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建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

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第3章 第73話 消えた会計係を発見!? 悪徳商売の元締めを捕まえろ!

 神城皇牙が城館の中庭へ出ると、いつもより早く起きた職人たちが石材を運び込んでいた。朝日に照らされた作業台の上には、黒竜の翼を模した小さな石の試作品が並んでいる。レオナルドとガルドが相談しながら作り直してきたものだ。


 翼の先端は以前より少し短くなっていたが、根元から伸びる曲線はむしろ力強くなっていた。試作品に触れた皇牙は、その滑らかな仕上がりに思わず顔をほころばせる。


「おおっ! こっちの方が竜っぽくて格好いいじゃねえか!」


「ありがとう、皇牙殿。石で試した結果、こちらの形なら負担を分散できそうなんだ。設計を確定する前に、ガルドたちにも確認してもらっているところだよ」


 レオナルドが楽しそうに説明する。皇牙は翼をもう一度眺め、職人たちが作り上げた形に満足して頷いた。《国家創造EX》を使えば設計の決まった柱は一瞬で造れるが、その前にどんな柱が一番よいか考えるのも悪くない。


「よし! これで行こうぜ。あとは実際に造って、仕上げを確かめるだけだな!」


「殿。西門の入口で作業なさるのでしたら、商人の方々が通れる道を残しておきませんと」


 隣から声をかけた巴に、皇牙は指を鳴らして笑った。


「そこは大丈夫! 先に仮の通路を造ればいいだろ。俺の能力なら一瞬だしな!」


 すぐにでも工事を始めたいところだったが、その前に日課が残っていた。異世界生活六十日目。前日までのアストレアの人口は百九十二人である。


 皇牙は広間へ戻ると、《英霊召喚ガチャEX》を開いた。


【無料召喚:3/3回】

【国家人口:192人】

【SR以上排出率:5%】


「さあ来い! 面倒な事件を全部片づけてくれる偉人! できれば俺が寝てる間に解決してくれる奴!」


「殿。それでは召喚された方がお気の毒です」


「ちゃんと休みも給料も出すって! 俺が欲しいのは優秀な人材であって、奴隷じゃねえからな!」


 勢いよく引いた三回の結果は、N厨房配膳補助のフリッツ、N道具修繕補助のリゼ、R街道警備補助のアルノルトだった。


「おっ、街道警備か! これはいい引きだな!」


 皇牙は三人を歓迎し、受け入れ担当者へ引き継いだ。アルノルトにはまずディランからアストレア周辺の道や警備体制を教わってもらうことにする。仕事に慣れたら、商隊の安全を守る力になってくれるだろう。


【無料召喚:0/3回】

【国家人口:195人】

【SR以上排出率:5%】


「百九十五人! あと五人で二百人じゃねえか!」


 画面を閉じた皇牙は、満足そうに伸びをした。これで今日の仕事は終わり、と言いたいところだが、廊下の向こうからコルベールがやってくるのが見えた。手にした帳簿が薄いことだけは救いだった。


「皇牙様。昨日までに集まった許可証の記録について、勘助殿と確認したいことがございます」


「……三行で頼む!」


「偽の許可証は三十六枚販売され、銀貨三十六枚が集まっております。そのうち十二枚は販売者の取り分、残る二十四枚は北の倉庫へ送る取り決めでした」


「ほう。それで?」


「倉庫へ預けられた箱について、商人組合の責任者から協力を得られました。中身と預け主を、現地で確認できることになっています」


 皇牙は顎に手を当てた。ようやく金の行き先が分かりそうなのはありがたい。しかし、わざわざ北の宿場まで往復するのは面倒である。


「で、俺に何をしてほしいんだ?」


「バットゥータ殿たちを、倉庫までお連れいただければと。現地での確認は私たちが担当します」


 皇牙は少し考えてから頷いた。自分の転移なら、同行者を連れて遠方へ移動しても時間はほとんどかからない。大勢の商人が街道を歩いているのに、調査のためだけに何日も使うのはもったいなかった。


「よし、転移だけなら任せろ! ただし、現地での細かい話は全部頼むぞ!」


 その日の昼前、皇牙は巴、勘助、コルベール、バットゥータを伴い、北の宿場へ向かった。宿場の広場は以前バットゥータと訪れていたため、転移先にも困らない。人目の少ない外れへ移動し、そこから倉庫まで歩くことにした。


 倉庫は街道の分岐点に近い場所にあり、周囲には荷馬車が数台停まっていた。商人組合が管理する施設らしく、入口では年配の管理人が帳簿をつけている。


「お待ちしておりました。例の荷物については、こちらで保管しております」


 管理人は一行を案内し、奥の棚から小さな木箱を取り出した。箱には赤い紐がかけられ、封の部分には商人組合の印が押されている。


「預けられたのは三日前です。中身は銀貨二十四枚と申告され、受取人が来るまで開けないよう頼まれておりました」


 コルベールは記録に目を通した。預入日は確かに帳簿と一致している。管理人に立ち会ってもらい、封を確かめたうえで箱を開けると、そこには銀貨が二十四枚、布に包まれて収められていた。


「……数は合っておりますな」


 コルベールは銀貨を並べ、すべての枚数を確認した。販売された許可証三十六枚から、販売者フェルナーの取り分十二枚を差し引けば、残りは二十四枚。帳簿に記された金額と、箱の中身は一致している。


「なるほど。少なくとも、この分の銀貨は確かにここへ預けられていたわけか」


 皇牙が頷くと、勘助は管理人へ視線を向けた。


「ところで、この箱を預けた人物について覚えておられますかな?」


「ええ。ラウル・ハイゼンと名乗る男です。灰色の外套を着ておりました。左の頬に古い傷があったので、よく覚えております」


 バットゥータの目が鋭くなった。


「……灰色の外套に、左頬の傷。フェルナーが話していた男の特徴と一致しますね」


 実際、昨日の夕方に届いた追加証言には、ベルクを名乗る男の隣に灰色の外套の人物がいたと記されていた。顔立ちについても、左頬の傷が特徴として挙げられている。


 皇牙は腕を組んだ。


「じゃあ、そのラウルって奴が、金を運ばせてた張本人ってことか?」


「少なくとも、銀貨をこの倉庫へ預けた人物であることは確認できました。フェルナーの証言とも一致しています」


 バットゥータが答える。


 勘助は倉庫の奥を見渡した。箱がまだ引き取られていないことを確かめると、管理人へ声を落として尋ねた。


「受取人は、いつ来る予定だったのでござるか?」


「本日の夕刻です。ラウル本人が取りに来ると言っておりました」


 その答えを聞いた勘助は、わずかに口元を緩めた。


「……なるほど。では、ここで待つ価値がありそうですな」


 皇牙は思わず顔を上げた。


「えっ、待ち伏せするのか?」


「はい。もちろん、倉庫の管理人殿にご協力いただいたうえで、でござる。ラウルが現れれば、銀貨の行き先について直接話を聞けます」


 皇牙は楽しそうに笑った。ようやく調査だけで終わらない展開になりそうだった。


「いいじゃん! あとは本人に聞けば早えだろ!」


 勘助は管理人へ事情を説明し、協力を求めた。無理に身柄を押さえるのではなく、まずは本人に銀貨の受け取り理由を尋ねる。逃げようとした場合に備え、巴が近くで警戒することになった。


 待つこと一時間ほど。倉庫の前に一頭立ての馬車が停まり、灰色の外套を着た男が降りてきた。男は周囲を一度見渡してから、管理人へ声をかける。


「ラウル・ハイゼンだ。預けた箱を受け取りに来た」


 管理人が頷き、奥へ案内しようとすると、勘助が静かに立ち上がった。


「少々、お話を伺ってもよろしいかな」


 ラウルの表情がわずかに強張った。


「……誰だ、お前たちは」


「アストレアの者です。あなたが預けた銀貨について、確認したいことがございます」


 勘助の言葉に、ラウルは一瞬だけ目を細めた。次の瞬間、踵を返して倉庫の外へ駆け出そうとする。


「おっと、逃げるのはなしだぜ!」


 皇牙が軽く指を動かすと、土属性魔法で足元の地面が盛り上がり、ラウルの両足を動かせなくした。男が驚いて振り返ったところへ、巴が素早く近づき、腰の短剣を抜き取る。


「動かないでください。抵抗なさらなければ、危害は加えません」


 巴の凛とした声に、ラウルは顔を引きつらせた。


「くそっ……! 何なんだ、お前らは!」


「それはこっちの台詞だ! 人の街で勝手に許可証なんか売りつけやがって!」


 皇牙が睨みつけると、ラウルは何か言い返そうとして口を閉ざした。


 勘助は落ち着いた声で尋ねた。


「あなたが、この銀貨を倉庫へ預けたのでござるな?」


「……ああ。だが、それが何だというんだ」


「その金が、偽の通行許可証を売って集められたものだと知っておられましたか?」


 ラウルは答えなかった。しかし、コルベールが帳簿を広げ、販売枚数と銀貨の数が一致していることを示すと、次第に表情が険しくなっていった。


「……あの馬鹿どもめ。記録を全部残しやがって」


 その一言で、皇牙たちは顔を見合わせた。


 ラウルは自分が金を受け取る役目だったことを認めた。許可証を売るよう指示したのも、グレゴールへ街道の通行を妨げさせたのも自分だという。ただし、子爵家の正式な命令だったかと尋ねられると、首を横に振った。


「……俺が勝手に考えた商売だ。子爵家の名前を使えば、商人は疑わずに金を払うと思ったんだよ」


「じゃあ、ベルクはどうした? あいつも仲間なのか?」


 皇牙が問いかけると、ラウルは顔を背けた。


「……帳簿をつけさせただけだ。あいつがいれば、子爵家の印を真似するのも簡単だった」


 勘助はすぐに口を挟んだ。


「そのベルク殿は、今どこにいるのでござる?」


 ラウルはしばらく黙っていたが、皇牙が逃がさないと告げると、観念したように答えた。


「……宿場の外れの貸家だ。金を分けるまで、そこで待たせている」


 皇牙は深く息を吐いた。ようやくベルクの居場所が分かったのだ。


 その後、勘助は宿場の責任者と連絡を取り、ラウルの身柄を預かってもらうよう手配した。銀貨と帳簿も証拠として記録し、勝手に持ち去らないよう保管を依頼する。


 皇牙は巴とバットゥータを連れ、教えられた貸家へ向かった。


 建物は宿場の外れにある小さな平屋だった。扉を叩くと、しばらくして若い男が顔を出した。疲れた表情をしたその男は、バットゥータが名前を尋ねると、戸惑いながらもベルクだと答えた。


「……あなた方は?」


「アストレアの者です。偽の通行許可証について、お話を伺いたく参りました」


 バットゥータが名乗ると、ベルクは目を見開いた。


「……あの許可証が、もう知られているのですか?」


 ベルクは、ラウルに頼まれて印の見本や帳簿の書式を渡したことを認めた。ただし、実際に商人を脅して販売するとは知らなかったという。自分にも責任があると気づいたときには、すでにラウルから口止めされ、城館へ戻れなくなっていたらしい。


 それが本当かどうかは、今後の調査で確かめる必要がある。しかし、少なくともベルクが無事であることは確認できた。


「……なるほどな。まあ、詳しい話は勘助たちに聞いてもらうか」


 皇牙は腕を組んで頷いた。ようやく事件の中心にいた人物たちの居場所が分かり、偽の許可証で集められた銀貨の一部も確保できた。


 これ以上、同じ手口で商人を騙すことは難しいだろう。


 帰路につく前、皇牙は宿場の責任者へ礼を伝えた。ラウルの身柄や証拠を預かってもらう以上、きちんと感謝しておきたかった。


「助かったぜ。あとは子爵家にもちゃんと確認してもらうから、よろしく頼むな!」


 宿場の責任者は深く頷いた。


 夕方、アストレアへ戻った皇牙は、ようやく城館の椅子へ身体を沈めた。勘助とコルベールは集めた記録を整理し、オスカーへ送る報告書の準備を始めている。


「……ふう。これで偽の許可証の件は、ひとまず片づいたってことでいいのか?」


「はい。販売を指示した人物を特定し、商人への被害を防ぐ手立ても整いました。ただし、子爵家の内部でどのような責任を問うかは、先方との協議が必要でござる」


 勘助の返答に、皇牙は満足そうに頷いた。


「よし! じゃあ、それは任せた! 俺は黒竜の門を完成させる方に戻るぞ!」


 巴が小さく笑った。


「殿。今日は随分とお働きになりましたね」


「だろ? だから明日は絶対休む!」


 皇牙は胸を張って答えた。


 その夜、城館の書斎ではコルベールが銀貨の記録を整理していた。三十六枚の許可証で集められた銀貨三十六枚。そのうち二十四枚は倉庫で確認され、残る十二枚は販売者の取り分として記録されている。


 金額自体は大きくない。しかし、その背後で商人たちの往来を妨げ、他家の名を利用して金を取っていた事実は、決して軽いものではなかった。


 勘助は報告書を閉じ、窓の外を見つめた。


「……さて。次は子爵家が、どう答えるかでござるな」


 アストレアの街には、夜の静けさが戻りつつあった。


 皇牙が守りたかった日常は、今日も変わらず続いている。

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