勢に追われた者たちを迷わず受け入れるのだな」


「そりゃあな。目の前で困ってる人を放っておくのは、寝覚めが悪いだろ」


「人口が一度に増えれば、食料も治安も問題になる。それでもか?」


「だから二宮尊徳もクラリスもいるんだよ。俺一人じゃ無理でも、みんなでやれば何とかなる!」


 ナポレオンはしばらく皇牙を見つめ、やがて満足そうに頷いた。


「兵を集めるだけが国家ではない。人々がそこに住む理由を持ち、自ら残ることを望む。それも力だ」


「おお……何か格好いいな、それ!」


「ただし、その力を守る仕組みが必要だ。君の街の警備担当者は何人いる?」


「関羽の下に二十人くらいだな」


「二十人か。守る民が増えた以上、警備体制も見直さねばならんな」


 ナポレオンの目が鋭くなる。


「まず地図を見せてくれ。地形、補給路、住民の居住区域。それから、敵対する可能性のある部隊の配置も知りたい」


「よっしゃ! そういう仕事なら大歓迎だ! 勘助と関羽を紹介するぜ!」


 皇牙が二人を呼ぶと、勘助は早速測量図を広げた。関羽も警備担当者の配置を説明する。ナポレオンは状況を聞きながら、無理に兵を増やすより、まず連絡方法と避難経路を整理すべきだと提案した。


「兵の数だけを増やしても、指揮が乱れれば役に立たん。今は少数でも確実に動ける組織を作るべきだ」


「なるほど。まずは警備担当者の訓練と連絡体制でござるな」


「うむ。君の地形把握も見事だ。ぜひ詳しく聞かせてもらいたい」


 勘助は嬉しそうに頷き、関羽も興味深そうに話へ加わった。


 皇牙は三人の様子を眺め、満足そうに腕を組む。


「……いやあ、最高だな! URナポレオンまで加わったら、俺が働く必要なくなるんじゃね?」


「殿。今日は殿が住宅を建ててくださらなければ、皆さん困っておられましたよ」


「それはそうだけどさ!」


 巴に微笑まれ、皇牙は苦笑した。


 夕方になると、クラリスが住民登録の結果を報告した。四つの村から来た百八十六名は全員がアストレアでの居住を希望し、世帯ごとの登録を終えたという。


「百八十六人……改めて聞くとすげえ人数だな」


 皇牙が《国家管理EX》を開くと、表示された人口は大きく変わっていた。


【国家人口:423人】

【SR以上排出率:5%】


「四百二十三人!? 昨日まで二百三十四人だったんだぞ!? ほとんど倍じゃねえか!」


「ふふ。殿の街が、それだけ多くの方に選ばれたということでしょう」


 巴の言葉に、皇牙は照れくさそうに笑った。


「まあ、悪い気はしねえな。これだけ人が増えりゃ、店も農地ももっと賑やかになるだろ!」


 その夜、城館で簡単な報告会が開かれた。コルベールは、亡命者たちの証言を記録し、本人たちの意思による移住であることを子爵家へ正式に通知する方針を説明した。


「領民を引き抜いたと非難される可能性はございます。しかし、彼らの証言と登録記録があれば、こちらの立場を明確にできます」


「分かった。そこは任せる。徴発の件もちゃんと調べてくれよ」


「承知しました。誰の命令で行われたかは、まだ確認できておりませんので」


 皇牙が頷いたところで、扉が叩かれた。


「失礼します! ゲルハルト隊長の使者が到着しました!」


 ディランに案内され、一人の騎士が部屋へ入ってきた。ゲルハルトが西方の巡察区域から送り出した伝令だという。


 コルベールが書状を受け取り、封印を確認して開く。数行を読み進めたところで、その表情が険しくなった。


「……皇牙様。少々、厄介なことが分かりました」


「ん? 何だ?」


「ゲルハルト殿の調査では、村々で徴発を行った兵士の一部が、ローデリヒ殿の六十名とは別の補給部隊に属している可能性があるそうです」


 勘助が身を乗り出した。


「その部隊は、どなたの指揮下に?」


「領都の軍務担当官、ヴォルフラム・シュタール。その名が、村へ示された徴発命令書に記されていたとのことです」


 皇牙は眉をひそめた。


「……つまり、ローデリヒとは別の奴が、勝手に村の物を持ってったかもしれねえってことか?」


「まだ断定はできませぬ。ただ、子爵閣下ご本人の裁可があったかについても、ゲルハルト殿は確認できていないそうです」


 書状には、さらに一文が記されていた。


 ――シュタールの名義で、新たな部隊移動の準備が進められている。


 皇牙の隣で、ナポレオンが静かに腕を組んだ。


「なるほど。相手の軍の内部で、命令と責任の所在が曖昧になっているわけか」


「……面倒くせえなあ」


 皇牙は深いため息をついた。


 だが、窓の向こうに広がる新しい住宅街を見れば、放っておくわけにもいかない。そこには今日ようやく安心して眠れる場所を見つけた、百八十六人の暮らしがある。


「まあいいや。軍のことはナポレオンたちに相談しよう。俺は、必要なものを造る!」


 その言葉に、ナポレオンが不敵な笑みを浮かべた。


「よかろう。まずは明朝、現地の地形を確かめたい。勝つための戦いだけでなく、戦わずに守るための備えも必要だからな」


「おお、頼りになるじゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。


 まさか朝の無料ガチャで歴史に名を残す皇帝を召喚し、夕方には街の人口が四百人を超えるとは思ってもみなかった。


 それでも、ひとつだけ確かなことがある。


 今日もまた、アストレアは大きくなった。


 そして西の街道では、新たな軍勢が動き始めようとしていた。

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