第3章 第76話 SR海賊娘とSSR軍神を連続召喚!? うちの国、海がないんだけど!
「皇牙様、ちょっといいですか。この竜、もう少し小さくできません?」
「……えっ?」
朝の中庭に、神城皇牙の間の抜けた声が響いた。
目の前では、ガルドが腕を組みながら新しい休憩所の図面を眺めている。人口二百人突破を記念して造ることになった施設で、食事会の会場として使ったあとも、住民たちが自由に休める場所にする予定だった。
問題になっているのは、屋根の四隅に配置された竜の彫刻である。
「小さくって……何でだよ! この翼の迫力がいいんだろ!」
「いや、格好いいのは分かりますよ。でも、この大きさだと雨水が翼に当たって、座ってる人の頭に落ちるんです。せっかく屋根をつける意味がねえでしょう?」
ガルドは図面の端を指で叩いた。昨日完成した西門の黒竜とは違い、今回の竜は人がくつろぐ場所に飾るものだ。見た目ばかりを優先すれば、肝心の使い勝手が悪くなる。
皇牙はしばらく図面を睨んでいたが、やがて大きく息を吐いた。
「……分かった。翼だけ小さくしよう。頭と尻尾は残してくれよ?」
「そこは大丈夫です。ちゃんと格好よくしますから」
「絶対だぞ!」
交渉が成立すると、隣にいた巴が楽しそうに笑った。
「殿も、ずいぶんと職人の皆さんのお話を聞かれるようになりましたね」
「俺だって使いにくい休憩所なんか欲しくねえよ。せっかく造るなら、みんなに喜んでもらいたいしな」
そう言ったあと、皇牙は少し照れくさくなって顔を背けた。
異世界生活六十三日目。アストレアの人口は、昨日の無料召喚で二百一人になったばかりだ。住民たちの祝いの食事会は数日後に予定されており、リーナが献立を考え、ガルドたちが長椅子や食器の準備を進めている。
建物自体は《国家創造EX》で一瞬のうちに造れる。だからこそ、皇牙は職人たちが納得できる設計になるまで待つことにした。
「よし、休憩所は任せた! 俺はもっと大事な仕事がある!」
「ガチャでございますね?」
巴の即答に、皇牙は胸を張った。
「そのとおり!」
城館の広間へ戻ると、皇牙はさっそく《英霊召喚ガチャEX》を開いた。
【無料召喚:3/3回】
【国家人口:201人】
【SR以上排出率:5%】
「二百人を超えた記念に、そろそろすげえ奴を頼むぜ!」
「殿。人口が増えたことは喜ばしいですが、排出率はまだ変わっておりませんよ」
「分かってる! でも、こういう節目には何かある気がすんだよ!」
皇牙は期待を込めて一回目の召喚を行った。
瞬間、床に広がった魔法陣から金色の光が噴き上がった。
「……おっ!?」
光の中に現れたのは、一人の若い女性だった。赤みを帯びた髪を後ろで束ね、動きやすそうな上着に腰帯を締めている。鋭い眼差しと大胆な笑みは、初対面の相手にもまったく物怖じしない性格を感じさせた。
【召喚成功】
【SR アン・ボニー】
【適性:船上戦闘・航海・白兵戦】
「アン・ボニー!? あのカリブ海の女海賊かよ!」
皇牙が叫ぶと、女性は片方の眉を上げた。
「へえ、あたしを知ってるのかい。話が早くて助かるね。で、あんたが船長?」
「船長っていうか……ここの領主みたいなもんかな。俺は神城皇牙!」
「領主ねえ。まあいいさ。それで、船はどこだい?」
「…………」
皇牙の笑顔が固まった。
アンは広間の窓から外を覗き、遠くに広がる街並みを眺めた。見えるのは城壁と畑、それに灰色の荒野ばかりである。
「……海が見えないね」
「そりゃそうだろ。ここ、内陸だし」
「港は?」
「ない」
「船は?」
「ないな」
「……あんた、海賊を呼んでおいて海も船もないのかい!?」
アンの呆れた声に、巴が思わず口元を押さえた。
「いや、俺だって好きな偉人を選べるわけじゃねえんだよ! ガチャなんだから!」
「がちゃ?」
「誰が出るか分からねえ召喚ってこと!」
アンはしばらく皇牙を見つめたあと、豪快に笑い出した。
「あっははは! 面白いじゃないか! 海賊が陸のど真ん中に呼ばれるなんて、こんな冗談は初めてだよ!」
怒鳴られると思っていた皇牙は、ほっと胸を撫で下ろした。
「まあ、そのうち海にも行きたいとは思ってるんだ。船旅とか絶対楽しそうだし!」
「言ったね? その話、忘れないからね」
アンが悪戯っぽく笑うと、皇牙もつられて笑った。
ただし、いつ海へ行けるかは分からない。今は街道や領有権の問題で手いっぱいだし、海に出るには港だけでなく、船や船員も必要になる。
皇牙は《万能鑑定EX》を開いた。
【アン・ボニー/SR】
【総合:B+】
【統率:C+/武勇:A/知略:B-】
【財務:D+/内政:E+/外交:C】
【忠義:C+/農業:E/工芸:D/商業:C+】
【固有スキル:《荒波の反逆児》】
【効果:船上または乗り込み戦闘で本人の身体能力と足場への対応力が上昇する。陸上では発動しない】
「うわっ、武勇A! 普通に強えじゃん! でもスキルは船の上限定か……」
「当然だろ? 海賊なんだからさ」
アンは胸を張った。
今のアストレアでは固有スキルの出番がない。それでも、船上で戦った経験や接近戦の腕まで失われるわけではない。皇牙は、使い道を急いで決めるより、まず街に慣れてもらおうと考えた。
「ま、仕事はあとで考えようぜ。今は歓迎だ!」
「気前がいいね。嫌いじゃないよ、そういうの」
アンが笑ったところで、皇牙は残りの召喚回数を思い出した。
「よし、二回目! 今日は流れが来てるぞ!」
再び魔法陣が輝き始めた。
だが、今度の光は先ほどよりも強かった。金色の輝きに白い閃光が走り、広間の壁へ幾重もの紋様を映し出す。やがて光の中心に、巨大な人影が浮かび上がった。
「……お、おい。これ、まさか……!」
光が収まると、そこには長い髭をたくわえた偉丈夫が立っていた。堂々とした体格に鋭い眼差し。深緑の装束と武具をまとった姿には、歴戦の武人らしい威厳がある。
【召喚成功】
【SSR 関羽】
【適性:武勇・統率・白兵戦】
「関羽雲長ぉぉぉ!?」
皇牙の絶叫が城館中に響き渡った。
「マジかよ! 三国志の関羽だぞ!? さっきSR引いたばっかなのに、今度はSSR!?」
男は大騒ぎする皇牙を静かに見下ろし、やがて胸の前で拱手した。
「関羽、字は雲長。召しに応じて参った。この身の武を必要とされるのであれば、力を尽くそう」
「必要! めちゃくちゃ必要! いや、今すぐ戦争したいわけじゃねえけど!」
皇牙が勢いよく答えると、関羽は長い髭を撫で、わずかに笑みを浮かべた。
「戦を求めて兵を集める主には、仕える気も起きぬ。守るべきものがあるならば、剣を取る意味もあろう」
その言葉を聞き、巴が一歩前へ出た。
「巴と申します。殿の護衛を務めております。関羽殿ほどの武人をお迎えできたこと、嬉しく思います」
「巴御前か。そなたの名も聞き及んでおる。主を守る務め、互いに励むとしよう」
二人は静かに礼を交わした。
皇牙はその光景を見て、また興奮しかけた。巴御前と関羽が自分の城で挨拶している。歴史好きにとっては、それだけでも夢のようだった。
ところが、その感動に割って入った者がいる。
「へえ。あんた、随分と強そうじゃないか」
アンだった。関羽の体格を遠慮なく眺め、挑発するように笑っている。
「何者だ?」
「アン・ボニー。海賊さ」
「海賊……とな」
関羽の眉がわずかに動いた。
「略奪を生業とする者か」
「そういう船にも乗ってたね。けど、あたしの腕まで安く見られちゃ困るよ」
アンが笑みを消さずに言い返すと、関羽も相手の眼差しを正面から受け止めた。
「腕があることと、その腕をどう振るうかは別だ。ここでは主の定めた道理に従ってもらおう」
「そいつはこっちも同じさ。もっとも、腕前を確かめる機会くらいは欲しいけどね」
「望むなら、いずれ稽古には付き合おう」
険悪になるかと思った皇牙だったが、二人の口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。どうやら、互いの気の強さを面白がっているらしい。
「……お前ら、初対面から元気だな!」
皇牙は苦笑しながら、関羽の能力を鑑定した。
【関羽/SSR】
【総合:S-】
【統率:A+/武勇:S+/知略:B+】
【財務:D/内政:C+/外交:B】
【忠義:A/農業:E/工芸:D/商業:C】
【固有スキル:《義絶の青龍》】
【効果:本人が前線で直接指揮する味方の士気と攻撃時の連携を高める。本人が戦闘から離れると効果は失われる】
「武勇S+! すげえ! 巴といい関羽といい、うちの武闘派はとんでもねえな!」
皇牙が感激している間に、三回目の無料召喚が残っていることを巴が教えてくれた。
「そうだった! よし、最後まで引くぜ!」
三回目はいつもの白い光に包まれ、N食堂配膳補助のエリーが現れた。
皇牙は彼女にも笑顔で挨拶した。今は歓迎の食事会を準備しているところだが、エリーにはまず住まいや街の案内を受けてもらうことにする。
【無料召喚:0/3回】
【国家人口:204人】
【SR以上排出率:5%】
「二百四人! しかもSRとSSRが連続で来た! 今日のガチャ、マジで伝説級じゃねえか!」
皇牙はしばらく興奮が収まらなかった。
昼前、皇牙は新しく召喚された三人を連れて街を案内した。アンは西門の黒竜を見上げるなり歓声を上げ、関羽は門の構造や見張り台の位置に興味を示している。
「いいねえ、この竜! 海賊船の船首にでも飾りたいくらいだよ!」
「船首像か! それ、いつか造ってみてえな!」
「だから船がないんだろ?」
「……そこは言うな!」
皇牙とアンが言い合っている横で、関羽は巴から現在の警備体制について説明を受けていた。
「この街には、まだ大きな軍勢はおりません。西門はディラン殿たちが守り、私は主に殿の護衛を務めています」
「少人数でこれだけの街を守っているのか。ならば、門を守る者と外を警戒する者の連携が重要になろう」
関羽は周囲の住民へ目を向けた。
「……しかし、よい顔をしている。守る甲斐のある街だな」
その一言に、巴は嬉しそうに微笑んだ。
午後、皇牙は関羽を勘助たちへ紹介した。アンは古文書や政治の話に興味がないらしく、バットゥータの案内で市場を見て回ることになった。
勘助とコルベールは関羽の名を聞いて驚いたが、すぐに現在の事情を説明した。ヴァルデン子爵家との境界協議が二日後に迫っており、護衛兵三十名の同行について確認を求めていることも伝える。
関羽は地図へ目を落とした。
「会談場所は古い橋の近くか」
「左様でござる。道幅が狭く、川沿いには崩れた場所もあります。三十人が一度に近づけば、かえって危険が増すでしょう」
勘助が説明すると、関羽は深く頷いた。
「ならば、兵の数を競う必要はあるまい。双方が無用の敵意を見せぬよう、近づける護衛を限るのがよかろう」
「我らもそのように考えております」
勘助はすでに用意していた返書の案を示した。会談地点へ入る護衛を双方四名までとし、残る兵は街道から離れた広場で待機してもらう。商人の通行を妨げないことも条件に含めている。
皇牙は書状を覗き込み、何度も頷いた。
「いいじゃん! 三十人連れてくるのが駄目っていうより、三十人で会議に押しかけられたら困るって話だもんな!」
「そのとおりでございます」
コルベールが答えた。
さらに、子爵家から護衛を増やした理由についても返事が届いていた。近頃、北の街道で不審な通行妨害が起きていたため、使節の安全を重視しているのだという。
それを聞いた皇牙は、思わず顔をしかめた。
「……その通行妨害、ラウルたちがやってたやつじゃねえか?」
「可能性は高いですが、先方がどこまで事情を把握しているかは確認が必要です。偽の許可証事件の調査結果も、すでに別途送っております」
コルベールの説明に、皇牙は納得した。
子爵家が本当に護衛を必要としているなら、人数を連れてくること自体を責める理由はない。ただし、協議の場で兵を並べられるのは困る。
「じゃあ、その条件で話を進めてくれ。俺は必要な道路を造るから、場所が決まったら教えてくれよ!」
勘助は頷き、現地へ出る護衛や商人の通行路について、関羽と相談を始めた。
関羽は自分が前線を率いる武将であることを自覚しており、いきなり街の警備全体を仕切ろうとはしなかった。現地の事情に詳しい勘助の説明を聞き、危険が起きた場合にどこへ立つべきかを考えている。
「もし刃を向けられたなら、前に出るのはこの関羽に任せてもらおう。ただし、戦わずに済むなら、それが一番だ」
関羽の言葉に、皇牙は笑顔で頷いた。
「おう! 俺も同感だ。せっかく造った街を、くだらねえ喧嘩で壊されたくねえしな!」
夕方、皇牙は西門の近くでアンと再会した。
彼女は商人たちから各地の交易路について話を聞いていたらしく、見慣れない商品が積まれた荷車を興味深そうに眺めている。
「おっ、アン。どうだ、うちの街は?」
「悪くないね。商人も多いし、食い物も旨そうだ。ただ……」
「ただ?」
「やっぱり潮の匂いがしないのは寂しいねえ」
アンは遠くの空を見上げた。
海賊として生きてきた彼女にとって、海のない暮らしは奇妙なものなのだろう。皇牙は少し考えたあと、笑みを浮かべた。
「そのうち海にも行こうぜ。俺だって、まだこの世界の海を見たことねえし!」
「本当かい?」
「おう。船で旅して、美味い魚でも食ってさ。絶対楽しそうだろ!」
アンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに豪快に笑った。
「あっはは! いいじゃないか! そのときは、あたしが船の上を案内してやるよ!」
「頼んだぜ! ただし、俺のことを海に放り込むなよ?」
「さあねえ。船酔いして動けなくなったら、考えるかもしれないよ!」
「おいっ!」
二人の笑い声が西門の前に響いた。
その様子を見ていた巴も、楽しそうに微笑んでいる。
夜、城館では住民二百人突破の祝いに向けた準備が続いていた。休憩所の設計は完成し、ガルドたちは明日の使用確認に備えている。リーナも料理の準備を進め、食事会に参加できない当番の者へ料理を取り分ける段取りを整えていた。
皇牙は自室へ戻ると、寝台へ倒れ込んだ。
「……いやあ、今日は最高だったな。SRの海賊娘にSSR関羽だぞ。ガチャって本当に何が起きるか分かんねえ!」
隣で巴が小さく笑う。
「はい。新しい仲間が増えて、ますます賑やかになりましたね」
「だろ? あとは子爵家との話をさっさと終わらせて、のんびり暮らすだけだ!」
「ふふ。そう簡単に終わればよいのですが」
「そこは勘助たちに期待だな!」
皇牙は満足そうに目を閉じた。
一方、執務室では勘助とコルベールが、子爵家へ送る条件確認の書状を封じていた。会談地点の護衛人数、待機場所、商人の通行路。必要な事項は整理され、あとは先方の正式な了承を待つばかりである。
人口二百人を超え、新たに二人の歴史上の偉人を迎えたアストレア。海のない街に現れた女海賊と、義を重んじる三国志の豪傑。その出会いは、皇牙が望む自由な暮らしに、思いがけない賑わいをもたらそうとしていた。
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