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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第86話 子爵家の軍勢が迫る!? 六十人の兵士と俺の街

 異世界生活七十三日目の朝。神城皇牙が目を覚ましたとき、城館の窓の向こうでは、いつもより多くの荷車が西門の手前に集まっていた。


 普段なら市場へ直行するはずの商人たちが、門番と何やら話し込んでいる。荷馬車を引く馬まで落ち着かない様子で、何度も地面を蹴っていた。


「……何だ? 朝市でも始まったのか?」


 寝ぼけ眼をこすっていると、背後から巴の声がした。


「殿。昨夕に確認された子爵家の部隊を、商人の方々も警戒しているようです」


「ああ、あれか……。せっかく街が賑やかになってきたのに、余計なことしてくれるよな」


 皇牙は大きく伸びをした。自分が欲しかったのは、立派な城と美味い飯、そして毎日のガチャを楽しむ暮らしだった。貴族同士の面倒な縄張り争いなど、最初から予定に入っていない。


 それでも窓の下で困っている商人たちを見れば、放っておく気にはなれなかった。


「ま、勘助たちが何か考えてるだろ。俺は先にガチャを引いてくる!」


「はい。私もご一緒いたします」


 巴に続かれ、皇牙は広間へ向かった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:231人】

【SR以上排出率:5%】


「今日こそ偉人来い! できれば戦争なんか起こさずに済ませてくれる、とんでもねえ外交の天才を頼む!」


 一回目は白い光。現れたのはN調理補助のミーナだった。二回目も白く輝き、N荷車整備補助のオルフが召喚される。


「おっ、荷車の整備か。ちょうど外にいっぱい停まってるし、役に立ちそうじゃん!」


 三回目にも白い光が広がり、N洗濯補助のカレンが姿を現した。


「今日はN三人! よし、こういう日もある!」


 皇牙は三人を笑顔で迎えた。調理も整備も洗濯も、人々の生活を支える大切な仕事だ。だからといって、召喚されたばかりの彼らに、いきなり働かせるつもりはない。


「三人とも、ようこそアストレアへ! まずは住む場所と街の案内をしてもらってくれ。仕事の話は落ち着いてからでいいぞ!」


 案内役へ三人を引き継ぐと、人口表示が更新された。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:234人】

【SR以上排出率:5%】


「二百三十四人か。いいねえ! この調子で増えたら、いつか俺が何もしなくても全部回るようになるかな!」


「殿。今でも皆さん、ずいぶんとお仕事を引き受けてくださっていますよ」


「そうなんだよな。だから余計に、ちゃんと休める街にしたいんだよ」


 思わず本音が漏れると、巴が嬉しそうに微笑んだ。


 朝食後、皇牙は西門へ立ち寄った。商人たちの話を聞くためである。


 門の近くでは、荷車を連ねた一団が出発をためらっていた。先頭の商人は、皇牙の姿を見ると深々と頭を下げる。


「皇牙様。西の旧街道に子爵家の兵が大勢いると聞きまして。通っても大丈夫なのか、誰も分からないのです」


「そいつらに荷物を取られたのか?」


「いいえ。ただ、昨日までいなかった兵が何十人もいるんです。しかも、街道の分岐に陣を構えているとか……」


 荷車には布地と塩、それに工房で使う金属の材料が積まれていた。アストレア側から運び出す商品もあり、往来が止まれば商人だけでなく、街で働く人々も困ってしまう。


「なるほどな。事情が分からねえんじゃ、怖くて通れねえよな」


 皇牙は商人を責めず、近くにいたディランへ声をかけた。


「無理に出発させなくていいぞ。荷車を待たせる場所が足りなきゃ、俺が造るからさ」


「承知しました。今のところ、門の外側にはまだ余裕があります」


「じゃあ、落ち着いてからでいいな。馬の水も忘れんなよ!」


 商人たちがほっとした表情を見せるのを確かめ、皇牙は城館へ戻った。


 執務室では、勘助、コルベール、関羽が大きな地図を囲んでいた。机にはアレクシスが作成した測量図も重ねられ、古い街道や石井戸の位置が細かく記されている。


「殿。西の部隊について、人数と指揮官が判明いたしました」


「おっ、早いな! で、何人だ?」


「騎兵十二名、歩兵四十八名。合計六十名でござる。指揮官はローデリヒ・ハルトマン。領都の警備を担当していた騎士です」


「六十人か。そんなに大勢で来るなら、観光客として宿代くらい落としていけよな!」


 皇牙がぼやくと、コルベールが苦笑した。


「残念ながら、今回は宿泊客ではないようです。炊事道具と補給用の荷馬車を備え、野営地を設けております」


 勘助が測量図の一点を指した。


「駐留しているのは旧街道の西側、子爵家が従来から巡察していた区域です。共同調査中の石井戸や古い家屋跡までは進入しておりませぬ」


「じゃあ、兵を置いたことだけじゃ約束違反とは言えねえんだな?」


「左様。ただし、街道の分岐を押さえれば、商人の往来へ圧力をかけることはできます」


 関羽が口を開いた。


「昨夜から、こちらの警備担当者を西門と街道監視に分けている。見張りは二人一組。市街地へ通じる道にも連絡役を置いた」


「うちの警備って、今どのくらい動けるんだ?」


「常時の警備を担う者は二十名ほどだ。全員を西へ出せば、城門や住民の警戒が手薄になる。ゆえに、城門を守る者と街道を見張る者を分け、交代で休ませている」


 関羽は淡々と説明した。


 六十名の部隊に対し、アストレアの警備担当者は二十名ほど。数字だけ見れば不利だが、皇牙には巴や関羽がいる。問題は勝てるかどうかではなく、無用な争いで住民を巻き込まないことだった。


「よし。警備のことは関羽に任せた! 勘助、相手が何のつもりで来たのかは?」


「それを確認するため、ゲルハルト殿へ連絡しております」


 勘助の言葉が終わるのとほぼ同時に、クラリスが一通の書状を持って入ってきた。


「勘助様。西方巡察隊から使いの方が来られています」


 封を確認した勘助は、短く頷いた。


「……ゲルハルト殿からですな」


 書状によれば、新たな部隊は領都の警備兵を中心に編成された臨時の街道警備隊だった。名目は、最近発生した商人襲撃事件への対応。ただし、ゲルハルトの巡察隊には事前の協議がなく、命令の詳しい経緯は彼自身も確認中だという。


「……おいおい。商人が襲われたからって、六十人も連れてきたのかよ」


「治安維持という理由自体は理解できます。ただ、既存の巡察隊と連携しないのは不自然でござる」


 勘助は考え込んだ。


 襲撃事件には、子爵家の財務補佐官ベネディクト・クラウゼの関係者が金を渡した疑いがある。しかも、襲撃の目的はアストレアへ向かう商人を怖がらせることだった。


 事件と増援が同じ勢力によって仕組まれた可能性はある。しかし、まだ証拠はない。


「……だったら本人に聞こうぜ。ローデリヒって奴にさ」


 皇牙が言うと、勘助は頷いた。


「私も、そのつもりでござる。ただし、相手の陣へ大勢で押しかけるのは避けましょう」


「分かった。俺と巴と関羽、それに勘助と記録係くらいでいいか?」


「十分でござる。残る警備担当者は街へ残します」


 コルベールは城館で外交記録の整理と使者への対応を続けることになった。


 昼前、一行は西門を出た。同行するのは皇牙、巴、関羽、勘助、記録係のマリオン。途中で関羽が街道の見張りへ声をかけ、こちらの動きを伝えていく。


 旧街道の分岐へ近づくにつれ、甲冑のきしむ音と馬のいななきが聞こえてきた。


 子爵家の旗が何本も立てられ、その下には鎧姿の兵士たちが整列している。後方には炊事用の煙が立ち、荷馬車の周囲では兵士が水樽を運んでいた。


「うわ、本当に六十人いるんだな。ちょっとした軍隊じゃねえか」


「殿。私から離れすぎないようお願いいたします」


 巴は皇牙の少し前を歩きながら、兵士たちの手元へ目を配っていた。


 関羽も周囲の配置を確認している。敵意を見せる者はいないが、道の中央に立つ兵士たちが、通行する荷車へ厳しい視線を向けているのが分かった。


 やがて、馬に乗った騎士が一人、前へ進み出た。


「貴様がアストレアの神城皇牙か」


「そうだけど。あんたがローデリヒ?」


「ヴァルデン子爵家騎士、ローデリヒ・ハルトマンだ。現在、この街道の警備を任されている」


 四十代ほどの騎士で、頬には古い傷跡があった。立ち姿に隙はなく、兵士たちも彼の指示を待っている。


 勘助が一歩進み出た。


「ローデリヒ殿。街道の警備そのものを否定するつもりはございませぬ。ただ、これほどの兵を集めた理由を伺いたい」


「先日の商人襲撃事件を受け、治安を維持するためだ」


「その任務は、子爵閣下の直接のご命令でござるか?」


 ローデリヒは眉をひそめた。


「私の受けた命令は正式なものだ。領都の軍務担当官から書状を受け取り、六十名を率いてここへ来た」


「では、子爵閣下ご本人の署名は?」


「……そこまでは確認していない」


 皇牙は思わず勘助を見た。


 勘助は落ち着いた表情を崩さなかった。


「なるほど。では、巡察隊長ゲルハルト殿との連携については?」


「こちらから連絡は送った。だが、返答はまだない」


 関羽が静かに口を開いた。


「我々は、ゲルハルト殿から別の説明を受けている。今回の増援について、事前の協議はなかったそうだ」


 ローデリヒの表情が険しくなった。


「……領都の命令は、西方巡察隊の承認を必要としない」


「承認ではなく、連携の話をしておる」


 関羽は低い声で答えた。


「同じ領主に仕える兵が別々に動けば、無用な混乱を招く。それは貴殿も承知しておろう」


 ローデリヒはしばらく黙り込んだ。


 皇牙はその隙に、街道脇で待たされている荷車へ目を向けた。商人たちは兵士の視線を気にしながら、馬の手綱を握っている。


「なあ、ローデリヒ。商人を通すつもりはあるんだよな?」


「当然だ。不審な者がいないか確認しているだけだ」


「じゃあ、何であいつら、あんなに怖がってんだよ」


 皇牙が指さすと、ローデリヒは荷車へ視線を向けた。


「……部下には、必要以上に通行を妨げぬよう命じている」


「だったら、その命令がちゃんと伝わってるか確かめてくれよ。商人が怖がって道を使えねえなら、結局同じことだろ」


 ローデリヒは苦々しい顔をしたが、やがて部下を呼び寄せた。


「荷車の確認は手短に済ませろ。明確な不審物がなければ通せ」


 兵士が敬礼して戻っていく。


 しばらくすると、先ほどの荷車がゆっくりと動き出した。商人は何度も振り返りながらも、無事に分岐を通過していった。


「よし。最初からそうしてくれりゃいいんだよ!」


 皇牙は満足そうに頷いた。


 だが、勘助はまだ話を終わらせなかった。


「ローデリヒ殿。もう一点、確認させていただきたい。貴殿の部隊は、この場所から先へ進むご予定でござるか?」


「……必要があればな」


「現在、石井戸や古い開拓地の周辺は双方で調査中です。現状維持の合意がある以上、新たな駐留や通行制限は慎重に扱うべきでしょう」


 ローデリヒは一瞬ためらい、それから口を開いた。


「私には、旧街道の安全を確保するよう命じられている。必要なら、東側にも警備を広げることになる」


 皇牙の表情が変わった。


「……それって、俺たちの街のすぐ近くまで兵を入れるってことか?」


「街道の安全のためだ」


「いや、それは分かるけどさ。まだ土地の権利も決まってねえんだろ? 勝手に兵を進められたら困るって」


 ローデリヒは皇牙を睨みつけた。


「貴様らは、子爵家の保護下へ入ることを拒んだそうだな」


「断ったよ。でも、交渉までやめたわけじゃねえ」


「ならば、子爵家がこの土地の安全を守る必要性も理解すべきだ」


 皇牙は腕を組んだ。


「安全を守るのはいいよ。でも、そのために商人が怖がって、住民が困るのはおかしいだろ」


 しばらく二人の視線がぶつかった。


 巴が皇牙の隣へ立ち、関羽も一歩前へ出る。だが、誰も武器に手をかけなかった。


 勘助が静かに口を開いた。


「ローデリヒ殿。ここで争うことは、貴殿の任務にも我々の目的にも反します。まずは子爵家の正式な指揮系統を確認し、それまでは現状の駐留位置を維持していただけませぬか」


 ローデリヒは唇を結んだ。


「……確認には時間がかかる」


「承知しております。その間、我々も警戒を続けます。ただし、互いに兵を進めず、商人の往来を妨げないことが重要です」


 関羽も頷いた。


「それが最も無用な争いを避けられる道であろう」


 ローデリヒはしばらく考え、やがて短く息を吐いた。


「……分かった。少なくとも、私が新たな命令を受けるまでは、ここから先へ兵を進めるつもりはない」


「おっ、話が分かるじゃねえか!」


「勘違いするな。貴様らを認めたわけではない」


「はいはい。それは分かってるって!」


 皇牙が笑うと、ローデリヒは不機嫌そうに顔を背けた。


 会談を終え、一行はアストレアへ戻ることになった。


 帰り道、マリオンが記録を確かめながら口を開いた。


「勘助様。ローデリヒ殿は、領都の軍務担当官から命令を受けたとおっしゃっていましたね」


「左様。だが、その命令が子爵閣下の正式な意思によるものかは不明でござる」


 関羽が静かに続けた。


「少なくとも、ゲルハルト殿とは指揮系統が分かれておる。子爵家内部の事情を確かめねばならぬな」


 皇牙は大きく息を吐いた。


「……何かさ、同じ家の中で勝手に別々のことしてる感じがすんだけど」


「その可能性はございます。ただし、今のところ断定はできませぬ」


 勘助は慎重に答えた。


 城館へ戻ると、コルベールが新しい報告を持って待っていた。


「皇牙様。先ほど、オスカー殿へ追加の照会を送りました。ローデリヒ殿の部隊が、どのような命令で動いているのか確認していただきます」


「頼む。こっちは喧嘩したいわけじゃねえって、ちゃんと伝えてくれよ」


「もちろんです」


 皇牙は頷き、窓の外へ目を向けた。


 夕暮れの街では、商人たちの荷車が無事に市場へ戻り、住民たちは普段どおりの仕事を終えていた。


 少なくとも今日、争いは起きなかった。


 それだけでも十分な成果だろう。


「……よし。今日はもう仕事終わり! 夕飯まで、ちょっと休むぞ!」


 皇牙が椅子から立ち上がると、巴が微笑んだ。


「はい、殿。今夜はゆっくりお休みください」


「おう! 明日も何も起きねえといいんだけどな!」


 皇牙は笑いながら執務室を出た。


 その夜、西の旧街道では六十名の兵士たちが野営を続けていた。旗の下で火が揺れ、見張りの兵士が交代していく。


 まだ、誰も剣を抜いてはいない。


 しかし、子爵家の内部で何が起きているのか分からない以上、この静けさがいつまで続くかは分からなかった。


 灰の荒野に築かれた小さな街を巡る争いは、少しずつ、決定的な対立へと近づいていた。

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