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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第74話 領有権の証拠を見せろ!? 古い街道に隠された秘密!

 アストレアの西門に二頭の黒竜が現れたのは、朝の荷車がひと段落した頃だった。


 門の左右に設けられた台座から、黒い石で造られた竜が翼を広げ、街道を見下ろしている。陽光を受けた鱗には鈍い光沢が走り、爪の先まで精巧に造り込まれた姿は、今にも咆哮を上げそうな迫力を持っていた。


「くぅーっ! やっぱり竜は最高だな!」


 神城皇牙は門の前で腕を組み、満面の笑みを浮かべていた。


 異世界生活六十一日目。レオナルド・ダ・ヴィンチとガルドたちが試作を重ねてきた黒竜の門飾りが、ようやく完成したのである。


 もちろん、実際に石を積み上げたわけではない。レオナルドがまとめた最終設計をもとに、皇牙が《国家創造EX》で一瞬のうちに造り上げたものだ。工事中は荷車の通行を妨げないよう別の通路を設け、完成後もガルドたちが通路の幅や周囲の状態を確かめていた。


「皇牙殿、設計どおりにできているね。翼の根元も、試験した形がきちんと再現されている」


 レオナルドは竜の足元を見上げ、満足そうに頷いた。その隣でガルドも笑っている。彼らにとっては、何度も作り直した模型が巨大な石の姿になったことが、何より嬉しいのだろう。


「おう! これで西門の格好よさが三倍……いや、十倍になったな!」


「殿。倍率の根拠はございますか?」


 巴が真面目な顔で尋ねると、皇牙は胸を張った。


「俺の感覚!」


 思わず吹き出した巴につられ、周囲の職人たちも笑い始めた。皇牙は少し照れくさくなったが、完成した竜を見ると、そんなことはどうでもよくなってしまう。


 かつて四人しかいなかった荒野の拠点が、今では商人を迎える門を持ち、住民たちがその完成を喜んでいる。好き勝手に始めた国づくりだったが、こうして皆と喜びを分け合えるのは、悪くない気分だった。


 ガルドから安全確認が終わったと聞くと、皇牙は門番のディランへ通行を再開してよいと伝えた。待っていた商人たちの荷車が動き始め、何人かが頭上の黒竜を見上げながら歓声を上げる。


「おお、すげえ門だな!」


「こりゃ初めて来た奴は驚くぞ!」


 そんな声を聞いた皇牙は、ますます上機嫌になった。


 ただし、いつまでも門を眺めているわけにはいかない。皇牙には毎日欠かせない楽しみがある。


 城館へ戻った彼は、巴を連れて広間へ向かい、《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:195人】

【SR以上排出率:5%】


「よーし! 今日も無料三回! 頼むぜ、そろそろ歴史に名を残した大物!」


「殿。先ほどから、とても楽しそうですね」


「当たり前だろ! 門は完成したし、ガチャは引けるし、今日は最高の日だ!」


 期待を込めて引いた結果は、N洗濯補助のヘルマン、N菜園管理補助のニーナ、R古文書整理補助のマリオンだった。


 最後の肩書を見て、皇牙は少し驚いた。


「古文書整理? へえ、そんな仕事が得意な奴もいるのか!」


 マリオンは古い記録を分類し、傷んだ文書を扱いながら内容を照らし合わせるのが得意だという。歴史好きの皇牙にとっては、なかなか興味深い人材だった。


 三人を歓迎した皇牙は、受け入れ担当者に生活の案内を頼んだ。マリオンには、まずクラリスやセシリアのもとでアストレアの記録の扱いを覚えてもらうことにする。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:198人】

【SR以上排出率:5%】


「百九十八人! 明日には二百人突破じゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに画面を閉じた。人口が増えれば、できる仕事も増える。そうなれば自分の自由時間も増えるはずだというのが、彼の変わらぬ持論だった。


 ところが、昼前になって城館の廊下を歩いていると、山本勘助とイブン・バットゥータが地図を広げて話しているところへ出くわした。


「おっ、何見てんだ?」


 皇牙が何気なく声をかけると、勘助が顔を上げた。


「殿。ちょうど灰の荒野の古い境界について、バットゥータ殿と相談していたところでござる」


「……境界って、子爵家の土地の話か?」


「左様でござる。ただし、まだ我らには確かな資料が足りませぬ」


 皇牙は地図を覗き込んだ。西の街道とリューデン谷、それに北の宿場へ続く道が描かれている。勘助の指は、以前グレゴールの部下たちが商人を止めていた古い石標の位置に置かれていた。


「子爵家はあの石標を、領有権の根拠の一つとして挙げております。ですが、古い街道を知る商人の話では、道の分岐点を示すものだった可能性もあるそうです」


 バットゥータが説明した。


「その商人が言うには、昔は石標から北へ進む別の道があり、リューデン谷の手前で川を渡っていたそうです。今は使われなくなった橋の跡が残っているとか」


「へえ! じゃあ、そこを調べれば何か分かるかもしれねえな!」


 皇牙の目が輝いた。古い道や遺跡の話なら、政治の書類よりずっと面白そうだった。


「俺も行く! そういう探索なら大歓迎だ!」


「ありがたき幸せ。ただし、石標が道しるべであったとしても、それだけで子爵家の領有権を否定できるわけではございません」


 勘助は先回りして念を押した。


「分かってるって。道しるべと土地の持ち主は別の話だろ? 古い資料も必要ってことだな」


 皇牙が答えると、勘助は満足そうに頷いた。


 午後、皇牙は巴とバットゥータを連れ、西の街道へ向かった。以前訪れた場所まで《空間転移EX》で移動し、そこから三人で石標を調べることにする。


 街道の脇に立つ石標は、相変わらず風雨にさらされていた。腰ほどの高さしかなく、遠目にはただの古い石の塊に見える。だが、近づけば三つの山と一本の線を組み合わせた印が刻まれていることが分かった。


「……これが問題の印か」


 皇牙は石標の前へしゃがみ込んだ。以前見たときよりも、表面の苔が少し剥がれている。印の周囲には細かな擦り傷もあった。


 バットゥータは石標の表面を確かめながら、慎重に口を開いた。


「誰かが最近、苔を落としたようですね。ただ、印そのものを新しく刻んだ跡には見えません。擦り傷は表面だけで、深い溝の内側には古い汚れが残っています」


「じゃあ、印を偽造したってわけじゃねえのか?」


「少なくとも、今ある傷だけでそう判断することはできません。むしろ、古い印を調べようとして掃除した可能性があります」


 皇牙は素直に頷いた。新しい傷があるからといって、全部が最近造られたとは限らない。そんな当たり前のことも、実際に目の前で説明されると納得できた。


 バットゥータはさらに石標の裏側へ回り、草を払いのけた。すると、正面の印とは別に、薄い矢印のような刻みが見つかった。先端は北の古い道へ向いている。


「……これは方向を示すものかもしれませんね」


「おおっ! やっぱ道しるべじゃねえか!」


「その可能性は高まりました。ただ、境界標が道しるべを兼ねることもあります。これだけでは用途を一つに決められません」


 バットゥータの言葉に、皇牙は苦笑した。


「歴史の調査って、簡単に答えが出ねえんだな」


「だからこそ、面白いのですよ」


 そう答えるバットゥータは、実に楽しそうだった。


 次に三人が向かったのは、北の古い橋の跡だった。川の両岸には石造りの土台が残り、その間を浅い水が流れている。周囲には草に埋もれた石畳が続き、かつて荷車が通っていた様子を想像できた。


 皇牙は崩れかけた石の上へ立ち、向こう岸を見渡した。川幅はそれほど広くないが、橋が失われた今では荷車で渡るのは難しそうだった。


「へえ。昔はここが街道だったのか。今じゃすっかり忘れられてるんだな」


「道は人が使わなくなると、驚くほど早く姿を失いますからね」


 バットゥータはそう言いながら、橋の土台へ近づいた。


 巴は少し離れた場所で周囲を警戒していたが、皇牙が崩れた石の縁へ近づこうとすると、すぐに声をかけた。


「殿。そこは足場が緩んでおります。お気をつけください」


「おっと。ありがとな、巴」


 皇牙は素直に足を引いた。魔法が使えるとはいえ、わざわざ転ぶ必要はない。巴がいつもさりげなく気を配ってくれることも、今ではすっかり当たり前になっていた。


 しばらくして、バットゥータが橋の土台に埋め込まれた石板を見つけた。


「皇牙殿。こちらを」


 石板には、三つの山と一本の線によく似た印が刻まれていた。ただし、その下には川の流れを思わせる曲線が一本加わっている。石標の印とは明らかに違う形だった。


「……あれ? 山の下に線が増えてるぞ」


「はい。こちらは橋や川に関係する記号なのかもしれません」


 バットゥータは石板の形を紙へ写し取った。しかし、それだけで判断することはしなかった。彼は橋の周囲をさらに調べ、土台の裏側に残る別の刻みも確認していく。


 やがて、古い石畳の端に、摩耗した数字のような刻みが見つかった。文字はほとんど読めなかったが、石標にある矢印と同じ方向へ続く道に沿って配置されている。


「……面白いですね。これは道の距離や方向を示すための記録だった可能性があります」


「ってことは、昔の街道の設備だったのか!」


「おそらく。ただ、確かめるには当時の記録が必要です」


 皇牙は腕を組んで考えた。石標と橋の印が似ているだけでは、何を意味するのか分からない。だが、古い道に沿って同じような記号が残っているとなれば、何らかの共通した使い方があったのだろう。


「じゃあ、古文書を探そうぜ! ちょうど今日、そういうのが得意な奴を召喚したばっかだしな!」


 バットゥータは笑みを浮かべた。


「それは心強いですね。ただ、まずは既存の資料から探しましょう。今日召喚されたばかりの方には、無理をさせない方がよいでしょうから」


「そりゃそうだな。じゃあ、調べるのは勘助たちに任せよう!」


 三人は石標と橋の印を写し取り、夕方にはアストレアへ戻った。


 城館では、勘助とコルベールが子爵家との協議に備え、古い地図や街道の記録を集めていた。そこへバットゥータが持ち帰った写しを広げると、二人の表情が変わった。


「……なるほど。石標と橋の印には、確かに共通する部分がございますな」


 勘助は地図の上へ二枚の写しを並べた。


「ただし、子爵家の紋章と似ているというだけでは、どちらが先に使われた印なのか分かりませぬ」


 コルベールも頷いた。


「領有権の判断には、正式な境界記録や過去の管理状況が必要です。仮にこの印が古い街道の記号だとしても、子爵家の権利がないとまでは言えません」


「だよな。じゃあ、やっぱ書類が必要ってことか」


 皇牙が肩を落とすと、勘助は少し笑った。


「しかし、殿。今回の発見は無駄ではございません。子爵家へ、石標の由来を示す資料も求める理由ができました」


 勘助は、単に領有権の根拠を示してほしいと求めるだけではなく、石標がいつ、誰によって設置されたのかも確認する方針を提案した。もし子爵家が石標を証拠として挙げるなら、その用途や由来まで説明してもらう必要がある。


「……なるほど。石に印があるから俺たちの土地だ、じゃ話になんねえもんな!」


「左様でござる。こちらも感情的に否定するのではなく、資料を照らし合わせて判断するのでございます」


 皇牙は満足そうに頷いた。自分が長々と交渉する必要がないなら、それが一番だった。


 そこへクラリスが古い書類の束を運んできた。街道の整備について商人たちから集めた記録の中に、昔の橋の修繕に触れたものがあるらしい。書類は傷んでおり、すぐには読み取れない部分も多かった。


 バットゥータが慎重に一枚を広げると、欄外に小さな印が描かれていた。


 三つの山と一本の線。その下には、橋で見つけたものと同じような曲線がある。


「……これは!」


 皇牙は思わず身を乗り出した。


 勘助も顔を近づけ、記録の一部を読み取っていく。そこには、古い街道の橋を修繕した際の費用や、人員の数が記されていた。さらに、印の横には短い説明が残されている。


『北谷街道・第二渡河所』


 バットゥータは静かに頷いた。


「少なくとも、この曲線のある印は、橋の場所を示すために使われていたようですね」


「おおっ! じゃあ、今日見つけた石板と一致するじゃねえか!」


 皇牙は嬉しそうに笑った。単なる推測だったものが、古い記録とつながったのである。


 ただし、石標の方には曲線がない。橋の印と同じ系統の記号なのか、それとも別の意味があるのかは、まだ調べなければならない。


 勘助はその点を確認したうえで、今後の交渉方針をまとめた。


 子爵家には古い境界記録を求める。同時に、石標の由来を示す資料があるか尋ねる。アストレア側では、見つかった街道修繕記録と現地の調査結果を整理し、両者の主張を比較できるようにする。


「よし! それで行こうぜ!」


 皇牙は力強く頷いた。


「ただし、俺に古文書を読ませるのは勘弁してくれよ? そういうのは得意な奴に任せるからな!」


「もちろんでござる。殿には、最終的なご判断をお願いすることになります」


「そこだけなら何とか頑張る!」


 皇牙の返事に、部屋の中で笑いが起きた。


 その夜、皇牙は城の浴場でゆっくり湯につかりながら、今日完成した黒竜の門を思い出していた。好きなものを造り、ガチャを引き、少しだけ古い遺跡を探索する。面倒な政治の話さえなければ、実に理想的な一日だった。


 だが、子爵家との領有権問題は、まだ終わっていない。


 勘助たちは新たに見つかった街道修繕記録を整理し、次の協議に向けた準備を進めていた。


 古い石標の印が何を示していたのか。その答えは、かつてこの荒野を行き来した人々が残した記録の中にあるのかもしれない。


 そして、その記録は、アストレアとヴァルデン子爵家の未来を左右する重要な材料になろうとしていた。

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