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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第81話 消えた開拓地の真実! 古い石井戸が語る意外な歴史

 異世界生活六十八日目の朝。神城皇牙は、城館の寝室で気持ちよく二度寝を楽しんでいた。


 昨日の人口二百人突破を祝う宴会は大成功だった。美味い料理を腹いっぱい食べ、住民たちと笑い合い、巴や初期メンバーとも久しぶりにゆっくり話せた。今日は何の予定も入れず、昼まで寝て過ごすつもりだったのだが、扉の向こうから聞こえてきた声が、その幸福な時間を終わらせた。


「殿。コルベール殿から、昨日届いた書状についてお話があるそうです」


「……書状?」


 皇牙は毛布から顔を出した。昨夜、子爵家から返事が届いたとは聞いている。灰の荒野で見つかった石組みと、古い開拓許可状に関する話だったはずだ。


「……あっ、そういや開拓許可状の件か!」


 途端に眠気が薄れた。前世で歴史を学んでいた皇牙にとって、失われた集落の痕跡を追うのは、面倒な政治交渉とはまったく別の話である。


「よし、行くか! その前にガチャだけどな!」


 朝食を済ませた皇牙は、巴とともに広間へ向かった。いつもの召喚画面を開くと、見慣れた数字が浮かび上がる。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:216人】

【SR以上排出率:5%】


「昨日はNが三人だったし、今日はちょっと期待してもいいだろ!」


 皇牙が一回目を引くと、青い光が広がった。


【R アレクシス】

【適性:測量・土地記録】


「おっ、R! しかも測量が得意なのか!」


 二回目も青い光だった。


【R イザベル】

【適性:文書照合・記録管理】


「マジか! 二連続Rじゃねえか!」


 思わず声が大きくなる。隣の巴も目を丸くしたが、皇牙はすでに三回目の召喚へ指を伸ばしていた。


「ここまで来たら、三連続いっちまえ!」


 光が収まると、石工の道具を腰に下げた逞しい男が姿を現した。


【R ロルフ】

【適性:石造建築・補修】


「うおおっ! R三人! すげえ、こんな日もあるんだな!」


 皇牙は思わず両手を突き上げた。Rが三回連続で出るのは、そうそう起こらない。SR以上が出なかったことなど、今は気にならなかった。


「三人とも、ようこそアストレアへ! 今日はゆっくり街を見て回ってくれ。仕事の話は、ここでの暮らしに慣れてからでいいからな!」


 新しい住民たちは丁寧に礼を述べ、案内役とともに広間を出ていった。測量、記録管理、石造建築という適性は、いずれも街の発展に役立ちそうだ。ただし、召喚されたばかりの三人に、土地の事情も分からないまま境界調査を任せるつもりはない。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:219人】

【SR以上排出率:5%】


「二百十九人か。いやあ、朝から気分がいいぜ!」


 機嫌よく執務室へ入ると、勘助、コルベール、マリオンの三人が机を囲んでいた。広げられた紙の中央には、古い文字で書かれた開拓許可状の写しが置かれている。


「皇牙様。こちらが、ヴァルデン子爵家から届いた許可状の控えです」


 コルベールが説明した。文書は過去のヴァルデン家当主が発行したもので、先代の家令が領地台帳の別冊とともに保管庫へ移したらしい。


「発行したのは、かなり昔の領主ってことか?」


「はい。灰原での水場の利用と畑地の開墾を、数家族に認めた内容です。ただし、土地の範囲を示す記述は大まかで、現在のアストレアとの位置関係までは確定できません」


 皇牙は頷いた。昔の領主が誰かに開拓を許したことと、現在の街全体の領有権が誰にあるかは別問題だ。その点は、昨日までの話で理解している。


「それで、何か新しいことは分かったのか?」


「はい。開拓者の代表者名が読めました」


 マリオンは一枚の紙を差し出した。


「ハインツ・フェルナー。許可状には、この人物を含む五家族が開拓を始めたと記されています」


「ハインツ・フェルナー……。やっと昔の住民に名前がついたな」


 皇牙は小さく呟いた。古文書の中の『開拓者たち』が、急に実在した人間として感じられる。


 マリオンは続けて、商人組合の古い往来記録を開いた。


「実は、こちらにも同じ名前があったんです。ただし、許可状より後の年代の記録です」


 そこには、灰原の開拓地から南の宿場へ荷車を出した者として、ハインツの名前が記されていた。運んだものは穀物と家財道具。通常の商売としては、少し不思議な組み合わせだった。


「……家財道具まで運んだのか?」


「はい。それに、同じ頁には『水場の衰えにより南へ移る者あり』という一文が残っています」


 皇牙は思わず顔を上げた。


「えっ、待てよ。じゃあ、開拓地の住民は全滅したんじゃなくて、別の場所へ引っ越した可能性があるってことか?」


「その可能性が高くなりました。ただし、五家族すべてが移ったかは分かりません」


 勘助の言葉に、皇牙はしばらく黙った。


 灰の荒野に暮らした人々が、魔物に襲われて姿を消したのかもしれない。そんな想像をしていたが、記録の中には別の可能性が残っていた。


「……そっか。水が出なくなったら、そりゃ暮らしていけねえよな」


「左様でござる。魔物の目撃が増えた記録もございますが、それだけが原因とは限りませぬ」


 勘助は地図へ指を置いた。


「子爵家からは、本日午後に共同で石組みを確認したいとの提案も届いております。記録係のルーカス殿と領地管理官のエーベルハルト殿が来られる予定です」


「今日!? もう日程まで決まってんのか!」


 皇牙の顔が明るくなった。


「よし、俺も行く! そういう歴史の調査なら大歓迎だぜ!」


 コルベールは微笑みながら頷いた。面倒な書類整理から逃げ回る主君が、古い集落の話になると自ら参加を申し出る。その違いは、もはや誰もが知るところだった。


 昼前、皇牙は気分転換を兼ねて城下町を歩いた。新しい休憩所では数人の住民が談笑し、昨日の宴会で使った長椅子も綺麗に並べ直されている。


 その近くの訓練場から、鋭い声が聞こえてきた。


「槍先だけを見てはならぬ! 相手の足と肩を見よ!」


 関羽だった。


 警備担当者のディランたちが木槍を構え、その前で関羽が実演している。巨体を生かした力任せの動きではない。わずかに足を引き、相手の進路を塞ぐように槍を差し出すと、向かってきた二人が思わず足を止めた。


「おおっ! すげえ! ほとんど動いてねえじゃん!」


 皇牙が感心して声を上げると、関羽は木槍を下ろした。


「皇牙殿。多人数で守るなら、各々が勝手に前へ出てはならぬ。間を空けず、隣の者と動きを合わせることが肝要だ」


「なるほどな。強い奴を一人置くより、みんなで守れるようにするってことか」


「うむ。巴殿や我が強くとも、街のすべてを常に見張れるわけではないからな」


 皇牙は素直に頷いた。自分が魔法で魔物を吹き飛ばすのは簡単だ。しかし、住民が安心して暮らすには、いつでも頼れる警備担当者が必要なのだろう。


「じゃあ、今後も頼むぜ。必要な道具があったらガルドたちに相談してくれ!」


 関羽は満足そうに頷き、再び訓練へ戻った。皇牙はその背中を眺めながら、SSRの豪傑が仲間になった心強さを改めて感じていた。


 午後、アストレアの西門に子爵家の使節が到着した。


 先頭に立つのはオスカーではなく、領地管理官エーベルハルトと記録係ルーカスである。今日は交渉ではなく共同調査のため、双方の担当者を合わせても小人数だった。


「皇牙殿。本日はよろしくお願いいたします」


「おう。昨日のうちに返事をくれて助かったぜ」


 皇牙が手を上げると、エーベルハルトはきちんと一礼した。


「こちらとしても、開拓許可状の記載を確かめる必要がございます。古い石組みが同じ場所を指すなら、重要な資料となりますから」


「よし。それじゃ見に行こうぜ!」


 一行は巴と勘助、マルクの案内で農地の外れへ向かった。


 畑を越えると、そこには灰色の荒野が広がっていた。人の手で耕された土地と、まだ草のまばらな土地。その境目近くに、丸い石組みがひっそりと残っている。


 勘助は昨日測った位置を示し、双方の記録と照らし合わせた。


「こちらが円形の石組み。直径はおよそ一メートル半で、近くには長方形に並ぶ石列がございます」


 エーベルハルトは地面へ膝をつき、石組みをじっと眺めた。


「……確かに、台帳の記述と似ていますな」


 ルーカスが古い図の写しを広げる。そこには丸い水場と、その南に並ぶ小さな家々が描かれていた。


「図は簡略なものですが、位置関係は一致するように見えます」


 勘助が頷いた。


「ただし、形が似ているだけでは断定できませぬ。石を動かしたり掘り返したりせず、まずは周囲を確認いたしましょう」


 全員が同意し、地表に見える石と古い道筋を観察していった。


 皇牙は《万能鑑定EX》も試してみたが、分かったのは古い石材であり、人の手で組まれた構造物らしいということまでだった。年代や建築者の名前は表示されない。


「……肝心なところは教えてくれねえんだよな、このスキル」


 皇牙がぼやくと、巴が笑った。


「殿。だからこそ、調べる楽しみがあるのでは?」


「……それもそうだな!」


 皇牙はすぐに機嫌を直した。


 そのとき、巴が石組みの少し外側で立ち止まった。


「殿。こちらの石、何か刻まれておりませんか?」


「ん?」


 皇牙が近づくと、草の間から細長い石の角が顔を出していた。地面に埋まったままのその石には、年月を経て薄れた線が刻まれている。


 勘助とルーカスが屈み込み、表面に積もった枯れ葉だけをそっと取り除いた。


「……これは、文字ですな」


 ルーカスが息を呑んだ。


 刻まれていたのは、古い文字で記された短い名前だった。


「フェルナー……?」


 皇牙は思わず声を上げた。


 午前中、許可状から読まれた代表者の名前と同じだった。


 エーベルハルトも身を乗り出した。


「……ハインツ・フェルナー。確かに、そう読める」


 しかし、勘助はすぐに断定しなかった。


「同じ姓の別人という可能性もございます。ですが、許可状の名前と一致することは、無視できぬ手掛かりですな」


 皇牙の胸が高鳴った。


 古い紙に残された人物の名が、目の前の石にも刻まれている。数十年、あるいはそれ以上前にここで暮らした誰かが、この石へ名前を残したのかもしれない。


「……すげえな。本当に誰かがここにいたんだ」


 皇牙は小さく呟いた。


 巴も静かに石を見つめている。


「殿。これが、昔の方々の暮らした証なのかもしれませんね」


「ああ。何か……ちょっと感動するわ」


 エーベルハルトはしばらく石を眺めたあと、静かに立ち上がった。


「本日の調査結果は、子爵閣下へ正確に報告いたします。少なくとも、この一帯に古い開拓地が存在した可能性は、以前より高まりました」


「そうだな。でも、それだけで今の街がそっちの土地だって決まるわけじゃねえんだろ?」


 皇牙が確認すると、エーベルハルトは頷いた。


「はい。今回確認できたのは、過去の開拓に関する事実です。現在の領有権については、なお資料の照合が必要でしょう」


「なら、これからもちゃんと話し合おうぜ」


「承知しました」


 エーベルハルトの返事は、以前より少し柔らかく感じられた。


 調査を終えた一行は、石組みの位置と刻字の形をそれぞれ記録した。遺構を傷つけないよう、既存の杭と縄による立入防止の目印もそのまま維持することになった。


 帰り際、ルーカスが皇牙へ声をかけた。


「皇牙様。ひとつだけ、気になっていることがございます」


「何だ?」


「フェルナーという名前ですが、南の宿場に残る古い住民台帳にも、同じ姓があるそうです。まだ同じ家系かは分かりませんが……」


 皇牙は思わず目を丸くした。


「……ってことは、昔の開拓者たちの子孫が、今もどこかにいるかもしれねえってことか?」


「可能性はございます」


 ルーカスは頷いた。


 その言葉を聞いた皇牙は、自然と笑みを浮かべた。


「そりゃ面白え! もし本当に子孫がいるなら、昔の集落のことも何か知ってるかもしれねえな!」


 ただの土地の争いだと思っていたものが、いつの間にか過去の人々の暮らしを探る旅に変わり始めている。


 皇牙は歴史好きの血が騒ぐのを抑えられなかった。


 夕方、城館へ戻ると、勘助とコルベールは調査結果をまとめ始めた。子爵家側と同じ内容を記録し、次の協議では旧街道の管理区域と開拓地の範囲を分けて検討することになった。


 皇牙は必要な報告を聞き終えると、ようやく執務室を出た。


「いやあ、今日は結構面白かったな!」


「殿。昼寝のご予定はよろしかったのですか?」


 巴が隣で微笑む。


「……あっ、そういやそうだった!」


 皇牙は思わず立ち止まった。


「ちくしょう! 今日は休むつもりだったのに、結局ずっと動き回ってたじゃねえか!」


「ふふ。でも、楽しそうでございましたよ」


「……まあな」


 皇牙は苦笑した。


 城館の中庭では、昨日完成した休憩所に住民たちが集まっていた。黒竜の彫刻が夕日を受け、屋根の下では子供たちが笑っている。


 皇牙はその光景を眺めながら、ふと思った。


 昔、ハインツ・フェルナーという男も、この土地で誰かと笑い合っていたのだろうか。水が出なくなり、住み慣れた場所を離れなければならなかったのなら、どんな気持ちだったのだろう。


 その答えは、まだ分からない。


 だが、過去の人々がここで暮らした証は、確かに残っていた。


「……なあ巴。俺たちの街は、ちゃんと長く残してえな」


 巴は少し驚いたように皇牙を見た。


「殿……?」


「せっかくみんなで造ったんだ。昔の開拓地みたいに、いつの間にか誰もいなくなるのは寂しいだろ」


 皇牙は笑った。


「まあ、そのための仕事は勘助たちに任せるけどな!」


「ふふ。殿らしいですね」


 巴も笑い返した。


 灰の荒野には、かつて別の開拓者たちが暮らしていた。


 そして今、その土地に新しい街が生まれている。


 皇牙は中庭の賑やかな声を聞きながら、いつか自分たちも誰かの歴史になるのだろうかと考えた。


 もちろん、その頃には面倒な仕事から完全に解放され、毎日好きなだけ昼寝をしている予定だった。

お読みいただきありがとうございます。

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