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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第83話 商人襲撃事件! 俺の街への嫌がらせは許さねえ!

 異世界生活七十日目の朝。神城皇牙は食堂に漂う香ばしい匂いに誘われ、いつもより早く席についていた。


 焼きたてのパンに野菜のスープ、香草を添えた肉料理。リーナが用意してくれた朝食を眺めるだけで、昨日の面倒な出来事まで忘れられそうだった。もっとも、ヴァルデン子爵家から政治的な服属を要求されている現実が、消えてなくなるわけではない。


「……こういう飯を毎日食って、昼寝して暮らしたいだけなんだけどなあ」


「殿。そのためにも、まずは昨日のお話を片づけなければなりませんね」


 向かいに座る巴が、穏やかに微笑んだ。


「分かってるって。ちゃんと住民の話も聞くし、返事だって出すよ。ただし、難しい文章を書くのはコルベールに任せる!」


「ふふ。それがよろしいかと」


 皇牙は満足そうに頷き、残っていたパンを口へ放り込んだ。仕事を任せられる相手がいることほど、ありがたいものはない。


 朝食を終えると、真っ先に広間へ向かった。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:222人】

【SR以上排出率:5%】


「さて、今日の運勢はどうかな! 昨日はN三人だったし、そろそろすげえのが来てもいいんだぜ?」


 最初の召喚では青い光が広がり、R鍛冶職人のヴィルヘルムが現れた。続く二回目も青い光となり、R商業帳簿管理のアデラが姿を見せる。


「おおっ、二連続R! いいじゃん、いいじゃん!」


 期待を込めた三回目は白い光。召喚されたのはN厩舎補助のトーマスだった。


「R二人にN一人か! よし、今日は当たりだな!」


 三人の適性を確認した皇牙は、クラリスの担当者に住居と生活用品の案内を頼んだ。ヴィルヘルムにはガルドの工房、アデラには商業担当者、トーマスには厩舎を後日紹介することにする。


「三人とも、ここに来たばっかりなんだから、まずはゆっくり慣れてくれよ!」


 送り出したあと、皇牙は人口表示を眺めて笑った。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:225人】

【SR以上排出率:5%】


「二百二十五人! いやあ、人が増えるっていいもんだな!」


 そのまま執務室へ向かうと、勘助とコルベール、関羽が西の街道を描いた地図を囲んでいた。


「殿。昨夕に目撃された武装集団ですが、旧街道へ続く林の近くで野営していたことが分かりました」


「子爵家の連中とは違うんだよな?」


「少なくとも、ゲルハルト殿の巡察隊とは別でござる。旗も紋章もなく、十二名ほど。商人の荷車も同行しておりませぬ」


 関羽が地図の一点を指した。


「昨夜から西門の警戒を増やしておる。ディランの部下が街道を見張り、林へ入る道にも交代で人を置いている。ただし、相手はまだ何も仕掛けておらぬ」


「なら、こっちから喧嘩を売る必要はねえな」


 皇牙は腕を組んだ。


「でも、商人が巻き込まれるのは困る。荷車が通るときは気をつけてやってくれ」


「承知した。街の警備担当者には、互いに連絡できる位置を保つよう指示してある」


 関羽の返事は頼もしかった。皇牙がいちいち現場を見に行かなくても、経験豊富な武人たちが街の安全を考えてくれる。それこそ理想の国家運営である。


 午前中には、住民代表との話し合いが予定されていた。


 城館の会議室には、マルク、ガルド、商人代表、ディラン、それに生活区の代表者たちが集まっている。農地や工房を空にするわけにはいかないため、各分野から少人数ずつ参加する形だった。


 コルベールが子爵家の正式な通達を読み上げると、室内には重苦しい空気が流れた。


「つまり、ヴァルデン子爵家の保護下に入るよう求められているわけですね」


 商人代表が確認すると、コルベールは頷いた。


「はい。回答期限は四日後です。ただし、税や行政権限について具体的な条件は示されておりません」


 マルクが困ったように眉を寄せた。


「ようやく畑も安定してきました。急に税が増えたり、作物の扱いを変えられたりしたら、困る人が出ます」


「工房も同じですよ。今のところ、仕事に必要な道具をみんなで相談して作れていますからね」


 ガルドも頷く。


 一方、商人代表は慎重だった。


「しかし、服属を断れば子爵家が街道を閉ざすかもしれません。昨日の巡察隊との問題もあります。もし荷物が入らなくなれば、商売だけでなく住民の暮らしにも影響しますよ」


 皇牙は、その懸念に納得した。


「確かにな。俺が嫌だから断るってだけじゃ、みんなが困るかもしれねえのか」


 そこでコルベールが、準備していた別の書類を広げた。


「その点については、対策を考えております。既存の交易路の利用を交渉で維持しつつ、必要な物資の在庫を確認します。商人たちにも無理のない範囲で仕入れ先を増やせないか、相談する予定です」


「街道の防衛については、こちらでも検討しております」


 勘助が続けた。


「ただし、過去の境界や街道管理の権利は現在も調査中。こちらから道路を封鎖したり、新たな通行料を課したりすることはいたしませぬ」


 皇牙は何度も頷いた。全部自分で考えるのは面倒だが、こうして専門家が必要なことを整理してくれるなら安心できる。


「じゃあ、みんなに聞きたい。俺は子爵家の家来になるつもりはねえ。でも、街のことは俺一人だけで決めていい話じゃないと思ってる」


 皇牙は席についている人々を見渡した。


「別に子爵家と仲よくできねえって決まったわけじゃないだろ? 交易もしたいし、道の問題も話し合いたい。ただ、今の暮らしをどう変えるのか説明もねえのに、従えって言われても困るんだよ」


 商人代表がゆっくりと頷いた。


「私も、条件の分からない服属には反対です。ただ、交易が止まらないよう交渉を続けていただきたい」


「もちろん。そのためにコルベールたちがいるんだからな!」


「そこで私に振りますか」


 コルベールの苦笑に、張りつめていた空気が少し和らいだ。


 ほかの代表者たちも意見を述べ、最終的には服属を受け入れず、平和的な交渉を続ける方針で一致した。


「よし。じゃあ、その内容で返事を作ってくれ!」


「承知しました。本日中に返答書を整え、オスカー殿を通じて子爵家へ届けます」


 皇牙が満足そうに頷いた、そのときだった。


 会議室の扉が慌ただしく叩かれた。


「皇牙様! 西の交易路で荷車が襲われています!」


 駆け込んできた警備担当者の声に、全員が立ち上がった。


「場所は?」


「西門から先の林の手前です! 監視に出ていた者が、武装した男たちが商人を取り囲むのを確認しました!」


 勘助は即座に地図を広げた。


「殿と巴殿は先行して商人の救出を。関羽殿はディランの警備隊を率い、街道から現場を囲む形で進んでくだされ。西門の守りも残す必要がございます」


「承知した」


 関羽は短く答え、ディランを伴って部屋を出ていった。


 皇牙は巴へ顔を向けた。


「巴、転移で先に行くぞ!」


「はい、殿!」


 二人は城館の外へ出ると、《空間転移EX》で西門付近の見慣れた道へ移動した。そこは普段から通っている場所で、周囲の状況も確認できている。


 遠くから怒鳴り声と馬のいななきが聞こえた。


「……あっちだな!」


 皇牙と巴は街道を駆けた。


 林の手前では、一台の荷車が道を塞ぐように停まっていた。武装した男たちが商人を取り囲み、積み荷を降ろさせようとしている。


「荷物を置いていけ! 抵抗するなら痛い目を見るぞ!」


 男の一人が怒鳴った。


 皇牙は思わず顔をしかめた。


「……おいおい。何してくれてんだ、お前ら」


 男たちが一斉に振り向く。


「何だ、てめえは!」


「この先の街の責任者だよ。そいつらから離れろ」


 皇牙が静かに答えると、男の一人が剣を抜いた。


「邪魔するな!」


 男が踏み込んだ瞬間、巴が前へ出た。


「殿に刃を向けるとは、無礼な!」


 鋭い金属音が響いた。


 巴は相手の剣を受け流すと、身体をひねって懐へ入り、柄で腕を打った。男の剣が地面へ落ちる。続けざまに足を払うと、相手は悲鳴を上げて倒れ込んだ。


 別の男が横から斬りかかったが、巴は振り返りざまに刃を受け流し、その手首を打って武器を落とさせた。


 皇牙から数歩の距離で戦う巴には、固有スキル《忠義の武者》が発動している。筋力も反応速度も普段の一・五倍。もともと高い武勇を持つ巴に、寄せ集めの襲撃者が敵うはずもなかった。


「相変わらず強えな、巴!」


「殿。商人の方々をお願いいたします!」


「おう!」


 皇牙はすぐに荷車へ目を向けた。商人たちは怯えながら身を寄せ合っている。まずは彼らを安全な場所へ逃がすべきだ。


「そっちの道へ走れ! すぐに味方が来る!」


 皇牙が指さしたとき、街道の向こうから関羽の声が響いた。


「そこまでだ!」


 関羽がディランたちを率いて現れた。西門周辺にいた警備担当者を集め、勘助の指示どおり街道側から接近してきたのである。


 関羽は素早く状況を見渡し、部下へ命じた。


「商人を後方へ! 敵を追いかけるな、まずは逃げ道を確保せよ!」


 ディランたちは互いの間隔を保ち、荷車から商人を誘導した。関羽は正面に立ち、武装した男たちを睨みつける。


「武器を捨てよ。抵抗しなければ、これ以上傷つける必要はない」


 その迫力に、襲撃者たちは足を止めた。


 だが、後方にいた男が弓を引き絞った。狙いは関羽ではない。荷車の陰から逃げようとした若い商人だった。


「……おい」


 皇牙の表情が変わった。


 矢が放たれる。


「《風壁》!」


 商人の前に風の壁が立ち上がり、矢を弾き飛ばした。


「逃げてる奴に矢を撃つとか、最低じゃねえか!」


 皇牙は怒りを隠さず、地面へ手を向けた。


「《土壁》!」


 襲撃者たちの背後と左右から土の壁がせり上がる。正面には関羽と警備担当者たち。たちまち男たちは逃げ道を失った。


「な、何だこれ!?」


「魔法だ! こんなの聞いてねえぞ!」


 男たちは完全に動揺していた。


 皇牙は腕を組み、冷たい目で睨みつけた。


「お前らさ、荷物が欲しいだけなら、何で逃げる奴まで殺そうとすんだよ。そんな真似、俺の街の近くで許すわけねえだろ」


 誰も答えなかった。


 関羽が大きな声で命じる。


「武器を捨てよ!」


 今度こそ男たちは次々に武器を落とした。ディランたちが慎重に近づき、一人ずつ拘束していく。


 皇牙はようやく息を吐いた。


「……ふう。とりあえず、終わったな」


 巴が剣を収め、隣へ戻ってきた。


「殿。商人の皆さんは無事です。怪我も軽いもののようです」


「よかった。荷物はあとで確かめてもらおうぜ」


 皇牙が笑うと、巴もほっとしたように微笑んだ。


 捕らえた男たちの持ち物を調べると、腰袋の一つから小さな金属板が見つかった。そこには見慣れない印が刻まれている。


「……これ、子爵家の紋章じゃねえよな?」


 皇牙が尋ねると、勘助は金属板を慎重に確かめた。


「違いますな。西方で活動する傭兵団の印に似ております。ただし、本人たちの所属を示すものとは限りませぬ」


「じゃあ、こいつらが何者かはまだ分かんねえのか」


「左様でござる。まずは事情を聞きましょう」


 勘助は、相手を子爵家の兵と決めつけないよう念を押した。皇牙も異論はなかった。


 その日の夕方、捕らえた男たちの一人が口を開いた。


「……俺たちは雇われただけだ。金をもらって、荷車を止めろと言われた」


「誰に雇われた?」


 勘助の問いに、男は目を逸らした。


「……知らねえ。顔を隠した男だった」


 そこで関羽が尋ねた。


「荷を奪うのが目的だったのか?」


「……いや。荷は少し取ってもよかったが、肝心なのは商人を怖がらせることだった。あの街へ行けば危ねえって噂を広めろって……」


 室内の空気が変わった。


 皇牙は思わず眉をひそめた。


「……つまり、俺たちの街へ商人を来させないのが目的だったってことか?」


 勘助は静かに頷いた。


「その可能性が高まりました。子爵家の服属要求と時期が重なっておりますが、だからといって関与を決めつけることはできませぬ」


「分かってる。証拠もねえのに喧嘩売るほど、俺も馬鹿じゃねえよ」


 皇牙は腕を組んだ。


「でもさ、商人を怖がらせて街を困らせようって考えた奴がいるのは確かなんだろ?」


「左様でござる」


「だったら、しっかり調べてくれ。こっちは普通に暮らしたいだけなんだからさ」


 勘助は深く頭を下げた。


 その後、コルベールから子爵家への返答書が完成したと報告があった。住民代表の意見を踏まえ、政治的服属は受け入れない一方、土地や街道の権利については引き続き交渉する内容である。


 返答は正式な窓口であるオスカー宛てに送ることになった。


 皇牙は書類へ目を通し、満足そうに頷いた。


「よし。これでいい。あとは頼んだ!」


 夕暮れの街では、仕事を終えた住民たちが休憩所へ集まっていた。商人たちの荷車も無事に到着し、街は普段の賑わいを取り戻している。


 皇牙は中庭へ出ると、大きく伸びをした。


「……なあ巴。俺、やっぱりこの街が好きだわ」


「はい。私もでございます」


「だから、誰かが勝手に壊そうとするのは嫌なんだよな」


 巴は静かに頷いた。


「殿。そのためでしたら、私はいつでもお力になります」


「ありがとな。まあ、戦争なんかしなくて済むなら、それが一番なんだけどな!」


 皇牙が笑うと、巴も柔らかく微笑んだ。


 灰の荒野に築いた小さな街は、いつの間にか多くの人々の暮らしを支える場所になっていた。


 その平穏を脅かす何者かが、今、確かに動き始めている。


 皇牙は休憩所の黒竜の彫刻を見上げながら、ひとつだけ心に決めた。


 どんな相手であろうと、ここで暮らす人々を理由なく傷つけることだけは、絶対に許さない。

お読みいただきありがとうございます。

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